TikTokでバズる音楽の法則は「女子高生」?90年代から変わらないヒットの背景
瑛人「香水」や優里「ドライフラワー」など、動画共有アプリ『TikTok』でのバズからヒット曲が生まれることは、もはや当たり前となった。
2020年のひらめ「ポケットからきゅんです!」は、楽曲だけでなく指でハートを作る「きゅんです」ポーズが幅広い世代に広まり、「きゅん現象」と呼ばれる社会現象になった。
そして今年、男性アイドルグループ・THE SUPER FRUITの「チグハグ」は、TikTokのヒット曲の定番であるダンス動画のほかにも、ユーザーの個人的なクスっと笑えるエピソードトークを披露したあとに“それでは聴いてください、「チグハグ」!”とラジオの曲紹介風の動画をアップすることが流行している。
あるいは、水曜日のカンパネラ「エジソン」も、ユーザーたちが考案した振り付け、替え歌や、日常動画のBGM、MVの脚のダンスを模した動画など、さまざまなかたちで拡散されている。
この3組のアーティストには「株式会社つばさエンタテインメント」に所属しているという共通点がある。
同社は、前身会社では90年代から女子高生を中心としたマーケティングで名を馳せ、2000年代にはシンガーソングライターの川嶋あい、2010年代にはアイドルグループBiSを手がけてヒットを生んだ総合エンタテインメント企業となった。
ヒットを生みつづけている背景にはどんな思想があるのだろうか? 水曜日のカンパネラのマネジメントを手がける福永泰朋氏と、株式会社つばさエンタテインメント代表取締役社長・吉永達世氏に話を聞いた。
目次
水曜日のカンパネラ「エジソン」がTikTokでヒットした理由
水曜日のカンパネラ「エジソン」も、TikTok上でさまざまな楽しみ方をしているユーザーが目立つ。水曜日のカンパネラは以前から楽曲や世界観だけでなく、その戦略性にも注目が集まっていたが、「エジソン」を作るにあたって“TikTokのヒット”は想定していたのだろうか?
「たとえば、メロディラインが印象的で頭サビで始まるだとか、テンポがそこまで速くないだとか、TikTokでヒットする要素を意識的に入れてはいましたが、振り付け動画や替え歌が流行ることは予想していなかったです」(福永氏)
福永氏はTikTokで流行する曲の傾向をこう分析する。
「ひとつは、瑛人『香水』などが代表的ですが、BGMとして使いやすい曲が挙げられますよね。あるいは、SEKAI NO OWARI『Habit』のように、オフィシャルMVでまねしやすいダンスを入れている曲。そして、ユーザーが“遊び”を見つけてくれるパターン。kZm『TEENAGE VIBE feat. Tohji』の車のハンドルを握るような動き、あれはおそらく誰が始めたのかわからないものをみんながまねしていったのでは」(福永氏)
「ダンス系のヒットはオフィシャル発案のものと、自然発生したものとふたつに分けられると思います。『エジソン』は自然発生の振り付けや替え歌、あるいはMVの脚の動きが流行っているし、BGMにも使われている。つまり、ユーザーが遊べるポイントの多い曲だというのは、あとから学んだことでした」(福永氏)
「ライブに行きたい」から「主役になりたい」へ──音楽好きマインドの変化
“ユーザーが遊びたくなる”という要素はキーとなっており、そこにはネットコミュニティでの音楽の楽しみ方が大きな影響を与えているようだ。
「TikTokのユーザーは“発信したい”というマインドが強いんです。昔だったら“このアーティストが好き”というと、ライブに行ったりファンクラブに入ったりするのが主流だったのが、今は自分が主役になれる場所で音楽を楽しんでいる人も多いように感じます。
もちろん過去を振り返ると、友達とのカラオケ店での歌唱やニコニコ動画などユーザーが主体となって音楽を広めるコミュニティは存在していましたし、実はいつの時代も変わらないのかもしれません。ただ、複雑かつ多様化してきているので、ヒットを狙うと言う意味では、事務所やレーベルとして、しっかりマーケティングもしていかないといけないのだと思います」(福永氏)
そして、この情報過多の時代だからこそ、“人”が信頼される状況になっているという。
「今ってメディア側のアルゴリズムなどで、“自分好みのもの”はすぐサジェストされてしまうんですよね。情報が飽和して、新しいものと出会いにくくなっている。だからこそ、インフルエンサーなどの“人”が勧めるものに注目している人は多いのでは。メディアと違って個人なら言動も追いやすいですし、気になる人や友達からの情報だと意外とすんなり受け入れてしまっていることが多い気がします」(福永氏)
90年代の“女子高生マーケティング”から、今も変わらないもの
「ただ、インフルエンサー頼みで一瞬だけバズっても意味がありません、点ではなく線、面に展開していくのが理想的です」と語るのは、株式会社つばさエンタテインメント代表取締役社長・吉永氏。
つばさエンタテインメントは、プリクラやルーズソックスなど「女子高生」が流行を作るとされていた90年代半ばに、彼女たちの口コミ力に着目していたというのは前述したとおりだ。しかし、ただ商品を渡すのではなく、“キーワード”が大事だったと語る。
「当時の都内の女子高生は、今のインフルエンサーのような拡散力を持っており、何かひとつがクラス内で広まると、“それ、いいね”と学校中に伝わって、そしてみんなが渋谷に集まるからどんどん流行が拡散されていく状況でした。“どうすれば商品が彼女たちに広まるのか”を徹底的に考えました。これは現在のインフルエンサーマーケティングも同じだと考えていますが、その商品が“いいもの”であることが大前提。
そして、ただやみくもに影響力のある人に流行らせたい商品を渡して“これオススメ!”とSNS投稿してもらっても意味がありません。そこから“これはこういうものだよ、だからオススメだよ”と人に話したくなるようなキーワードがあって、初めて広まっていくものだと思います」(吉永氏)
「いいものはつづく」“一瞬のバズ”で終わらせないために
ちなみに、ヒットの導線を作った商品は守秘義務上公開できないものが多いとのことだが、名前を挙げられるものでは“ラルフローレンの紺ソックス”があるという。これは、ルーズソックス全盛期に対抗するような構図があり、それがフックとなったことで女子高生たちの間で話題となり、多くのメディアで取り上げられヒットに至ったという。
冒頭に紹介した「きゅんです」ポーズや、“それでは聴いてください、「チグハグ」!”という紹介動画など、その動画を観た人たちが、受動的に楽しむだけでなく、“自分でもやってみたい”と感じるものが近年のヒット曲の特徴であるが、“誰かに伝えたくなる”という意味ではインターネット以前の口コミマーケティングと根本は変わらないのかもしれない。
「それに、今の時代はいいものはつづくんです。音楽も“オリコンチャート初登場○位”という勝負の時代があったけれど、2022年は「エジソン」や「チグハグ」など弊社関連アーティストが13週連続でBillboardランキング首位に入りつづけました。“ロングテール”という言葉がありますけど、ようやくそういう時代になってきたのかもしれません。
それこそ、川嶋あいは今年で活動20周年を迎えます。あのころ同じようにヒットしていた方々で今も残っているアーティストは少ないと思うけれど、彼女はずっと渋谷公会堂(LINE CUBE SHIBUYA)でほぼ毎年コンサートを開催しています。彼女の姿こそが、我々の“いいものを長くつづけたい”というスタンスを表しているのかもしれません」(吉永氏)
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