初監督に挑んだ安藤政信が語る、デビュー25年で辿り着いた“仕事の流儀”「やればやるだけイスは増える」

1996年に公開された北野武監督の映画『キッズ・リターン』で鮮烈なデビューを果たしてから25年、常に異彩を放ちつづけてきた俳優・安藤政信。そんな彼が今回、初めて映画の監督を務めた。
その作品とは、2021年9月17日公開の『MIRRORLIAR FILMS Season1』内の一編『さくら、』だ。友人の恋人と秘密の逢瀬を重ねていた主人公が、突然の友人の死を経て、3人の関係が次第に歪んでいき、翻弄されていく様をポエティックに描いている。
「MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)」は、俳優の山田孝之らがプロデューサーを務め、クリエイターの発掘・育成を目的に、映画製作のきっかけや魅力を届けるために生まれた短編映画制作プロジェクト。“変化”をテーマとした、年齢や性別、職種も異なる36名の監督による短編映画を4シーズンにわたってオムニバス形式で公開する。
「俳優」だけでなく、「写真家」としての顔も持つ安藤は、「映像作家」として『さくら、』にどのように挑んだのか。そしてこの混迷を極める時代に、事務所に所属せずフリーランスとして活動する上で大事にしている、その“仕事の流儀”についても話を聞いた。
頭の中にあるものをカタチにしたいと思った
『さくら、』は、美術、音響、画面構成など、随所に安藤のこだわりが感じられる、イマジネーションあふれる作品だ。俳優という枠だけに収まることのない活躍を見せる、安藤政信にしか生み出すことのできない映画に仕上がっている。そんな安藤は今、「俳優としてだけじゃない発信の仕方をしていきたい思いが強くなっている」のだという──。
──『MIRRORLIAR FILMS Season1』に初監督として参加された経緯を教えてください。
安藤 (山田)孝之が初めてプロデューサーを務めた、『デイアンドナイト』(2019年)からの縁です。同作の公開時のあるトークショーの帰り際に、孝之から「安藤さん、映画を撮る気はないですか?」と言ってもらったんです。僕は、仲間が何かに挑戦しようというときには、その何かに対して一緒に立ち向かいたいという思いがあるんです。断る理由はありません。「MIRRORLIAR FILMS」のピースのひとつとして僕を選んでくれたんだったら、このピースは全力でよいものにしようと思った。それが始まりです。
──映画を撮りたいという欲求は前からあったんですか?
安藤 監督をやるという経験が、自分の人生にあるとは思っていませんでしたね。映画は好きだし、「撮ってみたいな」という意識はあったけど、でも、実際に撮る踏ん切りみたいなものがなかった。だけど、これをきっかけにその“線”を超えられたし、これから「映像作家」としての活動も展開していけるよう、丁寧に作ることを常に意識していました。やるからには、この1回だけで終わらせたくない。そういう思いがありました。

──『さくら、』は、魅力的な座組によって作られていますよね。
安藤 僕のまわりには、各パートをお願いしたい一流の仲間たちがたくさんいます。なので、「映画を撮ることになったから、どうか力を貸してほしい」と、撮影の田島一成さんや美術の佐々木尚さん、スタイリストの長瀬哲朗さん、音楽のKMさんなど、一人ひとりに伝えて回りました。脚本も木舩理紗子さんとゼロからセッションを重ねて作っていきましたね。


──俳優業だけに留まらない安藤さんのさまざまな活動が、『さくら、』にも反映されているのですね。
安藤 写真を撮ることであったり、“何かを作る”ということはずっとやっていきたいと思っています。だけどそれをどこで発信するのか、どのように発信するのか、それがちょっとわからなかった。でもたとえば、“東京ファッションウィークで写真を撮る”という発信をしてみたら、『GQ JAPAN』で写真を撮ることが決まったという経験があって。そういった積み重ねで、どんどんつながりが広がっています。特に今、俳優としてだけじゃない発信の仕方をしていきたい思いが強くなっています。


──演じること以外の表現方法ですね。
安藤 共演者の写真を撮って、それを作品のようにしてプレゼントしたりすることは20代のころからやっていました。でも、自分の頭の中にあるものを空想だけじゃなくて、カタチにしたいと思ったんです。ドメスティックじゃなくて、ちゃんと外に向かって表現しなければと。それを数年前からやり始めたら、運よく物事が進んでいます。この流れの中に、今回の「映像表現」というものがあるんです。
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