新しいサブカルの教科書!?『ポスト・サブカル焼け跡派』誕生秘話

2020.2.4
TVOD『ポスト・サブカル焼け跡派』

文=パンス 編集=森田真規


新しい10年の幕開け、2020年代のはじまりにすごい本が発売になった。『ポスト・サブカル焼け跡派』。しかも刊行した出版社は、『Quick Japan』の3代目編集長・北尾修一氏が2017年に立ち上げた百万年書房だ。
著者はTVODという84年生まれのふたり組のテキストユニット。QJ読者なら絶対に読んでおきたいこの本の誕生秘話について、TVODのひとりであるパンス氏に寄稿してもらった。


「カルチャーに政治を持ち込む」とは――TVOD『ポスト・サブカル焼け跡派』について

2016年夏、西新宿・思い出横丁の「岐阜屋」にて、餃子をつまみビールを飲みながら、おもむろにコメカ君が「ふたりでなんかやりませんか?」とつぶやいた次の瞬間、ガシッと握手をしたことを思い出す。そんな「友情・努力・勝利」みたいなシチュエーションなど過去に経験したことがなく、むしろどちらかというとふたりともそういう「熱さ」的な文化を避けてはじっこのほうをトコトコ歩くような人生だったので、いまだに、なぜあのとき即座に握手したのかがわからない。

とにもかくにも始まってしまったのだ。敬愛するダニエル・ミラー(The Normal)から引用して「TVOD」と名乗り、気がついたら数年後には、ふたりで書いた本が書店に並んでいた。

『ポスト・サブカル焼け跡派』には、上記の「握手事件」が起きる前から、ふたりであーだこーだと話していた内容が投入されている。もともと大学の友人で、卒業してからは何年も会っていなかったが、ひょんなことから再会したのが2015年頃だったか。折しもSNS上では「カルチャーに政治を持ち込むか否か」といった議論が盛んだった。アーティストが社会問題に対して声を上げると「そんなこと言わないでください」というファンからの声が出て、物議を醸す。繰り返されるそんな出来事についてどう思うか、といった話をよくしていた。僕らは一介のカルチャー好きもしくは批評読者に過ぎないのだが、そんな視点から何かできることがないかなと考えて始めたのが、「カルチャーに政治の話を持ち込む」ふたりの雑談をテキスト化してウェブにアップすることだった。

淡々とその作業を続けていたら、百万年書房・北尾修一氏に声をかけていただいた。僕らは思春期の頃、北尾氏が編集長時代の『Quick Japan』を穴の開くほど読んでいたので、最初の打ち合わせの際はオロオロしながら新宿の「らんぶる」に行ったのだった。はたから見たら相原コージ・竹熊健太郎のマンガ『サルでも描けるまんが教室』におけるふたり組+辮髪(べんぱつ)をブルンブルン振るう編集者のような風景だったに違いない(この文章で伝わるかどうかはわからないのでぜひ読んでみてください)。そして「百万年書房web」で連載を開始、大幅加筆そして注釈+年表を付けたのが本書である。

「カルチャーに政治の話を持ち込む」試みから出発したものの、持ち込んでる表現が偉い、とか、これからは持ち込む時代だ!などとスローガンを投げて締めるような内容にはしたくなかった。なぜならば、僕ら自体が、現在に至るサブカルチャーを楽しく摂取してきた張本人だからだ。ではどうするのか。まず、スパンを極めて長く取ってみた。50年ほどの流れを追っている。そこで、ミュージシャンを挙げて、その存在と、取り巻く社会状況の変遷を描き出すことに努めた。コメカ君は個人の「キャラクター」を徹底的に深掘りし、僕はそのまわりについて語る、餅つきのような役割分担となったが、普段ふたりで雑談しているときも同じような具合で話しているので、その極端な延長がこの対談ということだ。

そしてかつて「おもしろかった」もろもろが、もしかしたら機能不全を起こしているかもしれない現在の状況を「焼け跡」として捉えている。従って、わかりやすい結論こそないものの、ひとつの歴史観を提示している。

とはいえ、それを押し付けるつもりもない。歴史とはさまざまな人々の記憶と言葉の集積であり、違う視点があったらそれもチェックしたくなってしまうのがTVODなのだ。僕らはいつも、言葉を聞きたいと思っている。


TVOD『ポスト・サブカル焼け跡派
2020年1月31日発売 2,400円(税別) 百万年書房


この記事が掲載されているカテゴリ

パンス

Written by

パンス

テキストユニット“TVOD”の片方。歴史が好き。TVOD初の単行本『ポスト・サブカル焼け跡派』発売中。最近は韓国を中心に東アジアの近現代史とポップカルチャーを追う日々。DJするのも好きです。

CONTRIBUTOR

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森田美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。