魚喃キリコのマンガは、なぜ時代を超えて支持されるのか?13年ぶりの新刊から考える

2020.6.29

文=折田侑駿 編集=森田真規


今、魚喃キリコのマンガが再び注目を集めている。3月末から限定新装版として9冊の過去作が連続リリースされ、4月には魚喃キリコ自身による解説集が刊行され、5月には13年ぶりの新刊となる『魚喃キリコ 未収録作品集』が上下巻で発売されているのだ。

1990年代〜2000年代前半にかけて活躍してきた彼女のマンガは、なぜ常に若者たちの心を掴むことができているのか? 映画化作品や解説集、そして13年ぶりの新刊を通して「200年残る作品を描きたい」と述べる魚喃キリコの魅力に迫る。

魚喃キリコが感じていたことをヴィヴィッドに感じ取れる

漫画家・魚喃キリコによる13年ぶりの新刊『魚喃キリコ 未収録作品集』。上巻には、1993年のデビューから1990年代後半にかけて描かれた短編やイラストなどが、下巻には、2000年代に描かれた短編とイラスト、さらには長編作品である「ハイタイム」が収められている。

単行本の出版としては『キャンディーの色は赤。』以来13年ぶりであるが、「作品集」としては実に17年ぶりの新刊となった。

魚喃キリコ『魚喃キリコ 未収録作品集 上』

本作はあくまで“新刊”であって、“新作”ではない。デビュー作でありながら単行本未収録となっていた「HOLE!!」をはじめ、未発表作品であった「fault」や「3分46秒。」も、この場をもって日の目を見ることとなったのだ。長い時を経て、再び誕生したともいえるだろう。

上下巻ごとに、魚喃が作品を発表した年代の大きな括りはあるものの、掲載作品の順番は、彼女のキャリアの時系列に沿ったものではない。ここでおもしろいのが、本作を読むことが彼女のキャリアを辿る行為なのではなく、それらがある種シャッフルされていることによって、自然とさまざまな比較が生じ、作品ごとのタッチやセリフ、構成の違いから、当時の彼女がその瞬間ごとに感じていたものを、ヴィヴィッドに感じ取ることができることだ。

映画化されるたび評価されてきた魚喃作品

魚喃キリコの作品といえばこれまでに、初の長編作品である『blue』が2003年に、『strawberry shortcakes』が『ストロベリーショートケイクス』として2006年に、『南瓜とマヨネーズ』が2017年に、それぞれ実写映画として公開されてきた。そしてその都度、これらの作品は新たな息吹を得てきたのだ。

『blue』は少女ふたりによる友情と恋心のはざまで揺れる心の機微が、『strawberry shortcakes』ではタイプの異なる4人の女性を中心に据え、彼女らの仕事や恋愛事情を見つめた「日常」が綴られている。『南瓜とマヨネーズ』は映画の公開がまだごく最近のこととあって、ふたりの男性の間で葛藤するヒロインの姿が記憶に新しいだろう。

映画『南瓜とマヨネーズ』特報

これらはいずれも映画化されるごとに、多くの支持を集めてきた。前2作は単行本の刊行からわりと早い段階での映画化であり、当時はまだ魚喃が現役ということもあって、「注目度」という点でもうなずける。しかしだ、『南瓜とマヨネーズ』に関しては、最初の刊行から映画化まで18年の時を経ている。それでもなお、都内のミニシアターには多くの観客が詰めかけた。

その理由として、『乱暴と待機』(2010年)、『ローリング』(2015年)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(2018年)などの冨永昌敬監督がメガホンを取り、ヒロインを臼田あさ美が、ふたりの男性を太賀(現:仲野太賀)とオダギリジョーがそれぞれ演じたということもあるのだろう。

しかし、コアな映画ファンや、魚喃作品をリアルタイムで読んでいたと思しき世代の人々だけでなく、10代の女性客が多かったのも印象的だった。本作は映画ならではの脚色も施され、原作がヒロインの一人称であったのに対し、映画ではもう少し広く俯瞰的な視点が配されている。三者三様それぞれの「言い分」のようなものまで描かれていたのは、広い観客層に届けることに大きく影響しただろう。だが、作品の本軸は原作と同じだった。

魚喃キリコが支持される理由


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