伝説のファッション誌『Zipper』が復刊する理由。「私のおしゃれは自分で決める」個性を発信できる場に
1993年に創刊し、2017年の休刊までの24年間、さまざまな原宿系ファッションを生み出してきた雑誌『Zipper』が、2022年3月23日に季刊誌として復刊する。
平成を生きた女性ならば誰もが知っている伝説のファッション雑誌『Zipper』。昨年末に復刊が発表された際には、『Zipper』と共に青春時代を生きてきた女性たちから多くの反響が集まった。
しかし、休刊していた4年の間、多くの人の情報収集の方法は雑誌やテレビから、YouTubeやInstagramなどといったSNSが中心に。長い歴史を持つ雑誌が次々に休刊や廃刊、WEBへの切り替えを図っているのも事実だ。
そんななか、なぜ今『Zipper』を復刊させようと思ったのか。そこに秘められた思いや、雑誌の価値について、新生『Zipper』の編集長・森茂穗氏に話を伺った。
目次
一般的な“かわいい”とは違う、原宿系ストリート雑誌『Zipper』
──24年もの間、刊行をつづけた『Zipper』。当時の雑誌コンセプトやメッセージ、ターゲット読者を教えてください。
森茂穗(以下、森) 僕自身『Zipper』に携わるのは今回が初めてなのですが、1993年に“みんなと同じスタイルは「NO」!”をコンセプトに創刊し、当時は「個性を大事にして、自分らしくおしゃれを楽しもう」というメッセージを発信していたと聞いています。外から見ていても、原宿系のストリート雑誌というイメージが強かったですね。
また、表現は難しいのですが、誌面に登場する子たちも、モデルチックな“かわいい”や、一般的な“かわいい”ではなく、個性を持った子たちがそれぞれのファッションを発信して主役になっている印象でした。
──復刊が発表されたとき、かなり反響があった印象です。
森 思っていたよりも反響はよかったですね。テレビでも報道されましたし、Yahoo!やニュースサイトでも取り上げていただきました。また、SNSでの反響を見て、『Zipper』を必要だと思ってくれている方がこんなにいるのはうれしいなと感じましたね。
ただ、それと同時に、喜んでくださる方がいる以上、下手なことはできないな、がっかりさせたくないなと気が引き締まりました。
──新生『Zipper』のコンセプトやターゲットを教えてください。
森 テーマは“私の「おしゃれ」は自分で決める!ファッションクリエイターズマガジン”で、コンセプトも大きくは変わっていません。
ただ、ターゲットは、ほんの少しだけ広げています。これまではティーン女子が中心の雑誌でしたが、年齢や性別に関係なく「『Zipper』のカルチャーってやっぱいいよね」って思ってくれる方に読んでいただきたいなという内容になっています。
共感する人たちが、自分自身がよかれと思うこと、個性を発信する場所になってくれたらうれしいです。
SNSが生んだ“没個性”時代。新しいファッショントレンドを生み出せる場はどこ?
──そもそも、今このタイミングで『Zipper』を復刊しようと思った理由を教えてください。
森 いわゆる“Z世代”と呼ばれる人たちが、今は23歳前後に成長して、誰かに押しつけられた価値観ではなく、「自分らしさ」の答え探しをしているように感じたからです。
多様性がよきこととされている一方、新しいファッションカルチャーが生まれていない。個人がいいと思ったもの、それぞれの“かわいい”を表現する場を用意している雑誌が少ないなと感じて、じゃあ、新しいファッションカルチャーを生み出せる場所を作ろうと感じました。
──「自分らしさ」の答え探しをしていると感じたのはなぜでしょう?
森 多様性を謳っている人が多い一方で、今のファッションカルチャー自体に新しさを感じていないからです。ストリートファッションと言いながらも、結局はSNSの誰かからインスピレーションを受けたようなファッションが多い。
僕は5年前まで雑誌『Popteen』の編集長をやっていたのですが、トレンドも5年前から大きく変わっていない気がしていて、そこに一抹の寂しさを感じています。
でも、雑誌がどんどんなくなっていって、新しい土壌が生まれる環境がなくなっているのだから、しょうがないことだなとも思うんですよね。
──どういうことでしょう?
森 他人から否定されても、「私はこれがいいんです」と言えるものがある人はいると思うんです。雑誌はそういうことを発信する場でした。ただ、今はそういう場所が少なくなっているから、個人のSNSで発信する人がほとんど。
でも、個人である場合、そのスタイルを顔が見えない誰かに叩かれて傷ついちゃうリスクも大きいです。だから、伸び伸びと自分らしさを表現できる人、常識を突き破ってくれる人が少なくなっているんだと思います。
──確かに。ひと昔前までは、好きなファッションの系統を聞かれて雑誌の名前で答えることもありましたが、今は多様性が認められているがゆえに“らしさ”が減っているなと感じることがあります。
森 みんなが振り向くところ、最大公約数をたくさん取っていった結果、そうなってしまったんでしょうね。雑誌やWEBメディアだけでなく、世の中が全体的にダメなものだけを排除していって、その結果、最大公約数的なもの、否定のしようもないけど、熱狂的に支持できる側面もないようなものが多くなっている。
多様性を認めているのは確かなことなんだけど、概念に共感しているだけで、本人は多様性の中のひとりになっていないのではないかと疑ってしまうことがあるんです。
だからこそ、『Zipper』によって、いろんな“よいもの”が入り混じっている状況、混沌とした感じを作れたらなと思っています。
指標は「『Zipper』っぽい子を何人誌面に出せるか」
──SNSやYouTubeが主流になり、若者の情報インプットの手法が変わりつつあります。そんななか、雑誌は今後どんな立ち位置になると思いますか?
森 僕は、雑誌はカルチャーを作れる場所だと信じています。以前、ギャル系雑誌『Happie nuts』で編集長をしていたとき、世の中的には黒肌のギャルは減っていたのですが、誌面では「EVERYDAY 黒肌宣言!」という特集を貫いていました。それに共感してくれる子たちが集まる居場所として成立していたんですよね。
だから、新生『Zipper』のKPI(重要業績評価指標)は「読者の数」ではなく、『Zipper』っぽい子たちを何人誌面に出せるかを重要視しています。読者はあとからついてきてくれたらいい。『Zipper』という場所でファッションを発表したいという子たちが増えること、憧れてくれる子が誌面に出たら、雑誌としての価値が出てくるんじゃないかなと思います。
──なるほど。最初にお話しされていた「ファッションカルチャーを生み出す」という精神にも通じてきますね。
森 実際、新生『Zipper』のテーマを「ファッションクリエイターズマガジン」と謳っているのは、まさにそこを一番大切にしたいからです。
ファッションモデルが出る雑誌ではなく、ファッションを作っていく人たちに出てもらいたい。「私が思う、私らしいファッションはこれ」と発表できる場を、『Zipper』という場所が用意するから、安心して発信してほしい、という思いを込めています。
復刊号の表紙はBiSH。「私のおしゃれは自分で決める」新生『Zipper』の象徴に
──「ファッションクリエイターズマガジン」のテーマを体現するようなページとして、どのようなものを構想しているのでしょうか?
森 巻頭特集は、名物の原宿でのストリートスナップにしました。おそらく「これが新生『Zipper』です」と専属モデルをお披露目するほうが簡単なんでしょうけど、ストリートは編集者が作り出すものではないので。「やっぱり『Zipper』っていいよね」「ファッションって楽しいよね」と思ってもらえたらと思います。
──復刊号の表紙に、BiSHさんを起用した理由はなんでしょう?
森 「私のおしゃれは自分で決める」を表現したいなとは思いつつ、なかなかそれに合ったカバーモデルを見つけられず苦戦しました。そのときに、何かに媚びている感じはないけれど、『紅白』に出場するほどの認知度があり、独特のアーティスト性を貫いているBiSHさんにぜひお願いしたいなと思いました。
ほかの雑誌はまねできないような表紙になっているので、ぜひそういう細かいポイントを感じ取ってほしいです。
──最後に、今後どのような情報を発信し、どんな方に読んでもらいたいですか?
森 まずはさっき言ったように、「私らしいファッション」を発信したいと思っている方に読んでいただきたいし、出てもらいたいなと思っています。
そして、そこに共感した人たちが「私もチャレンジしてみよう」と思ってくれること。そこから原宿カルチャーがどんどん盛り上がっていって、日本中、世界中から「原宿カルチャーってやっぱりおもしろいね」と思ってもらえるようになりたいです。
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『Zipper』2022年春号(祥伝社ムック)
『Zipper』が4年ぶりに帰ってくる! 新生『Zipper』は“私の「おしゃれ」は自分で決める!ファッションクリエイターズ・マガジン”をテーマに、Z世代の原宿カルチャーを発信。復刊第1号の表紙はBiSHに決定!
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