高校生の群像劇を描くロロ『いつ高』シリーズ、完結へ。主宰・三浦直之が振り返る、劇団の10年間の歩み

2021.6.20


『いつ高』シリーズの幕開け

そんな時期から『いつ高』シリーズをつくりはじめて、作品との向き合い方も変わりました。ひとつの作品だけで完結することに違和感が出て、作品を超えたつながりや作品の外側での「出会い」も意識するようになった。いわき総合高等学校の生徒たちと一緒に『魔法』という作品をつくったのもこのころです。高校生と2週間一緒に過ごして作品をつくるなかで、演劇という活動自体に出会いと別れが含まれていることに気づかされました。

いつ高シリーズvol.5「いつだって窓際でぼくたち」(2018年)
いつ高シリーズvol.7「本がまくらじゃ冬眠できない」(2018年)

17年から18年にかけて上演した『BGM』『父母姉僕弟君(再演)』『マジカル肉じゃがファミリーツアー』という「旅3部作」シリーズにはそんな意識の変化も表れていて、(疑似)家族のような「集団」のあり方に関心が向いていきました。

『マジカル肉じゃがファミリーツアー』(2018年)

“公私混同”を超える新しいロマンス

10周年を迎えた2019年の『はなればなれたち』と2020年の『四角い2つのさみしい窓』を通じてバラバラな存在が一緒にいられることを考え続けたことで、今はようやく集団の呪いから解放された気がしています。その結果、今は再び恋愛をどう描けるのか興味が湧いてきているんです。かつての恋愛至上主義的な考え方も、ある時代では人気があったけど、今はその価値観自体が疑われている。新海誠さんや岩井俊二さんの作品は今もすごく好きだけれど、自分は「青春」や「ボーイ・ミーツ・ガール」をずっと描き続けることはできないと思ったんです。このままでは清潔なものや恋愛じゃない関係性しか書けなくなる気がするから。

『はなればなれたち』(2019年)
『四角い2つのさみしい窓』(2020年)

ただ、これがすごく難しい。2019年に『腐女子、うっかりゲイに告る。』というドラマの脚本を書いたことで自分の想像力の限界に気づかされて。非当事者が当事者であるかのようにセリフを書くのって暴力的だから、自分じゃないものを書くことが難しくなっているなと。非当事者であることを受け入れながら、恋愛をどう描けるのか考えたいんです。ただ恋愛ではプライベートな関係についても公的なもののように攻撃される「公私混同」が起きがちで、恋愛を描くことそれ自体が暴力性を帯びる危険性もある。そうすると恋愛じゃない関係性にたどり着いてしまいがちなんですが、恋愛でもいいし恋愛じゃなくてもいいと言いたいんですよね。ややこしいですけど……。

たとえば、作品をつくるうえではなにか特定の恋愛の形や関係性を描かざるをえないと思うんですが、べつにその恋愛のあり方が正しい/間違っていると表現したいわけではありません。だからといって、あたかも「恋愛」が存在しないような世界を描くことも避けたくて。こうした公私混同という問題とロマンティック・コメディという題材を結びつけて考えることで、ボーイ・ミーツ・ガール的ではない、新しい恋愛や新しい場のつくり方を見つけていけるんじゃないかと思っているんです。

ロロ いつ高シリーズファイナル 2本立て公演

2021年6月26日(土)~7月4日(日)
東京都 吉祥寺シアター

脚本・演出:三浦直之
vol.9『ほつれる水面で縫われたぐるみ』
出演:板橋駿谷、亀島一徳、森本華、多賀麻美、重岡漠
vol.10『とぶ』
出演:板橋駿谷、亀島一徳、篠崎大悟


この記事の画像(全15枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

Written by

もてスリム

編集者/ライター。1989年、東京都生まれ。おとめ座。

CONTRIBUTOR

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

⾃⾝の思想をカタチにする「FLATLAND」

アーティスト・モデル

森田美勇⼈

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

「BiSH」元メンバー、現「CENT」

アーティスト

セントチヒロ・チッチ

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)

最新ニュースから現代のアイドル事情を紐解く

振付師

竹中夏海

平成カルチャーを語り尽くす「来世もウチら平成で」

演劇モデル

長井 短

子を持つ男親に聞く「赤裸々告白」連載

ライター・コラムニスト

稲田豊史

頭の中に(現実にはいない)妹がいる

お笑い芸人「めぞん」「板橋ハウス」

吉野おいなり君(めぞん)

怠惰なキャラクターでTikTokで大人気

「JamsCollection」メンバー

小此木流花(るーるる)

知らない街を散歩しながら考える

WACK所属「ExWHYZ」メンバー

mikina

『テニスの王子様』ほかミュージカル等で大活躍

俳優

東 啓介

『ラブライブ!』『戦姫絶唱シンフォギア』ほか多数出演

声優

南條愛乃

“アレルギー数値”平均の約100倍!

お笑い芸人

ちびシャトル

イギリスから来た黒船天使

グラビアアイドル/コスプレイヤー

ジェマ・ルイーズ

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。