2020年夏、高校野球映画打線が火を吹いた。映画館のスクリーンに球児たちがいる


オグマナオト

いつもの高校野球の夏ではなかったけれど、今年の夏は高校野球映画が大当たりだ。スポーツライター・オグマナオトが3作品を紹介。球児たちの夏の歴史は途切れてはいない。

違う高校野球の魅力を発見できた夏

コロナ禍で本来の「夏の高校野球」が失われた2020年。それでも、各都道府県での代替大会のおかげで、また違った高校野球の魅力を発見できた夏だった、ともいえる。私が関わるスポーツ番組でも、例年以上に「強豪校ではない球児・野球部」を取り上げる機会が多く、強豪校と変わらない、そして強豪校とはまた違った最後の試合にかける思いなどを垣間見ることができた。

もっとも、毎年夏の甲子園が終われば夏の終わりを感じるこの時期、甲子園を舞台にしたセンバツ交流試合があったといっても、なんだか物足りず、夏が終わる気がしないのも確か。そんな物足りなさを埋めてくれるかのように、スクリーンでは今、高校野球を題材にした映画が3本も上映されている。特別な夏にスクリーンで楽しむ高校野球の魅力を紹介していきたい。

野球とは人とのつながり『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』

「『甲子園』という3文字には、本当にいろんな思いが詰まっている」

映画冒頭、こう呟くのはメジャーリーガー・菊池雄星(花巻東高校卒)。この作品では、まさに「甲子園」の3文字に魅せられた球児たち、そして監督たちのひたむきな“野球道”が描かれている。

映画『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』予告編(8月21日(金)全国順次公開)

ニューヨークを拠点に活躍する映像作家・山崎エマが監督を務め、2年前の「夏の甲子園・第100回記念大会」に挑む神奈川県の雄・横浜隼人高校と、大谷翔平や菊池雄星を輩出した岩手県・花巻東高校の球児とその指導者へ1年間にも及ぶ⻑期密着取材を敢行したドキュメンタリー映画だ。

もともとは、NHK(総合)で2018年に放映された『ノーナレ「遥かなる甲子園 Diaries of youth」』、2019年のNHK(Eテレ)『HOME 我が愛しの甲子園』、放送当時から高校野球ファンの間では話題を呼んだふたつのドキュメンタリーをさらに発展させた長編作品だ。これまで、有料の劇場公開作品で「高校野球の実際の試合映像」が流れることは記録映像以外ではあり得ないこと。NHK発の企画だからこそ成立した奇跡的な劇場作品といえる。

軸として描かれているのは、横浜隼人の水谷哲也監督。郷里の徳島にも取材を重ねて明らかになるのは、水谷監督の原点に地方公立校ながら全国を制した池田高校の存在があったこと。1983年、若かりし水谷青年、高3の夏。当時「最強」と呼ばれた池田高校に県大会で敗れて叶わなかった甲子園の夢を、監督として今も追い求めつづけている。

だが、けっして「甲子園至上主義」ではない。水谷が目指すのは、野球を通した人間形成。だからこそ「野球だけが唯一、人が点になるスポーツ。だから、『人』を大事にしなくてはいけない」と語る。

まさに、人と人のつながりの物語。そのつながりの先にいるのが、水谷を慕って横浜隼人でコーチ修行をした花巻東高校の佐々木洋監督であり、その花巻東から菊池雄星、そして二刀流のスーパースター大谷翔平が巣立ったのはご存知のとおり。映画では、そんな花巻東の野球に憧れ、岩手へと越境入学する水谷監督の次男・水谷公省もクローズアップ。名門野球部で1年秋から主軸を任されるまでに成長を遂げる。

70年代、80年代の池田高校による高校野球の盛り上げが、巡り巡って大谷翔平まで行き着き、次世代のスター候補も次々と育っていく……そんな大河ドラマのような高校野球の縦のつながりを感じられる作品といえる。

この映画で描かれるのは、変わろうともがきつづける愛すべき男たちだ。高校球界の中でも「革新派」と呼ばれる佐々木監督は、映画で「高校野球に古くていいものはたくさんある。新しく変えてかなきゃいけないこともある」と口にする。

では、何を変えるべきか? 佐々木監督がまず手をつけたのは高校野球部の定番、坊主頭。つまりは頭髪の自由化だ。

一方の水谷監督は、「私は昭和の頑固オヤジ」とうそぶき、坊主頭の伝統については「頭を乾かす暇があったらバットのひとつでも振りなさいよ」と、坊主頭の慣習をよしとする発言も出てくる。

映画の中で描かれたこのシーンはわずか2年前のこと。映画では描かれていないことではあるが、実は今年、横浜隼人野球部でも「頭髪自由化」を掲げたことがニュースになった。高校野球は変わりつづける。だから、100年つづいてきた、ともいえる。

この映画を観た人はぜひ、横浜隼人、花巻東、水谷監督、佐々木監督、水谷公省の「2020年の夏」の情報も追いかけてほしい。検索すればいくつもの記事が出てくるはず。彼らがどのような考えのもとでコロナ禍の夏を迎えたのか。そんな深掘りもできる点がこの映画の魅力といえる。

市川崑が手がけた『第50回全国高校野球選手権大会 青春』


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