小出恵介「俳優という看板を、手放すことも考えた」葛藤を経た復帰と“一番やりたいこと”

2022.2.23
小出恵介

文=木俣 冬 撮影=吉場正和 編集=田島太陽


3年間、俳優活動を休止していた小出恵介さんが6年半ぶりに舞台で主演する。復帰作『群盗』(小栗了演出/2月18日〜27日※)は良家の長男がわけあって家を出て盗賊になり思いがけない転落の道を辿っていく物語(写真の衣装は舞台用のものです)。

作品を鋭く分析する小出さんは、活動休止前から人気俳優として活躍していた。『ROOKIES』(2008年)や『JIN-仁-』(2009年)などでまじめな役を演じる一方で、『のだめカンタービレ』(2006年)ではコメディリリーフと幅広い役を演じ、舞台では野田秀樹さんや故・蜷川幸雄さんの舞台に出演していた。

同世代の群像劇からどう突き抜けるか、それは若手俳優の課題のひとつである。小出さんもそんな環境で葛藤を体験してきた。でもアメリカでの演劇学習を経て俳優という職業への向き合い方が変わったと語る。わけあって俳優活動を休止してもなお、もう一度俳優をやろうと思ったわけは──。

※2月18日からの公演を予定していましたが、23日までは休止となり24日からの公演に変更となりました。詳細は公式ホームページでご確認ください。

小出恵介(こいで・けいすけ)
1984年、2月20日、東京都生まれ。2003年、俳優デビュー。映画、テレビドラマ、演劇など幅広く活動。2017年に活動休止し、ニューヨークで演劇の勉強をする。2020年に活動を再開し、ABEMA『酒癖50』、映画『女たち』に出演している。


小栗了、小栗旬……「小栗家に縁があるのかな(笑)」

──小出さんの大学の卒論は野田秀樹さんがテーマだったそうですね。

小出恵介(以下 小出) そうなんです。大学の卒論のために野田さんにインタビューさせてくださいとお願いしました。担当教授が野田さんのファンだったから同席してもらって、これで卒業できると確信しました(笑)。

──もともと演劇が好きだったのですか。

小出 僕が演劇を知ったのは大学に入ってからで、早稲田大学で演劇活動をしている人たちとの出会いをきっかけに小劇場を知ってすごくハマっていくなかで、野田さんの劇団・夢の遊眠社に辿り着きました。残っていた映像を観まくって、野田さんが主宰するNODA・MAPのワークショップにも参加できるようになったときは本当に嬉しかったです。

──野田さんの作品のどういうところが好きだったのですか。

小出 僕はどちらかというとアングラっぽいものが好きでした。高尚だけれどいたずら心があって。ちょっと抽象的で。でも明らかに漂うインテリジェンスと、社会的な重みのあるテーマを織り交ぜている感じがすごくおしゃれに感じて大好きでした。

──好きが高じてNODA・MAPの『MIWA』(2013年)に出演されています。その前に蜷川幸雄さんの舞台や岩松了さんの舞台など、そうそうたる演劇人の作品に出ています。今回、舞台に7年ぶりに復帰するにあたり、演劇を初演出する小栗了さんの作品『群盗』をやることにした理由はなんだったのでしょうか。

小出 ニューヨークで了さんから連絡をもらったときは、どういう舞台になるかまったく想像がつかなかったのですが、これは縁だと思いました。僕は、了さんの弟の小栗旬くんの初監督作『シュアリー・サムデイ』(2010年)にも主演していまして。今回はお兄さんの了さんの初演出舞台ということで、小栗家に縁があるのかなと(笑)。

それは冗談として、了さんと話をすると、演劇に関する造詣も深いし熱意もあって、いい印象を受けるんです。了さんは俳優時代、蜷川さんの舞台に出ていて、その文脈が太く流れている気がします。僕は、蜷川さんの演出作は『から騒ぎ』(2008年)、『あゝ荒野』(2011年)、『騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談』(2012年)、『盲導犬』(2013年)に出ていますが、亡くなる前にもう一回、ご一緒させてほしかったと後悔があるんです。

『盲導犬』のあとに何作か声をかけていただいていたのですが、タイミングが合わなくて。今回、蜷川カンパニーの俳優さんたちも出演していることもあって、蜷川さんの稽古場を思い出しています。恩師の現場の記憶と新しい座組が合わさった豊かな場だと感じます。古典の翻訳劇が『から騒ぎ』以来なので、古典の壁も含めた味わいもこんな感じだったなと思い返しているところです。

──古典の味わいや壁とはどういうものですか。

小出 長ゼリフをちゃんと語れてこそ古典だなと僕は思っています。この長ゼリフは比喩が多いし同じことを繰り返していて、ほんとは言いたいこと1行で済むでしょうというようなものです。それを略すことなく、与えられた分量を確実に言い切ることに逃げずに挑戦したいんです。

──『から騒ぎ』のときにそれを一度学んでいますよね。

小出 そうなんですが、初舞台だったので、演技の精度を上げることよりもまず舞台を経験するということだけでいっぱいいっぱいでした。初日にモノローグのセリフを一部すっ飛ばしてしまったこともあって。モノローグだから誰も助けてもらえずただただ沈黙が流れ……という苦い経験でした。残念ながらもう蜷川さんの演出を受けることは叶いませんが、もう一回シェイクスピアをやりたいんですよね。

──『ボクの四谷怪談』の初日に小道具を落として、素笑いみたいな顔になっていましたよね。それには逆に大物感を感じました。

小出 初舞台の初日の経験によって、そういうときは致し方ないものだし、失敗はあるもので、そのときは状況を受け入れるしかないという感覚を学んでしまったのかもしれないです。

──失敗なんてしてないふうにごまかしてしまう方もいますけど、開き直って対処する感じ?

小出 中には、ハプニングを逆手に取って楽しむ方もいますよね。うまくやれば客席がどっと沸く。僕もそういう経験をしているので、必要以上にピリピリしなくなりました。

20代のころは「自由であるべき」という思いもあったけど

──さて。今回の『群盗』をどう感じていますか。

小出 『群盗』はミニマムな悲劇ですよね。さまざまな要素が織り成されているわけではないシンプルな構造で、トリックもなければ人間関係の綾もないし伏線もないんです(笑)。ただただ瞬間瞬間の状況が描かれているからこそ、そのシンプルな悲劇を確実にお客さんにお伝えし、飽きさせることなく没頭していただくためにはどうしたらいいかといえば、シンプルな物語を照れずにやっていくしかないと思っています。

──逆に俳優に負うところが大きいのでは。

小出 役者としては怖いことです。

──私は台本を読んで、小出さん演じるカールが少年時代を思い出す場面に注目しました。

小出 あれ、すごいですよね。突如、トーンの違う感じの場面になりますよね。ともすると滑る可能性がある。笑いがあったほうがいいのか、むしろ笑わすのではなく泣くほうにもっていくかまだ探っているところです。

──どちらでも小出さんならやれそうですね。

小出 まじめな役割を担う作品も多くやってきましたが、笑いを取りたがる先輩に揉まれてきた経験もあって、僕も笑いの感覚も大事にしているところはあります。

──主人公は反体制で自由を求めて盗賊になります。この役を今の小出さんが演じると、パーソナルな面と重ね合わせる人もいるのではないかとも思うのですが……。

小出 それは僕も考えました。了さんがそれを含めて僕をキャスティングしたかはわからないですが、この役を演じるとき、どういうふうな受け止め方をされるだろうかと僕も思いました。でも僕には、カールの感じているこの世は不自由で、自由を求めることは尊いことであるというニュアンスがまったくないんですよ。

中にはカールのような考えを僕が求めているのではないかと想像する人もいるかもしれませんが、そういうところがないからこそ、この役ができると思うんです。僕がこの役に共感し過ぎて、これは俺がやるべき役だと重ねてしまうとたぶん痛いものになります。僕はどちらかというとどんどん長いものに巻かれていくほうで、そうやってうまくやっていこうぜっていうマインドなんです。……いや、徐々にそうなっていったのかな。20代のころは自由であるべき、芝居とはそういう精神の表れであるみたいな思いもあったかもしれないです。

でも、そういう時代を経て今は、演劇のみならず俳優という仕事において、全体あっての自分なのだということをようやく理解してきたところがあります(笑)。その結果、今や全然違う心持ちでカールを見ています。カールのような人物は損するよねって感じ。でもこういうタイプはいるし、なんだかかわいいなと思います。時代や国が違えば、自由を求めてルールを逸脱していくことは真っ当で正当なことになり得ることもあるのでしょうけれど、現代の日本でこれがマジョリティの価値観になるとは僕は思わないですね。

「今は『ROOKIES』のような作品を、一番やりたいですよ」


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木俣 冬

(きまた・ふゆ)フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。著書に『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち・トップアクターズルポルタージュ』、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。