ニッポン放送・石井玄が抱くラジオへの危機感と次世代への期待「新しいものが生まれないと終わってしまう」

2021.12.27
石井玄と山浦暁斗

文=村上謙三久 撮影=鈴木 渉 編集=森田真規


『オードリーのオールナイトニッポン』『三四郎のオールナイトニッポン』『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』(以上、ニッポン放送)『アルコ&ピース D.C.GARAGE』(TBSラジオ)など、数々の人気ラジオ番組でディレクターを務め、オールナイトニッポン(以下:ANN)のチーフディレクターを担当していた石井玄。そんな彼が2020年3月に投稿したひとつのツイートが、当時大きな話題を呼んだ。

このツイートをきっかけに生まれたのが、石井氏の初の著書となった『アフタートーク』(KADOKAWA)であり、学生サークル「大阪大学ラジオの会」である。石井氏と「大阪大学ラジオの会」前代表で同サークルの発起人である山浦暁斗氏の対談後編となる本稿では、ラジオ業界の現在と未来について話された。

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「ラジオが趣味です」と言えるようになった

──石井さんは山浦さんのような学生リスナーをどんなふうに見ていますか?

石井 全然想像がついてないんですよ。サークルを作ったっていう話を聞いて、いいなって思っていて。僕が学生のころはツイッターもなかったですし、ラジオを共有する場がないので、ひとりで聴くものだったから、今はうらやましいなって思いますね。学校で「昨日のあの放送聴いた?」なんて話した経験がほとんどないので(笑)。

そんな話ができたのは、『アフタートーク』にも書いた岡ピー(高校時代の同級生・岡田)くらいで。それもそんな毎日は話さないから、それだけで幸せなんじゃないかって思います。ただ、2年半前に母校の春日部高校で講演をやったときに「ラジオを聴いている人?」って聞いたら、半分近くが手を挙げていたんで、昔よりもリスナーは増えているんだなって感覚はありますね。

石井玄
石井玄(いしい・ひかる)1986年生まれ、埼玉県出身。ラジオ番組企画制作会社・ミックスゾーンにて『オールナイトニッポン』のチーフディレクターを経験。2020年からはニッポン放送エンターテインメント開発部のプロデューサーへ

──radikoの影響は大きいんでしょうね。

石井 あと、若い子たちが「ラジオが好き」と言ってもいい空気になってきた気がします。ラジオを聴いてても恥ずかしくないっていう。昔が悪かったってわけじゃないんですが、今のオールナイトニッポンのパーソナリティの名前を出せば、誰でもひと組は興味を持つから、ラジオを聴いてることをバカにしてくるような人相手でも、論破できますよね(笑)。

──「クラスの隅にいる人たちが聴いているもの」という感覚は、変わってきてるかもしれませんね。

石井 もう以前ほどはないんじゃないですか。普通に学校生活を過ごしている人も聴けるし、聴いてますと言えるようになっていて。女性の若いリスナーが聴いてる、と発信している感じもありますよね。

山浦 女性でいったら、三四郎のバチボコプレミアムライブ(『三四郎のオールナイトニッポン6周年記念 バチボコプレミアムライブリベンジ』)を観に行ったときに女性が多くて、ビックリしたのはありますね。それこそ「ラジオを聴いている」と言うときって、「テレビを観ている」とは違って、今までは説明が必要だったと思うんです。でも、「星野源さんのラジオを聴いている」と言ったら細かい説明が不要になったなって。だから、「ラジオが趣味です」と言えるようになった人も多いのかなって僕も思いますね。

山浦暁斗
山浦暁斗(やまうら・あきと)「大阪大学ラジオの会」前代表。大阪大学在学中。2020年、石井玄氏のツイートに感化され学生サークル「大阪大学ラジオの会」を立ち上げる

まっすぐな想いをストレートに伝えた一冊

『アフタートーク』
『アフタートーク』石井玄/KADOKAWA/2021年9月15日

──何か山浦さんから石井さんに、聞きたいことがあれば。

山浦 ご本人を前にして、頭が真っ白になっちゃって……(苦笑)。

石井 本はどうだった? あまり人から直接感想を聞いてないので。

山浦 福田(卓也、放送作家)さんが天才というお話が『アフタートーク』にありましたが、僕はそういう方のようにアイデアを思いつく能力は今の時点で全然ないと思っているんですけど、そのなかで石井さんが好きという気持ちや熱量で努力されている話が印象に残っていて。

最近、僕は熱量を感じると感動するというか、とても涙もろくなっているんです。そういう熱量が、この本からめちゃくちゃ伝わってきました。抽象的な感想になってしまうのですが……。

石井 僕の世代よりも上の人たちって熱く語ることがカッコ悪いという文化で、僕もその文化で育っているから抵抗があったんですけど、若い子たちってそういう発信をしたときに、「熱く語るのもいい」というリアクションになるんです。それは明らかにどこかの世代で区切られていて。20代前半の社員の子もそっちなんですよね。それはすごく感じています。

冷笑する文化が消えていて、そこで僕も出せるようになりました。根が熱くてイタいほうだから、そっちのほうが楽だっていう想いを表したのがこの本なんですよ。その違いって不思議ですよね。

石井玄と山浦暁斗

──40代からすると、感動してもそれを言っちゃいけない、反応するのはカッコ悪いみたいな感覚はあります。

山浦 そうなんですね。

石井 恥ずかしいし、泣いているのはカッコ悪いみたいな感じでしたから。そういうのは変わったなって肌で感じていて、いろんなものの作り方が変わってきてますよね。

山浦 僕自身にも世の中を斜めに見ることが正義だと思っている時期があったんですけど、今は変わりました。

石井 『アフタートーク』に関しても、業界内からは冷笑するような反応もあったんですけど、外の人からすごい共感されていると聞いて、おもしろいなあって思います。僕も最初はものすごくひねくれていましたけど、それが一緒に仕事をした人たちやラジオのおかげでまっすぐになって、想いを伝えて大丈夫っていう感覚になりました。もはや、うしろ指を指されてもまったくなんのダメージもないんで。そっちのほうが「ダサい」に今はなっていますから。

10年後にラジオリスナーがいなくなる、という危機感


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村上謙三久

(むらかみ・けんさく)編集者、ライター。1978年生まれ。プロレス、ラジオ関連を中心に活動。『声優ラジオの時間』『お笑いラジオの時間』(綜合図書)の編集長を務め、著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史 声優とラジオの50年』(辰巳出版)がある。

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