「投票しても何も変わらない」というあなたへ。日本の民主主義は「はりぼて」になっていないか(古田大輔)

2020.10.2

議員たちの狼狽する姿はコメディのよう

まあ、出てくる出てくる。架空請求、水増し請求、カラ出張、それらの税金は飲み食いや選挙活動などに使われていた。

最初は横柄に記者の質問に答えていた議員たちが、矛盾を突かれ、疑惑の証拠を突きつけられ、汗をダラダラ流し、涙を浮かべ、謝罪する。

はりぼて 場面写真2
『はりぼて』(c)チューリップテレビ

詳細はぜひ映画館で観てもらいたい。これは映像で観たほうが絶対にいい。次々と出てくる惨めな言い訳と狼狽する姿に、映画館では笑い声すら上がった。ほとんどコメディだ。

「自民のドン」の不正受給額は699万6088円。議員辞職し、詐欺罪で懲役1年6カ月執行猶予4年の有罪判決まで受けた。結局、一連の事件で議員辞職したのは計14人にのぼった

「そんなこと、みんなやっている」

これは、富山市議会だけの問題なのか。

政務活動費は、どこの議会にもある。そして、こういう架空請求や水増し請求の話は、毎年のようにどこかで出てくる。私自身も新聞記者時代に記事を書いたことがある。

彼らの多くは最初から税金をくすねてやろうと議員になったわけではないだろう(と信じている)。映画では、ある議員が追及を受けて、思わずこう反論する。

「そんなこと、みんなやっている」

悪人ではないにしても、こんな言い訳で税金を無駄遣いされては、たまったものではない。この映画を観た人は、こういう人が選ばれないようにするためにも投票は大切と思うか、政治に絶望してますます距離を置くか、ふたつにひとつだろう。

政治に絶望する前に考えてほしいこと

政治に絶望する前に考えてもらいたい。そもそも政治の世界も人間社会も天国ではない。なんでもできる聖人君子なんて、そんなにいるもんではない。政策におけるたったひとつの正解もそうそうない。

誰かが政策を決めないといけないし、法律や条例を作らないといけない。我ら欠陥だらけの人間が、欠陥だらけの誰かを選ぶのが選挙だ。より欠陥が少なそうで、自分と考えが合いそうな人を見定めながら。

そうしなければ、誰か他の人が選ぶか、現状で強い人がいつまでも強いままだ。そうして監視の力が弱まると、人は易きに流れる。

だから、ジャーナリストは取材をつづけないといけないし、有権者は問題のある候補が選ばれないように考えて投票しなければいけないし、時にはデモのような抗議活動も必要だ。それでも、めんどくさい?  誰か有能な人に権力を集中させた方が楽? アクトン卿の言葉には、つづきがある。

「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対に腐敗する。偉大な人間は、ほぼ常に悪人である

最後にもう一度、投票をしない4つの理由の話に戻りたい。

「1票で政治は変わらない」
「投票したい人がいない」
「誰に投票するべきかわからない」
「そもそも関心が低い・ない」

関心が低い人や、誰に投票するべきかわからないという人に、判断材料となる情報を提供し、関心を高めることもニュースメディアの大切な役割だ。

それが果たせなければ、民主主義もメディアも「はりぼて」だ。この映画は政治家の堕落だけでなく、メディアの課題も問うている。

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    『はりぼて』

    監督:五百旗頭幸男、砂沢智史 
    撮影・編集:西田豊和 
    プロデューサー:服部寿人 
    音楽:田渕夏海 
    上映時間:100分
    配給:彩プロ 
    (c)チューリップテレビ
    ユーロスペースにて大ヒット公開中

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