原作の雰囲気を宿すために
ウエダ監督が『うみべの女の子』を映画化する上でなくてはならない要素だと挙げていた「性描写」。作品の核を成す部分でありながら、そのハードルはあらゆる意味でとても高い。通常の撮影とはまた異なる意識が役者にも監督にも要求されたことは容易に想像できる。
「感情をつないでいく行為であるわけなので、何も考えずに演じてほしくはありませんでした。最終的にはその行為自体よりも気持ちのほうを演じてもらうことが大事なので。だから実際の動線だったりは現場で話し合って決めるんですけど、それ以上に感情についての話し合い、撮影前のディスカッションを重視していました。やはり何回も撮れるものではないので、少ない回数のテイクで精度を高めるということが必要でした」
アングルや構図など、原作を意識した描写も多い本作。ロケーション選びにもこだわりがあった。
「浅野さんのマンガは、実際の写真を線画に加工した背景にキャラクターを載せて描かれています。すなわち、背景に使われた場所が実在するということなんです。そういうことであれば、極力その場所で撮影したい。茨城の大洗と横須賀が半々くらい。スタッフに無理を言って撮影したところもあれば、交渉してダメだったところもあるのですが。
その気概に美術部も乗ってくれて、文化祭の看板はフォントを似せて作ったり、磯辺の部屋は原作にあるものもそろえて作り込んでくれたりしました。最も重視して描くべきは小梅と磯辺の心情ではありましたが、そういった遊び心のような、原作の雰囲気が宿る映画にはなっていると思います」
広い視野でふたりの時間と小梅の成長を捉えた物語
原作者の浅野とも何度か打ち合わせを行い、内容を詰めていったという。その過程でのアドバイスも柔軟に映画へと取り入れられた。
「最初の脚本は約90分の上映時間を予定して書いていたので、桂子(中田青渚)と鹿島(前田旺志郎)の印象が薄かったんです。その脚本を読んだ浅野さんに『小梅と磯辺の対比として、桂子と鹿島というキャラクターを描いてほしい』と言っていただいて。それで群像を意識したもうちょっと広い視野でふたりの大切な時間を描き、人生の中での小梅の成長を捉える必要があると思い、方向転換しました。それが結果的にとてもよかったと思います。あるふたりの中学時代の短いひと時に焦点を当てた映画ではありますが、そこに閉じているわけではない。それゆえに、恋愛の普遍性が見て取れ、年齢を重ねた大人にも響く物語になっていると思います」
-
映画『うみべの女の子』(R15+)
2021年8月20日(金)新宿武蔵野館ほか公開
監督・脚本・編集:ウエダアツシ
原作:浅野いにお『うみべの女の子』
音楽:world’s end girlfriend
挿入曲:はっぴいえんど「風をあつめて」
出演:石川瑠華、青木柚、前田旺志郎、中田青渚、倉悠貴、村上淳
配給:スタイルジャム
(c)浅野いにお/太田出版・2021『うみべの女の子』製作委員会関連リンク
関連記事
-
-
天才コント師、最強ツッコミ…芸人たちが“究極の問い”に答える「理想の相方とは?」<『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』特集>
Amazon Original『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』:PR -
「みんなで歌うとは?」大西亜玖璃と林鼓子が考える『ニジガク』のテーマと、『完結編 第1章』を観て感じたこと
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
「まさか自分がその一員になるなんて」鬼頭明里と田中ちえ美が明かす『ラブライブ!シリーズ』への憧れと、ニジガク『完結編』への今の想い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
歌い手・吉乃が“否定”したかった言葉、「主導権は私にある」と語る理由
吉乃「ODD NUMBER」「なに笑ろとんねん」:PR