Zoomの謎マナーがバカ過ぎて炎上、だが火元のほうが謎だった件

2020.8.1
米光一成ジャーナル

文=米光一成 編集=アライユキコ


テレワークにはマナーがある、Zoom画面にも上座や下座がある。そんなこと決められては敵わない。テレワークのマナー本が出るというツイートに憤り、噂の元を追ってみたら……。ゲーム作家・米光一成は意外な雲行きに困惑している。

みんな怒った怒った

Zoomの謎マナーがツイッターで炎上した。

会議の開始の5分前にはルームに入りましょう。
終わるときは深々と頭を下げながら会議終了ボタンを押す。
お客様より先に退出してはいけません。

そういったバカげたマナーが、『超基本 テレワークマナーの教科書』(西出ひろ子/あさ出版)という本に載っているというのだ。
みんな怒った怒った。ぼくも怒った。

マナー講師は、生産性を落とすので反社会的だ。
よけいなストレスをためる原因を捏造するな。
マナー講師は失礼クリエイターだ。

バッシングのツイートがたくさん流れた。
ぼくも、くだらないマナーを押しつけられるのは大嫌いだ。だから立腹しながら、バカマナーの弊害について書こうと決意し、調べ始めた。

だが、『超基本 テレワークマナーの教科書』の発売は9月3日。
この原稿を書いているのは7月30日。
まだ出版されていない。
出版社の公式サイトを見てみるが、そのような記述は見当たらない。
怪しいまとめサイトは見つかるが、出典がどこかはぜんぜん書かれていない。
発生源が、わからないのだ。
調べていくと、あるツイートが見つかる。日付などから勘案するに、このツイートが始まりのようだ。
だが、なぜ、この人が出版前の本の内容を知っているのか不明だ。
関係者でもないようだし、ツイートの書き方が乱暴なのだ。
信憑性があるとは思えない。

マッチポンプの炎上商法か

だが、本を出す前に、著者が短い記事やインタビューで似たようなことを言っているかもしれない。
そう思って、調査網を拡げた。
「ウェブ会議の正しいマナー」という記事を見つける。
『サンデー毎日』2020年06月21日号だ。
そこで、『超基本 テレワークマナーの教科書』の著者である西出ひろ子さんがこう答えている。

「『画面上で上司の顔が部下より下になるのは失礼』という情報について相談があり、驚きました。今は形式ではなく、ビジネスの目的に集中する時代で寛容さが大切。細かい心配はストレスをためるだけなので『気にしないように』と回答しました」

『サンデー毎日』2020年06月21日号「ウェブ会議の正しいマナー」

この記事では、ほかにも「上司がビデオ通話を切るまで、部下は待たないといけない」「ウェブ会議でもスーツ着用を強制する」といった会議の進行には直接関係ないマナーを「謎マナー」として紹介している。
うむむ。
謎マナーを否定し、「形式ではなく、ビジネスの目的に集中する時代で寛容さが大切」と語る人が、最初に挙げたような謎マナーを、本で主張するだろうか。

雲行きが怪しくなってきた。
もしかして、マッチポンプの炎上商法か、とも考えた。
炎上しがちな謎マナーを発売前に匂わせて、話題にする。
発売した本を買って読んでみたら、実は、そういった謎マナーを否定していて、「案外いいことが書いてあるマナー本じゃないか」とさらに話題にする。
という流れを想定しているんじゃないかと想像してみたりした。
いや、でも、それにしては雑だ。

今のところは、根拠なき炎上案件だと判断しておくべきなのではないか。本が出たら、確認してみることにしよう。

SNSが拡大して、情報のやりとりが瞬間的になった。先週の話題よりも昨日、昨日よりも今。瞬時に判断して、瞬時に発信する。今、今、今、今と、今だけが切り出され怒涛のように流れていく。
デマに振り回されるだけじゃない。どうでもいい仮想敵が無数に生み出される。
「どうでもいい敵を見つけ、うっぷんを晴らすために怒ってるだけなんじゃないか」
正直なところ、そんな徒労を感じている。
大切な話を置き去りにして、正義や怒りに火をつける条件反射ツイートだけが、ぐるぐると回り、目につき、それについて気持ちを動かされる。
なんにもならない無駄な争いに自分が加担してるのではないか。

《アテンション・レジスタンス》として

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米光一成

米光一成 (よねみつかずなり)ゲーム作家/ライター/デジタルハリウッド大学教授/日本翻訳大賞運営/東京マッハメンバー。代表作は『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『BAROQUE』『はっけよいとネコ』『記憶交換ノ儀式』等、デジタルゲーム、アナログゲームなど幅広くデザインする。池袋コミュニティ・カレッジ..

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