高校生の群像劇を描くロロ『いつ高』シリーズ、完結へ。主宰・三浦直之が振り返る、劇団の10年間の歩み

2021.6.20
ロロ『いつ高』シリーズ

文=もてスリム 編集=山本大樹


高校生の青春群像劇を描いたロロの人気シリーズ「いつ高」のファイナルとなるvol.9『ほつれる水面で縫われたぐるみ』vol.10『とぶ』が、6月26日から吉祥寺シアターで上演される。

青春的な出会いや異質な存在との出会い、あるいはすれ違いや死別、共存──。ロロはいくつもの作品を通して、「出会い」というテーマの“解体”に挑戦してきた。主宰の三浦直之が、ロロの10年間の歩みを振り返るロング・インタビュー。

『クイック・ジャパン』vol.149(2020年4月発売)に掲載された記事を転載したものです。


デビュー作と「セカイ系」への愛

今でも思い入れがあるのは、旗揚げ公演の『家族のこと、その他のたくさんのこと』です。「デビュー作は作家になる前の唯一の作品」とよく言われますが、この作品だけはなぜ自分がこういうものを書いたのか未だにわかりません。初めて書いた長編の戯曲ですが、疑似家族や家出といったモチーフや、ふたつの世界を行き来する物語の描き方など、ロロが描こうとしている重要なモチーフがすでに出揃っていて。2作目以後の作品は方法論をある程度は説明できるんですが、この作品だけは唯一、まったく言語化できないんですよね。

『家族のこと、その他のたくさんのこと』(2009年)

その後、ロロが「ボーイ・ミーツ・ガール」をテーマとするようになったのは、なにより俺自身がそういうマンガやアニメ、ラノベから大きな影響を受けて育ったからです。最初にこのテーマを扱ったのは、2作目の『ボーイ・ミーツ・ガール』という短編作品。ただ、最初は戦略的にはじめた部分もありました。当時、同世代の劇団にはポジティブな形で恋愛を描いている人がいなかったし、「ボーイ・ミーツ・ガール」というキャッチコピーがあるほうが注目されるんじゃないかなと思って。

ボーイ・ミーツ・ガールにひと区切り

ゼロ年代のセカイ系アニメやラノベからの影響が最も強く表れているのは、2009年の『いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校』ですね。なかでも『イリヤの空、UFOの夏』や『新世紀エヴァンゲリオン』からの影響が強くて。演劇的にはおもしろい仕掛けもあるし戯曲の完成度も高いんですけど、“BornSexyYesterday”(編駐:主にSF映画界で近年批判されている、高い能力を持ちながら純真無垢でセクシーな女性を描く表現)と呼べるような要素も多くあって。今の自分からすると倫理的に受け入れられないところがたくさんある。

『いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校』(2009年)

当時は今と違って、自分自身「運命の人は本当にいる」と思っていたんです。失恋しても「この人が運命の人なんだから、いずれ結ばれるに違いない」みたいな脳みそで生きていたので。そういう片思いのつらさを作品に昇華することでなんとか生きていられる、という感じでした。それで「俺よ救われてくれ」という気持ちでボーイ・ミーツ・ガールを描いていたんだと思います。

『LOVE』(2010年)
『LOVE02』(2012年)

2010年の『LOVE』はまさにそんな気持ちで書いていて、片思いしたまま生き延びたおじいさんや恋した瞬間に体が光る女の子が出てくる。でもこの作品をつくったときにやっと、「俺って気持ち悪いな」と思えたんですよ(笑)。だからそのあと、俺じゃなくて相手が救われてほしいと思って『LOVE02』を書くことで、ようやくロロとしてもひと区切りついたというか。ボーイ・ミーツ・ガールをずっと書いているのも気持ち悪いなと。

そこからロロの作品も変わっていきましたね。「ボーイ・ミーツ・ガール」と言いつつも自分が興味をもっているのは「ボーイ」と「ガール」に限らないさまざまな出会いだと思うようになったし、自分の書く話はなぜか別れてしまう話ばかりだと気づいて、意識的に別れも描くようになっていった。2012年の『父母姉僕弟君』が恋人同士の死別からはじまるのも、こうした変化の表れです。

『父母姉僕弟君』(2012年)

性愛、暮らし、間

その後はなにを描くべきなのか模索する期間が続きました。『父母姉僕弟君』はロードムービーのフレームから作品をつくったので、その次の『ミーツ』ではジュブナイルの物語にしたり、翌年の『朝日を抱きしめてトゥナイト』では「朝ドラ」をやろうと思ったり。「ボーイ・ミーツ・ガール」というと人だけが切り取られますけど、実際の人々には“背景”がある。『朝日を抱きしめてトゥナイト』では主人公の女の子を通して街の歴史を描こうと思ったんですが、とにかく大変でした。上演自体は俳優のおかげでおもしろいものになったんですが、自分の力不足を痛感しましたね。このころは「迷走期」って感じです(笑)。

『ミーツ』(2013年)
『朝日を抱きしめてトゥナイト』(2014年)

『朝日を抱きしめてトゥナイト』の反省は、自分の筆力に対して描こうとしているものが大きすぎたことで。「街の歴史」は大きすぎたけどひとりの人間の歴史なら書けるかも、と思って2015年の『ハンサムな大悟』では色男の一代記を書くことにしたんです。「色男」というテーマを選んだのは、13年に参加した「官能教育」というリーディングイベントの影響も大きいですね。そのとき題材にした堀辰雄の小説『鼠』がすごく官能的でおもしろくて、俺の描くボーイ・ミーツ・ガールってめちゃくちゃ記号的だと気づかされたんです。恋愛を描くなら性愛は欠かせないけど、俺の描く恋はフィクションになっている。だから性愛を描かなきゃいけない、と。

結果として『ハンサムな大悟』はロロのなかでもけっこうタッチの異なる作品になった気がします。いわゆる「出会い」の比重も下がって、「すれ違い」や「別れ」を描くことにも注力していましたし。この作品を経てようやく戯曲をつくるプロセスが自分のなかで方法論化されたこともあって、『ハンサムな大悟』からまた新たなロロがはじまったと思います。

『ハンサムな大悟』(2015年)

セカイ系からの影響が強かった『LOVE02』までの時期を経て、『父母姉僕弟君』からさまざまな出会いや別れに興味をもつようになり、『ハンサムな大悟』でさらに変わった。出会いと別れだけじゃなくて、「暮らし」もあるなとようやく気づきました。青春っぽいボーイ・ミーツ・ガールだけ読んでいるとそれがわからないんですよ(笑)。出会いと別れの間にはめちゃくちゃ長い「暮らし」がある。作品のなかでも出会いや別れのような「出来事」だけじゃなくて、なんでもない時間や「間」を描きたいと思うようになっていったんです。

『いつ高』シリーズの幕開け


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