ある演劇公演の顛末
ところで、昨年夏に都市を滅ぼすほどの大きさの隕石が、地球とニアミスしていたのをご存じだろうか。
「天文学者も数日前まで気付かず…… 直径約130メートルの小惑星が地球とニアミスしていた」(Business Insider Japan)
私は最近、ある演劇公演を通じて、初めてこのニュースを知った。
こうした隕石は、万一、地球に衝突すれば都市レベルで被害が出るため「シティ・キラー」と呼ばれるらしい。演劇公演は、このニュースから名前を頂戴した、その名も『シティキラー』というタイトルだったのだ。
しかし、この『シティキラー』という演劇は、観客の前で上演されることはなかった。
3月5日に初日を迎える予定で、3月1日の時点では開催を決断、舞台美術も建て込んだ。だが、3月2日に政府の「要請」があったことを受けて、最終的に公演は中止となる。
『シティキラー』は映画美学校アクターズ・コースという俳優スクールの卒業公演でもあった。講師はウンゲツィーファという劇団を主宰する劇作家・演出家の本橋龍。
私は過去に同校で講師を務めたことがあり、また本橋と同校のつながりにも関与していたことから、同公演の無観客ゲネプロ(リハーサル)を見学させてもらうことができた。本来なら公演初日となるはずだった3月5日のことだ。
舞台はとあるゲストハウスである。これを最後に、それぞれの道を踏み出していく俳優の卵たちが、それぞれ旅人を演じた。都市を破壊するほどの隕石がニアミスしても気づかれない程度の、ささやかな可能性として、私はそこにあったはずの演劇公演に思いを馳せた。
ちなみに『シティキラー』は8話の連続ドラマへと翻案され、現在、YouTubeでの配信が始まっている。転んでもただでは起きない。
何も終わらないし、何も始まらない。できることをやっていくしかないのだ。
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