“クズ芸人”鈴木もぐらは「幸せな家庭」を築けるか?『空気階段の踊り場』に滲む愛と喜び

2020.7.9
『空気階段の踊り場』

文=山本大樹 写真=鈴木 渉
編集=田島太陽


放送開始から丸3年が経った、『空気階段の踊り場』(TBSラジオ)。4月からは放送エリアが全国9局ネットに拡大し、リスナー層もますます広がっている。数々の「神回」を生み出してきたこの番組の魅力のひとつが、“クズ芸人”鈴木もぐらが語る家族との温かいエピソードである。

7月10日に行われるライブ配信朗読劇『アサミ〜愛の夢〜』に先立ち、ここでは『空気階段の踊り場』の特異性と魅力を「家族」というテーマで解説し、ラジオクラウドで聴くことができる傑作回を紹介する。また、越崎恭平ディレクターと作家の永井重行にもインタビューを行い、空気階段のふたりと番組の魅力を聞いた。

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鈴木もぐら、波乱万丈の人生譚

鈴木もぐら『空気階段の踊り場』
鈴木もぐら(すずき・もぐら)1987年生まれ、千葉県出身。2012年に相方の水川かたまりと空気階段を結成。主にコントを中心に活動している

「離れてる期間のほうが長かったからね。久しぶりに一緒に住めてっていう状況ですよ。……これからがんばんないとね」

2020年6月27日の『空気階段の踊り場』で、鈴木もぐらは感慨深げに呟いた。初めての恋人のともみちゃんと交際半年で結婚してから2年間、経済的な理由から妻と2歳の息子・たつまるとは別居生活を送っていた。実家に戻り、芸人の給料とカラオケバーのアルバイトで資金を貯め、そして2年越しにようやく高円寺のマンションで妻と息子との3人暮らしが実現したのだった。

東京と北海道で別居生活を送っている間、ともみちゃんは枕元の家族写真に写ったもぐらを指さして、「パパだよ」と息子に教えていたという。そして久々に家族と再会し、「ひとりでしゃがんで靴を脱ぐ」「サイレン音を聴いて“きゅうきゅうしゃ!”と言う」といった息子の成長に感動するもぐら。

念願叶って家族3人での生活が実現したこの日の放送だけでも感動的なので、ぜひラジオクラウドでさらに前の回から聴いてみてほしい。地上波のテレビでは“クズ芸人”として認知されている鈴木もぐらの、知られざる波乱万丈の人生譚が詰まっている。

キタノ映画のようなもぐらの幼少期

『空気階段の踊り場』
番組収録の模様

「子供のときはやっぱ怖いわけよ、なんでこんなに、もっとみんなが笑顔で楽しい家庭じゃないんだろうって」

2020年1月24日の放送(#144【本編】もぐら幼少期)では、もぐらの壮絶な幼少期の思い出が語られた。飲み屋とギャンブルで借金を重ねる父親に、「また借金してきたのか!」と毎日のように怒鳴る母親。千葉県の郊外の文化住宅で暮らしていたもぐら一家の生活は、けっして裕福なものではなかった。「ツケって言っとけば払わなくていいんだよ」と父にデタラメを教え込まれたり、両親の留守中に家を訪ねてきた借金取りに「これでなんか好きなもん買えよ」と千円札を渡されたりと、幼少期のもぐらと大人たちとのエピソードからはキタノ映画のようなブルースが感じられる。

番組初期の名物コーナー「サラリーマンじゃない人の声」に登場した数々の個性的な大人たちの話にも「なるほどねえ〜、深い!」と寄り添ってきたもぐらの人情味あふれる人柄の原点が垣間見える放送回だった。

もぐらの家族のトークでもうひとつ忘れられないのが、2019年3月8日の放送(#99【本編】「カネの人」がやってきた)で語られた妹・みいちゃんとのエピソードだ。9年間暮らした高円寺のアパートを引き払い、ともみちゃんと一緒に暮らす資金を貯めるために板橋の実家に戻ったもぐら。しかしその2カ月ほど前に、もぐらは実の妹のみいちゃんに絶縁されていた。

鈴木もぐら『空気階段の踊り場』
少年時代の心の支えは銀杏BOYZであり、峯田和伸とは高校時代に熱心なファンとアーティストとして知り合ったもぐら。2019年11月のイベント『空気階段の大踊り場』ではついに表舞台で初共演

理由は、幼少期のもぐらと妹・みいちゃんの遊びを考える「あんちゃん、あそぼ」のコーナーが本人にバレてしまったから(#92【本編】妹にバレて「あんちゃん、あそぼ」のコーナー終了へ )。そのほかにもみいちゃんが幼少期に描いた絵を無断で番組ステッカーに使用するなどやりたい放題だったもぐらに本人から鉄槌が下され、兄妹の間に決定的な亀裂が入ってしまったのだ。

久々に実家に戻った日、さっそく玄関でみいちゃんにファブリーズを吹きかけられるもぐら。仲睦まじく「あんちゃん」「みいちゃん」と呼び合っていた日々はどこへやら……。しかしトイレの壁に掛けられたカレンダーにふと目をやると、もぐらが帰省した3月5日の日付の上には、みいちゃんの字で“あんちゃん”と書き込まれていたのだった。

もぐらとみいちゃんとのエピソードはこのほかにも番組内で幾度となく語られている。間をたっぷりと取ってエモーショナルに話すもぐらの語り口も相まって、家族に関するエピソードはどれも秀逸だ。もぐらの「家族愛」は、この番組を貫くひとつの軸となっている。

“はぐれ者”のふたりが掴んだ幸せ

水川かたまり『空気階段の踊り場』
水川かたまり(みずかわ・かたまり)1990年生まれ、岡山県出身

番組は彼らの芸人人生と共に歩み、草月ホールでの番組イベントやもぐらとかたまりの番組内プロポーズ&結婚など、数々の節目を迎えながら今年の春で放送4年目に突入した。どうにも社会に適応し切れていない“はぐれ者”の彼らも結婚して家庭を持ち、放送スタート時からすると信じられないようなスピード感で人生を進めている。

私もひとりのリスナーとして、彼らの温かいトークに幾度となく励まされ、小学生同士のようなしょうもないケンカに爆笑して、仕事に悩んで落ち込んだ夜を番組と共に乗り越えてきた。ライフステージの変化に伴って、ふたりのトークの内容もこれから少しずつ変わっていくだろう。かたまりは愛する奥さんのためにキーボードを練習するし、もぐらはこれからともみちゃんと一緒にたつまるの成長を見守っていく。その過程をリアルタイムで共有してもらえることに、ラジオリスナーとしての喜びがある。

晴れて家族3人で高円寺のマンションに引っ越した当日、もぐらは「幸せな環境に慣れてなさ過ぎて寒気が止まらない」という謎の症状に見舞われたという。どうかこのまま幸せな生活を築いていってほしい。レールから外れた“はぐれ者”でも幸せになれる世の中のほうが、きっと素敵な世の中だと思う。

スタッフが語る『踊り場』ディレクター越崎&作家・永井


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