外国人差別を助長し、都合のよいときだけ性犯罪を糾弾する悪(小川たまか)

2020.9.26
小川たまか

文=小川たまか 編集=田島太陽


「産後うつは甘え」というツイートで批判を浴びている女性アカウントがある。わざと顰蹙(ひんしゅく)を買って人の注目を引こうとする、いわゆる「釣りアカウント」である感は否めないが、あえて釣られてでも指摘しておきたい。外国人差別につながるツイートについてだ。


「産後うつは甘え」「コロナに正露丸」わざとらしいツイートの数々

ツイッターで、ある女性ユーザーA氏の「産後うつ」に関する発言が批判を浴びている。

もし奥様が「産後うつ」を言い訳にして家事や育児を怠ったら怒鳴りつけて躾けましょう。私は産後3ヶ月で衆議院議員選挙を全力で駆け抜けました。「産後うつ」は「甘え」です。

A氏のツイッターより

ツイート内にもあるように、A氏は2017年の衆院選の際に広島5区で希望の党から出馬。落選している。以前から「新型コロナウイルス。正露丸が効く」「悠仁さま14才のお誕生日。(略)女性から言わなければならないのです。大多数の女性が悠仁さまの下に集うべきを」などのツイートを行い、界隈をざわつかせていた。

一度は出馬した人物であり現在も本名でツイートしていることから、この記事内でも名前を挙げてよいのかもしれないが、そうしない理由はふたつある。

ひとつは、数々のツイートからダダ漏れるネタ臭。あえて顰蹙を買うツイートをして耳目を集めようとしているようにも見え、そうであるならば売名に手を貸すのは憚られる。

もうひとつは、現在ツイッター上で、これらのツイートは本人によるものではないのではないかと指摘されていること。近しい関係者の男性がA氏のアカウントを使ってツイートしている疑惑が取り沙汰されている。

A氏のツイートは2018年にも炎上しており、その際の『J-CASTニュース』の取材には、このアカウントは「事務所広報スタッフ」が運営していると回答。

さらに、

スタッフ一同で多角的な検討した結果、(A)が20代の女性という属性を考え、『(私どもの考える)政治的関心のない20代女性と同じような表現方法で訴えれば政策や主張を効率的に訴えることが出来るのではないか』と考え、(略)このような形となりました

※(A)の部分は女性の氏名 https://www.j-cast.com/2018/01/17318910.html?p=allより

などという返信があったという。

「政治的関心のない20代女性と同じような表現方法」のあたりについても3日かけてお焚き上げしたいところだが、今回の本題ではないので先を急ぎたい。

外国人差別につながるツイートが1.1万回以上「いいね」

裁判所

産後うつのツイートについては、すでに『BuzzFeed JAPAN』や『女性自身』が記事を出し、産後うつを軽視することの危険性を指摘している。

一方で私が看過できないと感じたのは、9月6日にツイートされた次の内容だ。

名古屋地裁が強制わいせつをした外国人移民を『電車内で性行為をしない日本のルールを知らなかった』と無罪判決。
さいたま地裁は公衆トイレ内で強姦された女性の体から精液が発見されたが『言葉を知らず嫌というのがわからなかった』と外国人移民に無罪判決。
日本人差別のレイシストがいる。

A氏のツイッターより

このツイートは9月24日までに7600回以上リツイート、1.1万回以上いいねされている。リプ欄では「こんな判決出してたら外国人の犯罪天国になるだろうに」「外国人は日本ではなんでもありですね」などのコメントが並ぶ。

ネット上に跋扈する外国人差別的な言説に敏感な人であれば、これが「外国人移民」に対して特定のレッテル貼りをするためのツイートであることはすぐにわかるだろう。このアカウントが、どのような層を「顧客」とターゲティングしているかもわかりやすい。

私は、2019年3月に4件つづいた性犯罪の無罪判決に抗議するために始まったフラワーデモに毎回参加しているし、これまでも現在の性犯罪に関する刑法とその運用の中で被害を被害と認められない当事者が多くいることを繰り返し記事にしてきた。現在法務省で行われている改正のための検討会に注目し、暴行脅迫要件の緩和などさらなる改正を求める立場である。

つまり、現在の性犯罪に関する刑法や、その運用には課題があると感じている。

ただし、A氏によるこの「名古屋地裁が……」から始まるツイートは、外国人差別や、もしくは一部の保守層が忌み嫌う「人権派」批判につなげたいがためだけの、不正確なものである。それを指摘しておきたい。

外国人のケースだけを切り取り、あえて誤解させる情報操作


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小川たまか

(おがわ・たまか)1980年、東京都品川区生まれ。文系大学院卒業後→フリーライター(2年)→編集プロダクション取締役(10年)→再びフリーライター(←イマココ)。2015年ごろから性暴力、被害者支援の取材に注力。著書に『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス)。自称フ..

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