2020年夏、高校野球映画打線が火を吹いた。映画館のスクリーンに球児たちがいる

2020.9.1

市川崑が手がけた『第50回全国高校野球選手権大会 青春』

高校野球は何が変わり、そして何が変わっていないのか? その意味で今こそ振り返りたいのが『第50回全国高校野球選手権大会 青春』だ。

『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』が描いたのは2018年の第100回大会に挑む球児と指導者たちの姿。そのちょうど50年前、1968年の第50回大会に挑む球児たちの姿、そして日本の風景を、『東京オリンピック』『ビルマの竪琴』などで知られる市川崑が手がけたドキュメンタリー映画だ。東京と大阪の一部映画館限定ではあるが、甲子園のない特別なこの夏、リバイバル上映されている。

50年前はまだ木製バット。ヘルメットを着用していない学校があるといった道具の進化以外にも、さまざまな面で高校野球は変わっていることに気づかされる。

たとえば、甲子園開会式における選手の入場行進。今年の甲子園交流会では入場行進そのものが行われなかったわけだが、指先の角度までそろった一糸乱れぬ姿を心待ちにしているファンもいる一方で、まるで軍隊のようだと批判の的になることも。

だが、50年前の球児たちの行進風景は、とても“ゆるい”。腕を地面と水平の角度まで上げる球児は、画面に映っている限りではいない。ここからわかるのは、「きびきびとした入場行進が高校球児らしい」というのは、“作られた伝統である”ということ。

選手宣誓にしても、50年前はまさに「定型文」と言いたくなる潔さ。それが今では、宣誓というよりもまるでスピーチ。むしろ、どんな趣向を凝らし、時事問題を盛り込んでくるのかという点ばかりに注目が集まる、これまた“新しい伝統”になっている。その良し悪しはあるにせよ、大きく変わった点のひとつだ。

こうした儀式面以外でも、今なら「小柄」と表現されてもおかしくない178cmの球児を「堂々たる体」と伝える実況アナウンサーの言葉からも、野球がスポーツ的に近代化されたのはこの50年のことなのだ、と発見ができる。

一方で、甲子園を目指す球児たちの必死さは変わらない。この映画では、前年冬から日本全国を駆け回り、市井の球児たちの練習風景からカメラに収めているのだが、日本各地で甲子園を目指し、野球に打ち込む球児たちのひたむきな姿は普遍的である、ということもわかる。

上映館限定のため、スクリーンで堪能できない場合はDVDでぜひチェックしてみてほしい。

『第50回全国高校野球選手権大会 青春』DVD/Happinet
『第50回全国高校野球選手権大会 青春』DVD/Happinet

グラウンドだけが高校野球ではない『アルプススタンドのはしの方』

ドキュメンタリー映画以外では、応援席から高校野球を捉えた映画『アルプススタンドのはしの方』も現在上映中だ。

映画『アルプススタンドのはしの方』予告編

『全国高等学校演劇大会』で最優秀賞に輝いた作品を映画化したもの。グラウンドは一切見せず、描かれるのは応援する理由を見失った4人の高校生とブラスバンド部が陣取るアルプススタンド。音以外の野球描写は一切なし、という思い切った手法が清々しい。

甲子園本大会を舞台にしながらロケ地が甲子園球場ではない。という点が気にならなければ、シンプルに青春映画として楽しめるのではないだろうか。高校野球を盛り上げるのは球児たちだけではない。無観客での試合が当たり前になった2020年に公開されたことにこそ意義がある映画といえるかもしれない。

いずれ、コロナ禍を過ごした2020年の球児たちが映画化されるときもやってくるはず。時代ごとに生まれる高校野球映画にも引きつづき期待していきたい。

この記事の画像(全1枚)




関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

オグマナオト

Written by

オグマナオト

福島県出身。ライター/構成作家。『野球太郎』『週刊プレイボーイ』『昭和50年男』などでスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。主な著書に『福島のおきて』『ざっくり甲子園100年100ネタ』『爆笑!感動!スポーツ伝説超百科』『甲子園レジェンドランキング』など。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構..

関連記事

オグマナオト

甲子園のない異常な2020夏。今こそ読みたい高校野球本、コロナに負けるなベスト

Netflixオリジナルシリーズ『マイケル・ジョーダン: ラストダンス』独占配信中

Netflix『マイケル・ジョーダン: ラストダンス』を観るべき4つの理由

決定「この野球マンガがすごい2020」コロナに負けるなベスト3

ツートライブ×アイロンヘッド

ツートライブ×アイロンヘッド「全力でぶつかりたいと思われる先輩に」変わらないファイトスタイルと先輩としての覚悟【よしもと漫才劇場10周年企画】

例えば炎×金魚番長

なにかとオーバーしがちな例えば炎×金魚番長が語る、尊敬とナメてる部分【よしもと漫才劇場10周年企画】

ミキ

ミキが見つけた一生かけて挑める芸「漫才だったら千鳥やかまいたちにも勝てる」【よしもと漫才劇場10周年企画】

よしもと芸人総勢50組が万博記念公園に集結!4時間半の『マンゲキ夏祭り2025』をレポート【よしもと漫才劇場10周年企画】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「猛暑日のウルトラライトダウン」【前編】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「小さい傘の喩えがなくなるまで」【後編】

「“瞳の中のセンター”でありたい」SKE48西井美桜が明かす“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「悔しい気持ちはガソリン」「特徴的すぎるからこそ、個性」SKE48熊崎晴香&坂本真凛が語る“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「優しい姫」と「童顔だけど中身は大人」のふたり。SKE48野村実代&原 優寧の“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

話題沸騰のにじさんじ発バーチャル・バンド「2時だとか」表紙解禁!『Quick Japan』60ページ徹底特集

TBSアナウンサー・田村真子の1stフォトエッセイ発売決定!「20代までの私の人生の記録」