燃え殻が語る、フラッシュバック物語術「いつだって、思い出は途中から始まり、人間関係は途中で終わる」

2021.9.22

あのころの僕だったら観に行く

「他人の夢って、すげえつまんないと思うんですけど、自分が見た夢って、人に言いたくなるじゃないですか。これ(『湯布院奇行』)もちょっと夢っぽかったんです」

──伝えたかったんですね。

「そうそう。やけに伝えたくなってしまった淫夢と悪夢。ちょっと葛籠(つづら)に入れてた物語。それをぱかっと開けた」

──みんな、おじいさんになってしまうかも。

「けぶった先にいろいろあって。小さい葛籠に入っていたものが、こんなに大きくなってしまって。『ボクたちはみんな大人になれなかった』がNetflixで映画になるのとはまた違う意外性。Netflix、大丈夫ですか?とも思うけど、新国立劇場、大丈夫?はもっと思います(笑)」

──いやあ、これが新国立劇場で上演されるの、痛快です!

@tbs_yufuinkikou

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♬ オリジナル楽曲 - 【公式】朗読劇「湯布院奇行」

「Netflixのことで今年はアタマいっぱいだなと思ってたんですけど、なんですかこれは? 不思議なことが起きるなあ。コロナ禍だしなあ、世の中」

──そうかもしれません。『湯布院奇行』は浴びるものでもあるけど、けぶるものでもありますね。液体というか、蒸気というか。

「湯煙がすごい(笑)。僕は、熱海とか、温泉地に仕事サボって行くのが好きなんですよ」

──サボって行くからいいんですよね。休暇を取って、じゃダメですよね。

「誰かにウソをついて行くっていうのがいいじゃないですか。どうぞどうぞじゃ、こっちも張り合いがない。やっぱり、ウソのひとつやふたつもつきたいじゃないですか。品川からフラッと新幹線に乗っちゃって、温泉地に迷い込んで、その先にこんなことがあって、東京にうしろめたいこともある。混沌と交錯。どこにも辿り着かない……人に言えない話。小さな葛籠に入れていたものを、大々的に言う。まあ、ある種、痛快かもしれません」

──葛籠の中のもの、すでにすごい「旅」してますね。

「あまりに旅立ち過ぎて、バサバサ。『ボクたちはみんな大人になれなかった』がNetflixで世界配信もそうなんです。まったく一緒ですね。誰も読まないと思って書いていたものがNetflix。(連載していた)『cakes(ケイクス)』のときは、これは誰も読まない、これは誰も読まないと呪文をかけていました。でないと書けないです、恥ずかしくて」

『ボクたちはみんな大人になれなかった』予告編 - Netflix

──あれは、そういう物語ですよね。

「ナルシシズムというか。カッコつけてるときって、一番カッコ悪かったよね、っていうころのことを書きたかった。そのためにはカッコつけて書く必要がある。カッコつけてて、タガが外れてるときってあるじゃないですか。横浜のビブレでポール・スミスの服買って、誰とも待ち合わせしてないのに、渋谷までとりあえず来たことあるんですよ」

このインタビューは、渋谷で行われている。

「とりあえずハチ公前でじっとしてみて。ポール・スミスを街に見せるという儀式(笑)。そのときは真剣なんです。今考えるとアウト!とジャッジできるんですが、そのときのことを書いてる自分は、やっぱりカッコつけてギンギンで書いてるほうが笑えるだろうなと。だから、もう恥ずかしい、に追いつかれないように書いていました。

『湯布院奇行』は、自分の中のナルシシズム、エロティシズムも含めて、あんま人に言えないなということを誰にも見せるつもりなく書いてたんです。でも『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、自分のことより好きになった女の子がいたんだ……って感じでわかって鳴らしていた」

──曲ですよね。

「J-POPって感じといいますか、はい。じゃあ、これ(『湯布院奇行』)はなんですかね……(笑)。『スネークマンショー』。いやそんな素晴らしいものじゃない。これに関しては(あえてカッコつけるとか)想定しないで書いた。その意味では自分でも臓物をそのまま出してしまった感じがしているんです」

──燃え殻さんは、ひとつの極に向かわないですね。

「つげ義春を読みながら、『ガロ』のバックナンバー集めて、オザケンのアルバム聴いてる。ある種、カルチャーごった煮で、どっちの人にも『お前、わかってねーなー』と言われてしまう自分からすると、このメンバーでこんな話(『湯布院奇行』)をやるのか、観に行きたいな!って。あのころの僕だったら観に行くだろうなって匂いがプンプンしてる、自分はとりあえず横に置いて、ほかのメンバー見ただけで」

物語はちゃんと別れ過ぎ

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