浅野いにお『うみべの女の子』実写映画化で主演ふたりが感じた重圧「モヤがかかっているけど、あの夏のことは忘れられない」

2021.8.14
石川瑠華×青木 柚

文=原 航平 撮影=向後真孝 編集=渡部 遊
ヘアメイク:佐竹静香(石川瑠華)、亀田 雅(青木柚)
スタイリスト:岩渕真希(石川瑠華)、小宮山芽以(青木柚)


爽やかな青春に性と暴力が混じり合う、思春期特有の定義できない感情や行動で満たされた『うみべの女の子』(2021年8月20日公開)。映像化は困難とされてきた作品だが、石川瑠華と青木柚はふたりの主人公に確かな生を刻んでいる。小梅と磯辺に向き合った撮影期間について、直面した重圧やためらいなども含めて話を聞いた。


「真似る」のは違うと思った

映画『うみべの女の子』予告編

──映画を拝見して、紛れもなくそこに小梅と磯辺がいることに新鮮な驚きがありました。浅野いにおさんの原作を映像化する上でのプレッシャーはありましたか?

青木 絶大な支持を得ているマンガなので重圧はもちろんありましたけど、それ以上に、原作を読んで磯辺という人間を知ったときに「出会えた感覚」があって。「絶対に自分が演じたい」と思う役と出会う機会がたまにあるんですけど、今回の磯辺はまさにそうだった。だから丁寧にひとつずつやっていくしかないなって気持ちでした。

石川 (青木柚は)全然プレッシャーを感じてる様子はなくて、堂々と、力を抜いて臨める人なんだなって思ってました。あと、原作の磯辺にビジュアルがすごく似てたから、「うらやましいな〜」って……(笑)。

青木 撮影を見に来られた浅野さんにも「似てるね」って言われたんですけど、原作者からのその言葉以上の支えはなかったです。

石川 いいなぁ、それ。

青木 小梅も「そのまんまです」って言ってもらってたと思う。でも、似てる似てないというより、瑠華ちゃんは完全に小梅だったから。僕以上の覚悟を持って現場にいたんだと思います。

石川 私は、原作があるものを映像化することにあまり賛成意見を持てなくて。ファンの人ががっかりしないかを考えるんです。自分がそのとき22歳だったので、14歳の女の子を、身体もわかってしまう上で演じていいのか……という逡巡もありました。でも、どうしても小梅を演じたくてオーディションを受けました。私以外の人に演じてほしくない、という気持ちも大きかった。小梅の中に渦巻く多面的な感情のことを私は知っていたから、それを理解して体現することは、私だからこそできることでもあるのかなって思って。

石川瑠華×青木 柚

──多面的なキャラクターを演じる上での難しさや工夫したところはありましたか?

石川 原作は全シーン素晴らしいけど、その顔とか表情をすべて頭に入れて「真似る」のは違うと思って。だからじっくり読み込んだんですけど、そのあとにすべて忘れ去りました。ちゃんと小梅の感情のことだけを考えながら演じようと思っていましたね。

青木 僕も原作はもちろん読み込んだんですけど、「磯辺はこういうキャラだ」とか決めつけて演じたくはなくて。そこはいつもどおりの役への向き合い方だったと思います。マンガの中の登場人物だとしても「人間」であることに変わりはないので。原作では磯辺が自分のことを「中二病」って卑下しますけど、そういう言葉に囚われ過ぎないように。

石川 私も、「メンヘラ」とか「自己中」とか、性格をひと言で片づけられてしまうのは嫌で。原作の小梅も、浅野先生はそう言われないように描いてたはずだから。

再現ではない感情描写へ

石川瑠華×青木 柚

──小梅と磯辺、表情ひとつ取っても本当にいろんな性格が垣間見えるキャラクターでした。

青木 磯辺という役は、小梅や父親(村上淳)、鹿島(前田旺志郎)と「一対一」で接するシーンが多かったんです。誰しも話す相手によってそれぞれに違った表情や温度感が生まれると思うんですけど、自分の中で磯辺の芯を確立しておかないと、その違いがブレに見えてしまうと思って。心の奥のほうに磯辺という人間の芯があれば、相手と対峙したときに自然発生的にひずみが生まれる。それが結果的に多面性につながるのかなと。

──その芯は言語化できるものではないけど。

青木 そうですね。でも、磯辺に出会ったときに「心が軽くなった」っていうのがあって。それは、少なからず自分の過去と重なる部分があったからなんですよね。その経験が芯を形作る上で役立ったんだと思います。

石川 軽くなった、と言った青木くんと逆になるんですけど、私は小梅と出会ったときに「重く」なりました。自分の過去ではまったく経験しなかったことだったので、感情的にプラスになったというか。だから、もちろん軸みたいなものはあったんですけど、それよりも、話している相手やその人の表情に逐一反応するほうが大事かなって思っていました。小梅はまわりに大きく左右されるけど、そのどれもが本当の感情だと思ったので。

──性描写や暴力描写の多さが、やはり実写化する上での難点ではあったと思います。

青木 性描写そのものよりも、その行為を通して表れる磯辺と小梅の気持ちのすれ違いとか、関係性の変化を大事にしたいと思っていました。うまくいかない葛藤とか、素直に自分の感情を伝えられなくて塞がってしまうような、そうした感情の機微が丁寧に描かれていた原作だったから。

石川 原作を読んでも性描写が多いのはわかるし、それを忠実に映像化したらきっとそればかりが目立って本質がブレちゃうんじゃないかなってのは危惧してたよね。だから、ただ性描写がそれとしてあるのではなくて、そこを超えた、ふたりが背負うものが伝わればいいなって。その行為に及ぶ気持ちは毎回違うと思うので、ひとつの行為として取り上げるのではなく、映画の一連として観てもらえたらいいなと思います。

──撮影は順撮りだったのでしょうか。

青木 場所ごとでしたね。最初が学校で、それが終わったら海辺のシーン、それから磯辺の家での撮影、という感じで。

石川 だんだん人が減っていったんだよね(笑)。

青木 そうそう。最初は鹿島とか桂子(中田青渚)がいたんだけど、みんな次々にクランクアップしちゃって。後半はほぼふたりで。

石川 「こっからがヘビーだね」って。私はそこからの撮影があまり記憶にないんです。

青木 ああでも、ほんとそうかも。磯辺の部屋は兄の死が漂う部屋として美術さんが忠実に再現してくれたこともあってとても重苦しくて。あの撮影を思い出すと、モヤがかかってる感じがする。そういう曖昧な記憶だけど、あの夏のことは絶対に忘れられないと思う。

石川 うん、忘れることはない。

──劇中で描かれる夏の雰囲気ともリンクしているようですね。

石川 何かいいものを観たんだけど、モヤモヤが残るような。その感覚を、映画でも感じてもらえる力強さがあると思います。

青木 多くの人が受けてきた痛みや傷と地続きの映画だと思うので、ぜひ劇場で観てほしいですね。

石川瑠華
(いしかわ・るか)1997年生まれ、埼玉県出身。2017年から女優としての活動を開始。2019年、映画『イソップの思うツボ』で主演に抜擢。2020年、『13』で連続ドラマ初レギュラー。今年は『猿楽町で会いましょう』が公開された。待機作に『闇國』(21年公開予定)がある。

青木 柚
(あおき・ゆず)2001年生まれ、神奈川県出身。俳優。2016年公開『14の夜』で映画デビュー、『スパゲティコード・ラブ』『MINAMATA』の公開が控えている。

■衣装
石川瑠華
ジャケット¥96,800、パンツ¥66,000、カットソー¥22,000、靴¥93,500(税込価格):Y’s(ワイズプレスルーム) 
靴下:スタイリスト私物
《問い合わせ先》
ワイズプレスルーム 03-5463-1540

青木 柚
羽織のシャツ・Tシャツ:CORD
パンツ:verandah aoyama


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  • 映画『うみべの女の子』(R15+)

    2021年8月20日(金)新宿武蔵野館ほか公開
    監督・脚本・編集:ウエダアツシ
    原作:浅野いにお『うみべの女の子』
    音楽:world’s end girlfriend
    挿入曲:はっぴいえんど「風をあつめて」
    出演:石川瑠華、青木柚、前田旺志郎、中田青渚、倉悠貴、村上淳
    配給:スタイルジャム
    (c)浅野いにお/太田出版・2021『うみべの女の子』製作委員会

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原航平

Written by

原 航平

(はら・こうへい)ライター/編集者。1995年生まれ、兵庫県出身。映画好き。『リアルサウンド』『クイック・ジャパン』『キネマ旬報』『芸人雑誌』『メンズノンノ』などで、映画やドラマ、お笑いの記事を執筆。 縞馬は青い

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