平成の小学生男子から愛されたブランド「BAD BOY」が現代に蘇った理由

2020.8.11

文=ヒラギノ游ゴ 構成=赤井大祐
編集=森田真規


90年代後半〜00年代初頭にかけて、主に全国の小学生男子の間で流行したファッションブランド「BAD BOY(バッドボーイ)」。睨みつけるような目をモチーフとしたロゴに覚えのある20〜30代も多いのではないだろうか。

忌憚なく言えば、当時を知る人の大半にとって、BAD BOYを今振り返って抱く印象は、同時代に流行したPIKOやTown & Countryと同様に、「古い」「時代遅れ」「子供のブランド」「ダサい」といったものだろう。

そんなBAD BOYが今、ある若者の手によって生まれ変わった。その人とは、株式会社ク・ラッチの小塩明日加氏だ(1992年生まれ)。

このインタビューでは彼がBAD BOYを蘇らせた狙いを、滲み出るカルチャー愛やアパレルの歴史、またリブランディングを担う企業人としての戦略などについて触れながら紐解いてゆく――。


「ダサい」を楽しむ時代

――リアルタイムでBAD BOYを知っている世代の人たちからすると、正直「なんでわざわざ?」というか。いったい何が起きているんだ、という感じだと思います。

小塩 ですよね(笑)。考えてることをざっくりとご説明するなら、当時の雰囲気は引き継ぎつつ、現代のモードなスタイルとミックスする形でリブランディングしていこう、というのが僕の今やっていることです。

19年秋冬からスタートしたんですが、最初のコレクションではまずBAD BOYを知らない若い世代におもしろがって着てもらおうということで、より今風の方向性でリリースしました。そして満を持して20年秋冬は、より当時のテイストを前面に出しています。子供のころに着ていた人には懐かしいと思ってもらえるような、BAD BOYの核となっていた部分に焦点を当ててご提案しています。

――BAD BOYの核とは?

小塩 これ見てください。

――うわー! こんなでしたね当時。

BAD BOYヴィンテージTシャツ(写真:筆者提供)

小塩 たとえばこういう、ロゴを前面に出す、ドラゴンや十字架のモチーフ、筆記体やカリグラフィーの英字、トライバル柄を多用するといったポイントですね。90年代後半〜00年代初頭にかけて親しまれていたデザインです。こういうものがBAD BOYのらしさ、核と呼べるものじゃないかなと思っています。あとはこの商品なんかそうですが、半袖のTシャツの裾から長袖が生えているような……。

BAD BOY 2020AW。ブランド開始時から展開している代表的なリバイバルアイテム

――ありましたね! 今で言うフェイクレイヤードに当たるんですかね。

小塩 そうですね。あとは、当時やたらとカーゴパンツが多かった。僕も今27歳で、子供のころにBAD BOYを着てた世代なんですけど、当時はカーゴパンツが一番カッコいいと思って穿いてました(笑)。

――同じくです。ポケットがたくさんついていればカッコいいと思ってた。

小塩 そういう要素はなるべく取り入れつつも今風に着られるものに、というバランスを大事にしています。たとえば、このジャケットはカメラのフラッシュを反射して光るリフレクター素材を使っていて、SNS映えを楽しんでもらえるんじゃないかなと。

BAD BOY 2020AW。フラッシュを当てると光が反射し、インスタ映えが期待できるジャケット

ほかにはシルエットですね。現代的な型に調整する部分と、当時の面影を大事にする部分は都度熟考しています。たとえばセットアップ、いわゆるジャージの上下なんかはお客さんからの熱い要望が多いので今回のラインナップにも入れているんですが、こちらの商品に関してはサイズ感は少し大きめで身丈は短く、といったように当時の雰囲気を踏襲しています。

BAD BOY 2020AW。リバイバルで復刻したジャージのセットアップ

――なぜこのタイミングでBAD BOYをリブランディングすることになったのでしょう?

小塩 その点は本当に巡り合わせというか。僕がブランドビジネスをやりたいと思っていろいろと探していたタイミングで、BAD BOYのライセンスを所有している方と、それまで製造・販売を担っていた伊藤忠さんとの契約が満了したんです。

それを知ってライセンス所有者の方に「ぜひやらせてほしい」とお願いしに行きました。「いいけど、なんで今BAD BOYなんてやりたいの!?」って感じの反応でしたね(笑)。

――(笑)。 ライセンスのオーナーもそういう反応なんですね。でも、一度完全に廃れたブランドなので、商売人としては当然の疑問だと思います。

小塩 僕は「やるなら間違いなく今」って思うんですよ。

――というと?

小塩 そもそも今の若い子たちのファッションと、90年代後半〜00年代初頭の時代背景ってものすごくマッチしているんですよ。トレンドが1周したというか。それに、BALENCIAGAなんかが今やっていることも90年代リバイバルに当たるものが多いし、別ジャンルですが音楽で言えば、ちょっと前のDA PUMP「U.S.A.」なんかは共感するところがあるんですよ。ああいう古さがおもしろいっていう感覚。

――「ダサい」ものを楽しむ感覚というか。

小塩 まさにその「ダサい」がキーだと思っています。この手の「ダサい」って、今で言う「エモい」のニュアンスと混ざり合っている部分があると思うんですよね。

「ダサい」が「ラグジュアリー」や「スポーティ」と同様に、ひとつの価値として受け入れられるようになってきている。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で描かれる未来世界を観るときの感覚と似てるのかなと思っています。

――なるほど、90年代後半〜00年代初頭の意匠はすでに「レトロフューチャー」になっていると。

小塩 あと、BAD BOYの「ダサい」イメージって、ほかのリバイバルで成功しているブランドにはない武器になると思っていて。ここ数年でKANGOL、FILA、Kappaあたりの人気が盛り返してきましたが、どれも一度完全に印象がリセットされている、と言っていいんじゃないかと思うんですね。

その反面、BAD BOYは絶妙に、子供のころ着ていた人たちの記憶がまだ色褪せ切ってないぶん「ダサい」印象につながっている。だからこそ、その「ダサい」イメージを活かした楽しみ方ができるんじゃないかと。

西海岸からヨーカドーに流れ着いたブランド


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