魚喃キリコのマンガは、なぜ時代を超えて支持されるのか?13年ぶりの新刊から考える

2020.6.29


魚喃キリコが支持される理由

魚喃キリコが支持される理由──それを今紐解くことができるのが『魚喃キリコ 未収録作品集』なのである。

先に述べたように作品の掲載順が発表順ではないものとあって、各作品ごとの感触はもちろん異なるのだが、そこには、人と人との物理的/精神的な距離や、関係性という普遍的なものが見て取れる。

本作には、乾いたタッチの「ヨルとハルとラヴ」(『Water.』に収録)などに近しい「fault」「ラブリー」や、『ハルチン』のように明るく朗らかなタッチで描かれた「モーコンクリーンのススメ」「うちの犬らぶらぶ日記」などが収録されている。その振り幅は大きく異なれど、作品には「誰かに触れたい」という、人間の根源的かつ恒久的な欲求が充満しているように思う。

それは、「他者の温もり」とも言い換えられるものだろう。どの作品にも共通して感じられるのが、「満たされなさ」や「孤独感」だ。

「誰かに触れたい」という普遍的な欲求

4月に発売された、魚喃キリコ自身による『魚喃キリコ 作品解説集』で彼女は、「人にうれしいことを20伝えたければ、200うれしいことを感じなきゃいけないし、悲しいことを20描きたければ、あたしは200悲しまなきゃいけないと思ってる。そうでなければ描くに値しないとすら思っていました」と述べている。

魚喃キリコ『魚喃キリコ 作品解説集』

この作品は、魚喃が自身のキャリアを振り返りつつ、その半生をも赤裸々に語っているもの。どの作品も自身の実体験をベースに描く、彼女だからこその重みのある言葉が連ねられている。つまり、彼女のキャリアに体系的に触れられる今回の『魚喃キリコ 未収録作品集』を読むことは、彼女の半生に触れることでもあるのだ。

先の『解説集』で魚喃は、「わたしは常々『200年残る作品を描きたい』と思って漫画を描いていた」とも述べている。人と人との関わり方が日々変わりつつある現在だが、『南瓜とマヨネーズ』がおよそ20年の時を経て支持されたように、ひょっとすると魚喃キリコの作品は200年後にも支持されているのではないか?と、そんなことを思わせられる。それは彼女の作品に描かれているのが、やはり人間の根源的かつ恒久的な欲求だからだ。

魚喃が現役であったころと今とでは、当然ながら大きく環境が変わってきた。このご時世がその最たるもので、私たちの生きる世界は地球規模で日々変貌をつづけている。インターネットの普及による人間関係の希薄化が叫ばれるようになって久しいが、今やネットを介さず他者と関わるのは難しかったりもする。

ここで生まれるのが、「誰かに触れたい」という欲求なのではないかと思う。これはいくら私たちを取り巻く環境が変わろうとも、普遍的でありつづけるものだと今改めて感じる。そんな感情が静かにバーストしている魚喃キリコ作品を読むことは、“私(各読者)と誰か”のこれからの関係のあり方について、考えを巡らせてくれるはずだ。

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折田侑駿

(おりた・ゆうしゅん)文筆家。1990年生まれ。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、文学、服飾、酒場など。映画の劇場パンフレットなどに多数寄稿。映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを務めている。

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