コロナ禍で浮かび上がった「健康という正義」や「人間中心主義」に反旗を翻す本ベスト3

2020.12.9


「健康」は必ずしも第一ではない

『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』は、そんな私の疑念に真っ向から答えてくれた本だった。東京大学医学部卒の著者によって書かれた本書は、新型コロナウイルスの本でも、医学書でもない。病気や健康にまつわる迷信を読み解いた上で、自分にとって大切なものを守るための指針を示してくれる本である。

『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』大脇幸志郎/生活の医療社

第1章の「痛風、尿酸、プリン体」の冒頭では、ビールの広告に書かれているプリン体の話が登場する。私たちはプリン体の少なさがアピールされていることで、私たちはプリン体が身体に悪いものという認識を強める。プリン体が体内で尿酸に変わり、痛風になるという知識もなんとなく知っている。

しかし、実際にはビールに含まれているプリン体は、魚や肉に含まれているそれの10分の1か100分の1であるという。さらに、プリン体は体内でも作られており、その量は食べ物から摂取するそれの数倍とも言われている。そして、大酒飲みが必ず痛風になるわけでもない。

にもかかわらず、私たちは酒を飲むのはよくないからやめるようにと言われつづけている。「万一痛風になっても後悔しないと納得した上で、ビールを飲む自由はあるはず」なのに。

酒やタバコ、甘いものは「特別扱い」され、それらを嗜むときにはどこか背徳感すら伴う。しかし、高齢者が餅を食べて死ぬからといって餅を食べることを、生ガキを食べるとノロウイルスに罹るからと言ってカキを食べることを、子供を産まないと乳がんになりやすくなるからといって子供を産まないことを責める人はいない。善し悪しの指標は曖昧だったり、リスクが発生する可能性は限りなくゼロに近かったりする。

だとしたら、それは「信仰」の話ではないか。つまり、「健康第一」を信仰する自由も、健康と健康以外の人生の豊かさや選択をトレードオフで考える自由もあるのだ。本書では「健康のために生活に気をつけなければいけないという考えは、迷信だ」とまで、力強く肯定してくれる。

何もかもが不明瞭ななかで「健康」が支持層を拡大し、選択肢だけがどんどん制限される環境に、力を奪われるような感覚を覚えていた。生きる上で健康は大事だ。感染対策を徹底するのも“当然”かもしれない。しかし、私たちは健康を損なう多少の可能性を取ってでも、自分の人生における豊かさを選び取ってもいい。そんな本書の主張に、私はずいぶんと救われたのだった。

肉食を通じて考えるヒトとしての“真の”驕り

コロナウイルス関連の話でいえば、「人間vsウイルス」というスローガンもあちこちで見てきた。「今こそ人類の団結を」「打倒ウイルス」と湧き立つ人々をよく目にしたが、そのたびに私は人間の欺瞞を感じて悲しくなってしまった。

人類団結も人と人との間の紛争をなくすこともけっこうなことだ。しかし、同じ地球上にある生命体でありながら、人間である自分の優位性を絶対視しているような発言が、愚かで悲しいと思ったのだ。そんなことをきっかけに、人間以外の生物に対して驕った態度を取っていないかどうか、おそらくは存在をもってそんな態度を取っている自分の生活を改めて見つめ直すようになったのである。

そんな私にとって、『肉食の哲学』は新鮮な視点をくれるものだった。本書は、「ビーガンへの反論」をテーマに一般向けに書かれたコンパクトなエッセイだ。

『肉食の哲学』ドミニク・レステル 著/大辻都 訳/左右社

本書において彼が追求するのは、体質や嗜好ではなく「動物を殺して食べるのは倫理に反する」とする“倫理的ベジタリアン”に対する反論である。

動物を殺して食べるのが倫理に反するといえるなら、どうして植物を殺して食べるのは倫理に反さないのか。

牛を殺すのはダメで、蚊やゴキブリを殺すことを咎めないのはなぜか。

短いエッセイの中に、抗議の根拠が執念ともいうべき密度でぎっしり詰め込まれている。中でも私が印象に残ったのは、「ヒト以外の捕食動物に殺されて食われる動物がいるなかで、どうしてヒトだけが動物を殺して食べてはいけないのか」という問いである。

著者は「捕食関係によって成り立ってきたエコシステムにヒトだけが関与しない道を選ぶことは、ヒトだけが特別な動物だと言っているに等しい」と話す。つまり、倫理的理由から肉食を拒絶するベジタリアンは、自分の動物性(≒加害性)を否定したいだけなのではないか、と。

確かに、動物に対して気遣いをしようとするとき「動物を殺すのは『かわいそう』」と思うのは“真っ当”な感じがする。しかしながら、それは食べて食べられての食物連鎖の中で生きる動物の本質や自分の動物性を否定することになるから驕りなのかもしれない。本書は「そんなふうに“足を踏んで”いたのか」と気づかせてくれる本だった。

(ちなみに、著者は“倫理的ベジタリアン”を批判するだけでなく、自然や動物をまったく顧みずに肉食を謳歌する“チンピラ肉食者”も非難しており、私たちは“倫理的な肉食者”になるべきと結んでいる。問題は動物を食すことではなく、過剰に食すこととして、「肉食の抑制と儀礼化」の模索を提案しているのだ)

今すぐに肉食をはじめ、すべてのシステムを変えることはできない。しかしながら、どうすれば、人間以外の生物を含めた他者の足をできるだけ踏まずにすむのかということは、引きつづき目を凝らして考えていきたい。

モノに霊や魂を認めることこそ、人間であることの最果て

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佐々木ののか

(ささき・ののか)文筆家。「家族と性愛」をテーマとした、取材・エッセイなどの執筆をメインに、映像の構成・ディレクションなどジャンルを越境した活動をしている。2020年6月25日に初の著書『愛と家族を探して』(亜紀書房)を上梓した。

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