つづいていく『あの夜』
──『あの夜』は最終的に「生配信舞台演劇ドラマ」と表現されたように、なかなか説明が難しいエンタメなわけですが、演者の方々はどのように理解されていったのでしょうか。
石井 最初の通しリハをやって、初めて「自分でいろんなことを考えなきゃいけないんだ」と皆さん気づかれたと思います。想像以上の大変さという意味でいえば、我々もわかっていなかったですけど(笑)。
映画やドラマであればシーンごとに止まって指示が出たら演技をして、演劇なら上手(かみて)と下手(しもて)があって……とかありますけど、全部ないので。
スタッフはカメラに映らないように演者から見えないところにいますし、自分が映らないシーンはどうしたらいいとかまで頭に入れて動かなきゃならない。最初の通しリハが終わってから、稽古に臨むみんなの目が変わった気がします。
──確かにそう言われてみると、異常な形式ですね。
小御門 演技のテイストについても、稽古をするなかでけっこう変えたんです。映像に比重があるからリアリティの強い芝居がいいと思っていたんですけど、それだと場所や映像の見せ方的にドキュメンタリーチックになってしまっていたんです。
そしたら最初の通しリハを観た佐久間さんから「なんか締まりがない感じの邦画みたい」というようなことを言われて。なるほどと思って、そこから演劇寄りの演出に寄せていきました。遠くの客席に座っている人にも届くような声の出し方や体の動きを意識してもらうようにして。
入江(甚儀)さんの演技が派手な感じになったのも、本当にあんな振る舞いをする人はいないと思うんですけど、あえてリアリティのない感じにしました。まわりのリアリティとのバランスが崩れることなく、いいところに着地できたかなとは思いますね。
──それだけ大変ななかで、小御門さんが本番直前に脚本を変えたくなったのはなぜですか?
小御門 稽古や打ち合わせを重ねていくうちに、僕の中のビジョンもだんだんはっきりとしてきて、演者さんたちのキャラクターも固まってきたときに、やりとりの内容を全編にわたって書き変えたくなってしまったんですよね。
石井 演者さんたちはみんな、腹括ってくれてはいたから。小御門くんを見る目には殺気があったけど(笑)。でもそういうことでもモチベーションが高くなっていって、初日が始まる前の異様な緊張感と終わったあとの解き放たれた感じを見る限り、ものすごくやりがいや達成感がある仕事になったんだろうなとは見受けられたよね。
──上映会をして、Blu-rayの発売が決まって、これで終わりなのでしょうか?
石井 3月に公演が終わって、アーカイブ配信も終了した時点で、もう続編をやろうって話はしていて。実は概要も日程も決まってるんですよ。興奮冷めやらぬうちに、どうやって作るかみたいなところまで話せたのはよかった。オンライン演劇をさらに先に進めるものを思いついてしまったがゆえに、まだ毎週バタバタと打ち合わせをしています。
──『あの夜』はまだまだつづいているんですね。
石井 正直『あの夜』が終わって、充足感があふれて、自分自身「これから何を作っていったらいいんだろう」と悩んだ時期もありました。でもすぐ続編の話が出てきたから、立ち止まらずに前を向けた。今後も一緒に作品を作っていくので、ニッポン放送とノーミーツの関係性はつづいていきます。それで、僕と小御門くんのポッドキャスト番組『滔々あの夜咄』があるという。
『あの夜』公演の告知的にやっていたポッドキャスト番組『あの夜のはなし』は、少なくともコアなファンの方々は聴いてくれて、観たあとにおもしろさが深まるものにはなっていたと思うし、ガイドラインみたいなものがあるといいんだなと思って。『滔々あの夜咄』は佐久間さんがラジオでやっているようなこと(最近のエンタメのガイドライン的な役割)に近いんですけど、要は「フリ」を長くしたいんですよね。
──フリを長くしたい?
石井 やっぱりひとつのことを見せるときに、溜めて溜めてドンッと見せたほうがおもしろくなるし、アドレナリンも出ると思うんですよ。僕にとって『あの夜』はオードリーさんの武道館イベント以来の血湧き肉躍るような体験だったんですけど、あの感じを皆さんにも味わっていただくためには、やっぱり溜めなきゃいけないので。そのフリとして、ポッドキャスト番組が最適かもしれないと思って、実験をしているところです。
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滔々あの夜咄
石井玄と小御門優一郎のふたりが日々の出来事や最近気になるコンテンツ、脚本家である小御門が思わず嫉妬してしまった作品などについて、なぜ面白いかなどを滔々と語るポッドキャスト番組。
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