トランスローカル
コメカ 11月、大阪維新の会によって推進されてきた「大阪都」構想の2度目の住民投票が行われ、再び否決される結果になりました。都構想は実現していないものの維新に対する支持は大阪においてなお根強く、「右」側からの「『デモクラシー』とは別の道もアリ」という感覚の強い顕在化を、以前から感じています。
吉本興業所属のお笑い芸人である小籔千豊は『SAPIO』(2016年5月号)において、「僕にとって強いリーダーシップは『独裁』と一緒の意味です。行きすぎた民主主義よりはまだ独裁のほうがええんやないかなと思います」「ひとりの優秀な人をみんなで選んで、その人がみんなのことをひとりで決める『ライト独裁』なんてどうですか」(小籔千豊「行きすぎた民主主義よりは独裁のほうがええ」)と発言していましたが、維新や吉本が作り出している磁場のようなものをとてもよく表している言葉だな、と当時感じました。かつての橋下徹や現在の吉村洋文に対する支持者の欲望というのは、小籔が表現したような強権性の体現を望むものだと思いますし。「やせがまん」としての民主主義に対して「もうがまんできない」と叫ぶ声に、では自分はどのように返答し得るのか、ということについても悩みます。
パンス 小籔の言う「決めてくれる政治家」が人格を持たないシステムになったら、ユク・ホイが批判するところの「中華未来主義」に近づきそうですね。資本主義のユートピア。実際日本はそっちを目指していくのかもしれません。吉本興業的お笑いの人々は、本来の仕事を超えてオピニオン・リーダー的な役割を担っており、影響力も大きいです。
そこに対抗する言論は、今のところ「デモクラシー」を再興しようという流れで進んでいますが、それが便宜的であり、「やせがまん」であるという自覚はまだあまり浸透していないように見えます。現代の日本は80年代アジアの「民主化運動」のような段階で、「脱国家」を考えるところまでは辿り着けていないのかもな、と、今年のもろもろを見ては気になっていました。なので、民主化後数十年、荒波に向かっている韓国社会などがモデルケースのようにして参考にされているのでしょう。最近は、今一度、学校の管理教育であったり、組織の新陳代謝の弱さといった問題に立ち返ってみたいと思っています。この社会を構成しているのはなんなのか考えるという意味で。
そろそろ終盤になってきましたのでプシクさんに質問させてください。米国の左派による「バイデン政権でもカバーできない」動向は、来年以降どのように展開するとお考えでしょうか。気になっております。
プシク ポピュリズムが限界を露呈させたのも今年でした。それは、実は、ローカリズムの変種に過ぎなかったのです。ただし、このローカルは、「地方」よりも「ローカルコンピュータ」のローカルです。どこともつながらないスマホは無意味であるように、今のローカルは《トランス(横断的)ローカル》が標準です。グローバリズムはローカルを地球規模で統合しようとし、ポピュリズムは単独のローカルだけで行こうとしました。
コロナで国も社会も個人も、グローバルな関係は見事断ち切られ、ポピュリズム的な孤立でも切り抜けられなくなりました。トランスローカル性がはっきりしたのです。しかし、「国」、「州」、「都」、そして「区」ですら、ローカルの単位としては大き過ぎ、この動向に対応できません。また、この状況での環境は、従来的な「自然環境」ではなく、バイオ・電子的な環境です。この点で、米国の場合、注目はジョージア州でしょう。ここは、カントリーミュージックの発祥地であるだけでなく、世界初の衛星放送CNNの発祥地でもあります(つまり土着ローカルと脳天気グローバル)が、今回の大統領選で草の根的な左派からメジャーな左派までが反トランプで結束しました。そういうトランスローカルな「創発」がなぜ起こったのか、そのへんが、米国だけでなく、政治の未来と無関係ではないでしょう。
パンス ありがとうございます。トランスローカルな状況に対して文化がどう反応するか、どんなものが生まれてくるか、期待したいところです。それこそ僕は、国内の「ローカルな」事象についてうじうじと悲観的になってしまいがちなんですが、ちょっと前向きに考えたくなってきました。
コメカ グローバリズムとローカリズム(及びポピュリズム)、それぞれの盛り上がりやせめぎ合いが起こりつづけたのがこの10年だったと思うのですが、そこに大きな状況変化が生まれたのが2020年であり、そしてその変化を本当にヒリヒリと感じることになるのはむしろこれからなのだろうな、と思います。
全面接続でもスタンドアローンでもない環境、トランスローカルな環境の中に生きるしかない自分たちのことを、文化の面からも社会の面からも、今後も考えつづけたいと思います。プシクさん、ありがとうございました!
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