小出恵介「俳優という看板を、手放すことも考えた」葛藤を経た復帰と“一番やりたいこと”

2022.2.23


NYで学び、楽になったし迷いもなくなった

──20代からさまざまな経験をして変わられたのですね。アメリカで勉強したことはどんなことが生きていますか。

小出 僕は演劇の学校にふたつ通っていました。4大メソッドのひとつといわれるウタ・ハーゲン系のものと、サンフォード・マイズナーの直弟子の方によるマイズナー・テクニックの学校に行きました。そこで、今までの自分の役者生活を否定されたとは言いませんが、わりと覆されました。それまで日本で役者同士が集まって演技論というか、こうあるべき論を語っていましたが、それは本来の役者とはかくあるべきということとは全然違ったんです。

──役者とはどういうものなのでしょうか。

小出 僕がニューヨークで学んだ印象では、役者とは脚本を的確に過不足なく伝える仕事です。欧米の演劇学習とはそれを伝える技術を身につけることなんですね。それまでは自分の個性をいかに出して目立つかっていうところを大事にしてきました。全部が全部ではないけれど、そういうことも多かったです。でもそうじゃないことを学びました。逆に、自分が目立つとか前に出るとか、存在を際立たせることは一番やっちゃいけないことなんですよ。

そう学んだ上で欧米の作品を見ると、役者が非常にオーガニックに見えるのはそのせいなんだと感じます。皆さん、私利私欲がなくて作品や役に奉仕することが当たり前という共通理解ができているんですよね。だからノイジーなものが少ない。悪目立ちする俳優が少ないのはそういうことなんですよね。僕もそういう場に身を置くようになったらだんだんその感覚がしっくりくるようになって、そうすると楽になったし迷いもなくなりました。その視座を持って作品を見ると見えるものが違ってきます。

たとえば、サイモン・マクバーニーのワークショップでは参加者全員があらゆる役をやるんですよ。主役は主役しかやらないのではなくて、誰もが主役から端役までリーディングでスイッチングしながらやっていく。要するに、自分がどのポジションであれカンパニーのひとりなのだという感覚を養うことが全体の協調性を作るのだと思うんです。

──日本の演劇もだんだんとそういうふうになっているのかもしれないですね。

小出 そうなるといいですよね。この間、モダンスイマーズの公演を観たら、僕がアメリカで観てきた作品に近い作り方をしているように感じました。スター俳優中心ではなく、全体で作っているし、ミザンス(役者の配置)もすごくキレイで、流動的で、そうしながら戯曲の世界を的確にお届けしようとしている感じがして、僕は非常にいいなと思いました。

「今は『ROOKIES』のような作品を、一番やりたいですよ」

──小出さんは俳優として素晴らしいのでしばらくお休みされてもったいないと思っていましたが、クレバーな方なので、俳優でなくてもできることもあったのではないかとも思ったのですが、やはり俳優しかないですか?

小出 そこはねえ……迷いはあったんですよ。一回ケリをつけたほうがいいのかなとか。俳優という看板を背負っているのも辛いし、手放したほうが楽だなと思ったこともありましたが、僕の経験したことを一番還元できるのは表現者だというところに行き着くんですよね。それに、いろんな方々に、とにかく俳優を辞めるなと連絡いただきました。普段、連絡くださるような人じゃない方まで連絡をくれて。そうしたら絶対に戻って、もう一度、表現の場でこの方たちと会わなきゃいけないと思うんですよ。

野田秀樹さんも、ちょうど僕がニューヨークにいるときにニューヨーク公演をやられていて、人伝てに観においでとおっしゃっていると聞いたので、チケットを買って観に行って。その後、ご挨拶したら、『おまえ大変だったな、だいじょうぶ、だいじょうぶ』とすごく励ましてくださって、ありがたかったです。

──最後の質問です。映画にもなったヒットドラマ『ROOKIES』(2008年)に出ていたころ、何を考えていましたか?

小出 『ROOKIES』のころは……芸能活動を始めて何年か経ったころで、若者の群像劇をやらせてもらうことが多かったのですが、『ROOKIES』の直後に初舞台の『から騒ぎ』に出たんですよ。芸能人的な立ち位置から俺もそろそろ本物の役者になりたいと思っていた時期でした。だから、ドラマの現場では面倒くさかったと思います。真っすぐ熱い青春ものをやりながら、心の中では冷めていました。こんなことしたり(拳を振り上げる)、こんなことしたり(体を斜めにして腕を組む)しながら、僕がやりたいことはこれじゃないんだけど……っていう空気を出していたのでしょうね。実際言われたこともあるんですよ、すごく面倒くさいやつだったって(笑)。でもそういう現場から離れたら離れたで、やりたくなるんですよ。今一番やりたいですよ、ああいう作品が。

──ほんとですか?(笑)

小出 ほんとに。たとえば阿部寛さんが日曜劇場(『DCU』/TBS)に出ていらっしゃいますよね。阿部さんのセリフが深く刺さるのはシェイクスピア劇などの下地があるからだと思うんです。僕も今こそ正当なエンタメもしっかり演じてみたいです。

【関連】小栗了「弟の代役で、何もできなかった」後悔を糧に。ブレない意志と新しい挑戦の日々


舞台『群盗』

作:フリードリヒ・フォン・シラー
演出・上演台本:小栗了
会場:埼玉・富士見市民文化会館 キラリ☆ふじみ メインホール
出演:小出恵介
池田朱那/新里宏太/鍛治直人/塚本幸男/山口翔悟/妹尾正文/伊藤武雄/久道成光/上杉潤/西村大樹/中島拓人/今村俊一/尾形存恆/鈴木康史/池原滉大/太田龍之丞/佐々木崚雅

日程:2022年2月18日〜27日※
※2月18日からの公演を予定していましたが、23日までは休止となり24日からの公演に変更となりました。詳細は公式ホームページでご確認ください。

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木俣 冬

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木俣 冬

(きまた・ふゆ)フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。著書に『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち・トップアクターズルポルタージュ』、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。

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