浅野いにお『うみべの女の子』映画化で監督がこだわった3要素「性描写」「台風」「風をあつめて」

2021.8.19

(c)浅野いにお/太田出版・2021『うみべの女の子』製作委員会
文=原 航平 編集=森田真規


浅野いにおの同名マンガを原作とした映画『うみべの女の子』が、2021年8月20日に封切られる。

強く目を惹く性描写と、中学生ならではの混乱した心理描写、ある少女と少年のひと夏を経た輝きが及ぼす爽やかな読後感……。とてもひと言では表せない、複雑な感情と表現が混じり合ったマンガを映像化するには、いくつもの越えなければいけないハードルがあったはずだ。

この難題に対して、ウエダアツシ監督はどういった回答を示したのだろうか。そこには、役者や原作者との対話があった──。

【関連】浅野いにお、自作『うみべの女の子』を語る「結論も教訓もないけど、物語はつづいていく」

大人に介入されない、小梅と磯辺のエネルギー

「浅野いにおさんのマンガはファンの方が多いので、映画がどう受け止められるのか、楽しみでもあり、ドキドキもしています。ただ、やるべきことはすべてやったかなと思います」

映画『うみべの女の子』予告編

『ソラニン』以来11年ぶりに実写映画化される浅野いにお作『うみべの女の子』に対しては、SNS上でファンからの期待と不安の両方の反応が見られた。映画の監督を務めたウエダアツシも、もともと一読者としてマンガに接してきたひとりだ。原作をどう受け止めたのか。

「原作に初めて触れたとき、やはり性描写が目に入りましたけど、印象に残ったのはストーリーのほうでした。小梅と磯辺の関係は肉体の交わりから始まりますが、性行為を経るほどにより感情のほうが強く重なり、関係性も繊細に変異していく。ものすごいエネルギーを感じました。中学生でありながら、ふたりがあまり大人に介入されずに、自分たちの意思で正面からぶつかり合う。初読時から、この強烈な物語をいつか映画化したいという想いが芽生えていました」

磯辺役の青木柚(右)と写真に収まるウエダアツシ監督

ウエダアツシ
1977年生まれ。2014年、長編映画初監督作『リュウグウノツカイ』が「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014」にて北海道知事賞を受賞。監督作に『桜ノ雨』(2015年)、『天使のいる図書館』(2017年)、「谷崎潤一郎原案/TANIZAKI TRIBUTE」の1作『富美子の足』(2018年)などがある。

“今の日本映画界にない”作品を撮りたい

ウエダ監督が『うみべの女の子』と出会ったのは、連載時から少しあとの2014年ごろだったという。のちに映画の共同脚本を担うことになる、平谷悦郎からの勧めで読み始めた。2014年はまた、ウエダ監督が『リュウグウノツカイ』で長編映画監督デビューを果たした頃合い。2作には、「海辺」「多感な10代」「性」が物語に内在するという共通点がある。

映画『リュウグウノツカイ』予告編

「青春映画にこだわりがあるわけではないですが、“今ない映画を撮りたい”という思いは常にあります。“新しい”という意味でもいいし、“昔はあったけど失われてしまったもの”という方向性でもいい。あんまりほかと似たような映画を作っても仕方ないかなという思いもあって、新しい切り口を探しているときに『うみべの女の子』に出合いました。間違いなく“今ない映画”にはなると思いました」

映画化する上で、これだけは外せないという要素が3つあったという。それは、性描写、台風、そして、はっぴいえんどの「風をあつめて」。「これがないと、自分が読んだ『うみべの女の子』とは別物になってしまう」。

思春期ならではの“性”との向き合い方が描かれた『うみべの女の子』
ウエダ監督が外せない要素のひとつとして挙げた台風
挿入曲として使用された、はっぴいえんどの名曲「風をあつめて」

どれもともすれば組み込むのが困難な要素ではあるが、ウエダ監督は強いこだわりを持って映画化を進めていった。

石川瑠華と青木柚にあった中学生らしさ

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