石井玄×小御門優一郎 対談『あの夜を覚えてる』はこれで終わるのか?振り返りと後日談【前編】

2022.8.1
石井玄、小御門優一郎

文・編集=鈴木 梢 撮影=長野竜成


2022年3月に上演された、オールナイトニッポン55周年記念公演『あの夜を覚えてる』(通称、『あの夜』)。「生配信舞台演劇ドラマ」という、新形態のエンタメ作品でありながら、公演当日まで多くのファンを獲得し、公演当日から、6月に開催された東京国際フォーラム・ホールAでの上映会、さらに現在に至るまで、多くの人の熱狂を生んできた。

そんな『あの夜』の脚本・演出を手がけたノーミーツの小御門優一郎と、ニッポン放送側のプロデューサーを務めた石井玄が最近、ポッドキャスト番組『滔々あの夜咄(とうとうあのよばなし)』をスタート。

なぜこのふたりがポッドキャストを始めたのか。『あの夜』はこれで終わってしまうのか。『あの夜』の制作の裏側で、いったい何が起きていたのか。そんな話をふたりの対談でお届けする。


石井玄の根回し仕事術

──今回はノーミーツが企画した作品にニッポン放送側のプロデューサーとして石井さんが参加されたかたちですが、具体的にはどのような役回りをされていたのでしょうか。

小御門優一郎
小御門優一郎(こみかど・ゆういちろう)1993年生まれ。脚本家、演出家。劇団ノーミーツの公演『それでも笑えれば』では第65回岸田國士戯曲賞にノミネート。YOASOBI「三原色」の原作小説等、幅広く執筆中

小御門 いきなり「会社丸ごと貸してくれ」なんて言ったら、普通は社内のいろんな調整とか、起こり得るめんどくさいことを思い浮かべて、現実的に実現可能な方法に留めてある程度縮小する方向に考えそうじゃないですか。でも最初から一貫して「難しいからおもしろいんじゃん」ってスタンスで、社内調整を進めてくださっていました。

石井さんは、最初から全部を細かく説明するというよりは、少しずつ感触を確かめて回って、外堀を埋めていくんですよ。そういう企画の通し方を、一緒にお仕事をする中で学ばせていただいた感覚があります。僕はそういう話を通す仕事を増やした立場ですが……。

石井玄
石井玄(いしい・ひかる)1986年生まれ、埼玉県出身。ラジオ番組制作会社にて『オールナイトニッポン』のチーフディレクターを経験。2020年からはニッポン放送エンターテインメント開発部のプロデューサーに

石井 脚本を本番直前で変えたときね(笑)。

小御門 さすがにもう通らないだろう、いろんな人に迷惑をかけてしまうと思いながら、僕は何もできずに立ち尽くしていたんですけど、石井さんが30分後くらいに収めて戻ってきてくれたときは、本当にすごいなと思いました。

石井 事前に「これは大変ですよ。いろんなことが起きますので」と皆さんに伝えていたから(笑)。あと、現場のチームレベルでは全員「おもしろくなるんだったらいいですよ」ってスタンスになっていたしね。ただ、小御門くんが(脚本を変えてから)急に言うもんだから、前もって「脚本を変えようと思う」とかジャブを打っておいてくれよと。じゃないとみんな慌てちゃうから。

小御門優一郎

小御門 脚本家になる前、会社員時代にもそういうことをやって怒られてきたので、石井さんのやり方は見習いたいです。

石井 そんな大したことはしてないんだけど、ジャブは大事だから。佐久間(宣行)御大に習ったことが、「とりあえず会社の利益を出すこと」「不必要な敵を作るな」というふたつなのよ。

小御門 リアル“ずるい仕事術”を授けられてるの、いいですね。

石井 だから、会社として成果が上がれば止める理由がない。『あの夜』はお金が生まれて、会社のいい評判にもつながる、ふたつの要素が入った企画なんだよね。そこを理解してもらえたら、会社に話は通せるのよ。企画が通らないときは、相手に理解してもらえていないことが多い。丁寧に説明をすれば、だいたいの人は納得してくれるから。

小御門 それこそ『あの夜』は当初「オンライン演劇」という言葉を使ってましたけど、紆余曲折を経て、最終的に「生配信舞台演劇ドラマ」という表現になりましたもんね。正直、やってる僕たち自身でもうまく伝えられないんですよ。

石井 僕の長所は、人の企画とかを聞いて理解するのが早いところだから。最初に『あの夜』のもととなる企画を持ってきてもらったときも、ちゃんと100%以上理解した上で「おもしろい」って言ってるので。でも、僕も同じように伝える難しさは感じたよ。ただ、社内に説明してわかってもらえないなら、お客さんもきっと同じようにわからないんだよね。

──石井さんが会社の中で話を通すために、自分なりのコツとして押さえていることはありますか?

石井 楽しそうに話すことですね。つい話してるうちに自信がなくなってきて内に入っていくものですけど、相手の土俵にズカズカ入っていくくらいのつもりで話す。「それ、どういうこと?」みたいな顔をさせないくらい楽しそうに説明すると、「なんかおもしろそうなことをやるんだな」と感じてもらえる。その上で、相手が疑問や不安に思いそうなことは先に潰して(説明して)おく。

小御門 なるほどなあ。

石井 最終的に、相手にとってめんどくさくなければいいから。なんかやらなきゃいけないとか、責任取らなきゃいけないとか、そういうことがないように説明しておくのが最終手段。社長がダメって言ったらダメだけど、今回は社長もノーミーツをおもしろがってくれたからよかった。

小御門 これは石井さん、3年以内くらいに仕事術の本を出しそうですね。

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鈴木 梢

(すずき・こずえ)1989年、千葉県市川市生まれ。出版社や編集プロダクション勤務を経て2019年からフリーランスに。主に日本のエンタメ/カルチャー分野の企画・執筆・編集を行う。もちもちしたものが好き。