あがいても、みっともなくても、幸せになるほうがいい
──おそらく小栗さんの脚色や演出によってちょっと印象が変わりそうですよね。
小栗 この作品を読んだときに、僕にはどうしても腑に落ちない部分がありました。たぶん、そのほうが芸術的なのでしょうけれど、僕は芸術性を選択するよりももっと登場人物の幸せにフォーカスしたくて。ただ表現が違っても言いたいことは同じだと思うんですよ。
シラーはどんなに抑圧された世界でもみんなが手を取り合って歌えればきっと世界は幸せになるんじゃないかと思っていたんじゃないかと僕は勝手に解釈していて。時代は違うけどそれは今も同じじゃないかな。
──ハッピーエンドが好きですか。
小栗 自己犠牲とか破滅的なものがかっこいいという美学もありますが、僕の美学は逆で、あがいてでも、どんなにみっともなくても、幸せになるほうがいいじゃないって思うんですよ。その象徴たるセリフを、小出恵介にセンターで堂々と言ってほしかったんです。そこだけは僕のエゴかもしれません(笑)。
──みんなの意見を取り入れつつ、エゴも少し潜ませる。
小栗 演出家として、これだけはブレないところは持った上で、みんなの意見をできるだけ取り入れたいと思っています。自分のやりたいことがあってもひとりで考えたことには限界がありますから、みんなのアイデアでふくらませていきたいんですよ。
名前や実績が取り払われて、パワーアップした小出恵介
──小出恵介さんはいかがですか。
小栗 3年も舞台に立っていないブランクを感じさせない、むしろパワーアップしていますよ。ニューヨークで勉強してきたことが役立っているんじゃないかな。日本にいたら小出恵介ってセンターに立っていた人間じゃないですか。それが向こうに行って名前と実績とか取り払われて、学生たちと一緒にやった経験がすごく生きていると僕は思うんですよね。
この現場に入ってきてもいい意味でみんなのお手本になってくれています。忌憚なく意見を言ってくれたり、そのあとで言い過ぎたかもと気を遣ってくれたりもして。関係性の中から役を作ろうとしてくれています。
──小出さんとは前から知り合いだったのですか。
小栗 旬が『シュアリー・サムデイ』(10年)を監督したころ、僕はアパレルショップをやっていて、映画のスタッフTシャツを作ったんです。それが縁でゆうばり(国際ファンタスティック)映画祭に参加したとき小出さんと面識があったくらいでした。小出さんがニューヨークにいるとき、思いきってインスタにオファーのダイレクトメールを送ったら返事をもらえたんです。
──さて、今回の舞台を経て、小栗さんのこれからはどう考えていますか。
小栗 今、演じたら、昔とはまた違うことができるかもしれないですけれど……。俳優をいつかまたやるかは別として、今、生きる道を考えているところで。2021年はなんでもやる年と決めていろいろ始めたんですよ。インスタを始めてインスタライブもやって、ラジオもこの稽古場の下にコミュニティFMのラジオ局があるので、そこで番組を2年間やりました。
そうしたら先日、TBSラジオに呼んでいただいたりもして。何をやらないということはなく、やらせてもらえるものは貪欲にやりたいです。でも今回、稽古をしながら演劇を作っていくことの楽しさを感じています。僕が俳優時代、いろいろ教えてくれたベテラン俳優たちからオーディションで選んだ若い俳優たちまでさまざまな俳優が参加していて、そこからアイデアが立ち上がっていく充実感を味わっています。
若い俳優たちは同世代との共演が多くて先輩にアドバイスをもらう機会が少ないそうです。だからこの稽古場では思いきりそういう体験もしてもらいたい。この公演をやり遂げたら、せっかくだからシラーのほかの作品もやれたらと思っています。ものを作ることはどんな現場でも楽しいですね。
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舞台『群盗』
作:フリードリヒ・フォン・シラー
演出・上演台本:小栗 了
会場:埼玉・富士見市民文化会館 キラリ☆ふじみ メインホール
出演:小出恵介
池田朱那/新里宏太/鍛治直人/塚本幸男/山口翔悟/妹尾正文/伊藤武雄/久道成光/上杉潤/西村大樹/中島拓人/今村俊一/尾形存恆/鈴木康史/池原滉大/太田龍之丞/佐々木崚雅
日程:2022年2月18日〜27日
※舞台『群盗』は2月18日からの公演を予定していましたが、23日(水・祝)まで休止することが決定しました。それ以降の日程などは、公式ホームページ等で発表予定
※2月22日追記:2月24日(木)からは上演されることが正式に決定しました
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