“クズ芸人”鈴木もぐらは「幸せな家庭」を築けるか?『空気階段の踊り場』に滲む愛と喜び

2020.7.9

スタッフが語る『空気階段の踊り場』

『空気階段の踊り場』
越崎恭平

ディレクター・越崎恭平「これだけファンがつくクズも珍しい」

――ラジオパーソナリティとしての空気階段の魅力はどんなところにあると思いますか?

越崎 あれだけマイクの前で素を出せるのはすごいなぁと思う反面、もうちょい放送のことを考えてくれよって思うときもありますね(笑)。放送中とは思えないくらい本音をぶつけ合って、本気でケンカしてることもありますし。なんでこんなにラジオを忘れられるんだろうって。

――確かに、お互いがムキになっている瞬間はけっこうありますよね。

越崎 もちろんラジオで流せないから切ってますけど、ふたりとも無言の時間が2、3分つづいたりとかもありますからね。かたまりがスタジオを飛び出したり。30分番組なのに、収録に6時間かかったりしますから。それだけ本音でやってるから、普通は隠したくなるような恥ずかしいエピソードもさらけ出せるんだと思いますけど。

――そういう部分をさらけ出しているからこそ、「サラリーマンじゃない人の声」に登場するような個性的な人たちにも温かいのでしょうか。

越崎 借金があったり親から仕送りをもらってたり、やっぱり本人たちもけっしてしっかりした人間じゃないので。そういう恥ずかしい部分も隠さずに話せるのが彼らのよさだと思います。マジメに生きてるように見えるサラリーマンの人でも「あれ、ちょっと自分、適応できてないな」みたいなことって普通にあると思うんですよね。そういう部分を肯定するというか、人のダメな部分を否定しないのが彼らのよさだと思います。というか僕も作家の永井さんももともと、就職せずにフリーターでひどい生活をしてたので、踊り場に関わってる人間全員“じゃない人”なんです。だから4人でいると居心地がいいんですよね。

――もぐらさんもあれだけクズエピソードがあるのに愛されるのはすごいですよね。

越崎 なんでなんですかね……。石を積んだ回(#20【本編】心に石を積む男)とかは「ほんとに無理」っていう声が多かったりもしたんですけど(笑)。でも、なぜか愛されるキャラクターなんでしょうね。だから先輩芸人にみんなかわいがられるし。クズと誠実さが同居してるから、その誠実の部分にみんな気づいてるんでしょうね。確かにこれだけファンがつくクズも珍しいと思います。

――かたまりさんもラジオを通じて少しずつ変わってきましたか?

越崎 あんまり変わってないっすね(笑)。マネージャーが担当を外れるにあたって、かたまりが自分だけプレゼントを渡した回(#164【本編】マネージャーへのプレゼント)なんて、3人で「かたまりが悪い」って言ったのに納得せずに怒っちゃって。でも次の週、お母さんに、「あなたは社会人として働いたことないからわからないだろうけど、もぐらが正しいのよ」と言われただけで納得してましたからね。いまだにお母さんの言うことは絶対なんだなって思いました(笑)。

『空気階段の踊り場』
永井重行(写真奥)

作家・永井重行「笑えるんだけどあったかくて涙が出る」

――構成作家の立場から見て、この番組の魅力とはなんだと思いますか?

永井 ひと言で表現するなら「今を生きている」感ですかね。僕はずっとTBSラジオの「JUNK」をやっているんですけど、基本的に芸人さんのラジオって売れている人のプライベートの話を聴ける場所、っていうのが多いじゃないですか。でも、ふたりともまだまだテレビでよく観る人って感じでもないし、仕事も恋愛も、まさに成功するか失敗するかっていう渦中にいる様子を放送してきたので。「今、この状況どうすんだ?」っていうリアルな感じが、ほかの芸人さんのラジオにはあんまりない魅力なんじゃないかなと。

――一部のリスナーからは「ドキュメンタリーラジオ」とも呼ばれていますよね。

永井 ふたりの人生が乗っかっている感じがするから、そう言っていただけるんでしょうね。極論を言えば、もしかしたら5年後に誰もこの番組のことなんか覚えていないし、本人もいなくなっているかもしれない、っていう可能性もある。そういうところでやっているからこそ、リスナーも僕らスタッフも楽しめるのかもしれません。

――特に印象的だった放送回はありますか?

永井 かたまりくんの号泣プロポーズ(#79)とか、「駆け抜けてもぐら」(#103)とかいろいろありますけど、強いて言うならかたまりくんのマザコンが発覚した回(#29)ですね。マザコンをイジられた大人が「僕はマザコンじゃないってお母さんも言ってたんだ! だからマザコンじゃない!」って本気で主張してくる狂気というか……。それまではもぐらくんのクズな部分をイジっていたのが、かたまりくんもまったく違う方向でヤベえヤツだったっていうのが発覚して。それまではかたまりくんが一方的にもぐらを責めていたのが、回によってどっちも責めたり責められたりするようになりました。

――確かに、あの放送は衝撃的でした。もぐらさんのトークはどうですか?

永井 もぐら将棋部の思い出(#117)は本当におもしろいですね。将棋部入部までの青春ストーリーがあって、魅力的なキャラクターがいて、最終的には大会に出られないっていう(笑)。あと、僕はもぐらくんの家族のトークが本当に好きで。もぐらくんの家族の話を聴いていると、なんか笑えるんだけどあったかくて涙が出るみたいな……。もぐらくんのお母さんも妹のみいちゃんも、僕は会ったことがないんですけど、すごい好きなんですよ。かたまりくんも本当にいいお父さんとお母さんに育てられたんだろうなっていう感じがしますし、ふたりとも家族の話は本当にいいですよね。

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