東京オリンピックをアスリートは簡単に諦め切れない当然。『いだてん』をヒントに「リモートオリンピック」を提案する

2020.9.10
近藤正高クイックジャーナル

文=近藤正高 編集=アライユキコ 


世界中がコロナ禍のなか、来年の東京オリンピック・パラリンピックを中止せよという声が高まるのは当然だ。だが、開催に希望を見出したい大会関係者やアスリートの気持ちも事情も切実だ。オリンピック史に詳しいノンフィンクションライター近藤正高は「リモートオリンピック」を提案する。


アスリートの言動に冷ややかな世間

本来なら東京でオリンピック・パラリンピックが開催されるはずだった夏が終わった。9月7日、折しも7年前に2020年の東京大会開催が決まったその日、国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ副会長はフランスメディアの取材に応え、開催が1年延期されたオリンピックについて《大会は新型ウイルスに関係なく行われ、[引用者注:予定どおり]来年の7月23日に開幕する》とコメントした(『AFPBB News』2020年9月7日配信)。

これと前後して、7月23日には、新国立競技場でオリンピックの1年前セレモニーが開催され、白血病の治療をつづける競泳の池江璃花子が登場し、《世の中がこんな大変な時期に、スポーツの話をすること自体、否定的な声があることもよく分かります》、《ただ一方で思うのは、逆境からはい上がっていくときには、どうしても希望の力が必要だということです。希望が遠くに輝いているからこそ、どんなにつらくても前を向いて頑張れる》とメッセージを送った(『AFPBB News』2020年7月24日配信)。池江はこの翌月29日に約1年7カ月ぶりにレースに復帰している。

8月6日には、元陸上選手の為末大もスポーツ紙のコラムで、オリンピック開催について《私はぎりぎりまで頑張ってみようよという意見です》として私案を提言していた。それによれば、無観客試合も視野に、実施競技や参加選手を絞り込んだ上、1万人以下程度の人々が選手村と試合会場をバスで行き来するようなかたちであれば、開催も可能ではないかという(『日刊スポーツ』2020年8月6日配信)。

だが、こうした来年開催にまだ希望を残す大会関係者やアスリートの言動に対し、世間はどうも冷ややかだ。IOC副会長の発言は、ウイルスが「あろうがなかろうが」開催されるとして再延期や中止はあり得ないと示唆したため、無責任ではないかと批判が噴出している。1年前セレモニーでの池江の登場に対しては、大会関係者は来年の開催を正当化するために闘病中の彼女を利用していると厳しい意見も出た。為末の提案にも、ツイッターを見る限り否定的な反応が目立った。中には、「オリンピックの開催にこだわるあまり、コロナ対策が遅れたではないか」といったリプライもあった。それはまあ事実なのだろうが、アスリートに言う筋合いではないと思う。

東京オリンピックに対し否定的な意見が出てくるのは、確かに仕方がないところはある。開催が決まって以来、新国立競技場やエンブレムのデザイン選定をめぐるゴタゴタにはじまり、何度となく問題が持ち上がった。昨年にはマラソンが、炎天下での実施を避けるため東京から一転して札幌での開催に変更されている。そもそもオリンピックが真夏の暑い盛りに開かれることは招致の時点で決まっていたのだから、マラソンの変更には何を今さら感があった。それでなくても日本ではここしばらく大きな地震や台風が相次いでいる。そうしたリスクをどれだけ事前に想定して対策が取られていたのだろうか。コロナウイルスの感染が急速に拡大するなかでの関係各所の対応を見ていると、それもまた怪しいところだ。

『いだてん』に想を得て


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近藤正高

(こんどう・まさたか)1976年、愛知県生まれ。ライター。高校卒業後の1995年から2年間、創刊間もない『QJ』で編集アシスタントを務める。1997年よりフリー。現在は雑誌のほか『cakes』『エキレビ!』『文春オンライン』などWEB媒体で多数執筆している。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけ..

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