ハライチ澤部佑、“テレビ芸人”としての生き方「テレビを一生懸命やってる人は薄い、みたいな風潮は寂しいけど」

2021.4.25
ハライチ 澤部佑インタビュー

文=西澤千央 撮影=オノツトム
編集=小林 翔


小説『長距離走者の孤独』(アラン・シリトー)に登場する主人公スミスは、マラソン大会でほかを圧倒的に引き離し、独走する。ハライチ澤部佑。デビュー直後からテレビと「相思相愛」になり、自らをテレビと一体化させていった澤部は、バラエティの世界を何年もひとりで走っていた。

優勝確実と思われたスミスは、なぜかゴール寸前で立ち止まる。スミスはゴールラインを踏むことはなかった。権力に抵抗するために。澤部はどうか。澤部は抵抗しない。ニコニコしながら走る。でも今孤独でもひとりではない。岩井と澤部、ハライチが見つけた新しいゴールテープとは。

ハライチが表紙を飾る『クイック・ジャパン』vol.155(4月24日から順次発売)から、澤部佑ソロインタビューの一部を抜粋して特別公開。

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テレビには絶対に嫌われたくない

──テレビ出演7年連続300本以上って途轍もない数字ですが、ご本人の感覚としてはどうなんですか?

澤部 あんまり出たなあっていう感じはないですけどね。

──連続してというのがすごいことなのではと。

澤部 そうなんですよ。なんたって7年連続ですからね。あれはすごいですよね(笑)。

──今回の澤部さんのインタビューって、もしかしたらちょっとアイドルのインタビューに近いのかもしれないと思って。

澤部 どういうこと??

──澤部さんはテレビで自ら「視聴者がみたい澤部佑」を演じているんじゃないかと。だから今日は本当の澤部さんが知りたいんです。

澤部 なるほど。そういうことですね。そうですね。僕も探してるんですけどね。

──旅の途中のような感じですか?

澤部 マジでわかんないときはありますね。ずーっとテレビに出てて、テレビで明るくやってて、街中で声かけてもらって、そういう人たちの前では楽しく振る舞って、でも普段はすごく暗い。どっちが本当なのか、だんだんわからなくはなってますね。多重人格の可能性ありますけどね。

でも普段暗いからテレビのときは無理やり明るく振る舞ってる、とかでもない。7年連続300本出てますと、明るいのも通常状態というか。『ドラゴンボール』で悟空が常にスーパーサイヤ人でいられるようにする修行があるんですけど、それに近いかもしれない。

──たとえば、台本や演出の指示に「これは俺言わないけどな」という違和感を感じたら、どうしますか?

澤部 それが、俺は言えるんですよ、なんでも。なんて言うんですかね、プライドもないと言うか(笑)。なんでも言えるし、何色にも染まれますね、澤部は。求めてるんだったらやりますけどって。

──「澤部は『誰かが求める澤部』になることをまったくいとわない」と、以前岩井さんがインタビューで話してました。

澤部 求められた中で一生懸命やる。そうするとその人も喜んでくれるってことですね、僕の中では。

澤部とテレビは「相思相愛」

ハライチ 澤部佑
澤部佑(さわべ・ゆう)ハライチのツッコミ担当。1986年生まれ。埼玉県上尾市出身。

──自分がゴールを決めたいという欲求と、黒子に徹して番組を盛り上げる役割と、そこはどうやって折り合いをつけてるのですか。

澤部 そうですね……基本は目立ちたいですけどね。まあいわゆる裏回しというか、黒子に徹することで番組がよくなるなら全然いいですし。誰かに振って、その人が跳ねて、その人もうれしいし、スタッフさんも喜んでる、それは幸せなことですよね。俺ひとりが無理やりやって、俺ひとりでなんかウケて。そうやって俺ひとり喜んでるだけよりはみんなが笑顔になったほうがいい。

──ご自身が「テレビ」という感覚があるのかなって思いました。自分自身がテレビだから、自分だけがおもしろくあればいいとかではない。

澤部 ベテランになるともう頭で編集しながらトークしてるという話は聞きますけど、そこまで僕はできないですよ。ただ今こうやったら、みんな喜ぶよなーとかは、考えてますかね。それは東野(幸治)さんにも言われましたね。

東野さん今もう完全にディレクター目線で番組出てるみたいな気持ちなんだそうですけど。こないだメイク室でふたりになったときに「俺は若いときにいろいろ遊んでやりたいものもやってきて、だから今その考えに至ったんやけど、澤部くんは早過ぎひん? おもろいの? それで」みたいな。

でも僕もその気持ちなんですよね。求められてることをやって、その中でいかに盛り上げるか。そこにプラスアルファで自分を出せるか。それでスタッフさんが思ってるより、ちょっと上のものにできたら一番いいですよね。でももうとにかくテレビに出たい、とういうのが根底にあるからかもしれないです。

──澤部さんそこまで虜にさせるテレビって、どういう存在なのでしょうか……。

澤部 えー。そうですね。テレビおもしろいっすよね。僕はもう、なんでもおもしろいと思っちゃうんでね。映画とか、小説読んでも僕は全部楽しいんですよ。「これいまいちだったな」とか思うことほぼないんで。そんな幸せなことないじゃないですか。

──たしかに……。

澤部 映画観て、すげーおもしろかったって思ってたのに、散々なレビュー見たりするとすごい嫌な気持ちになるんですよ。なんでこんなこと言うんだろうって思っちゃう。だから、今テレビはいろいろ言われてますけど、僕は全然おもしろいですしね。観てても、やっててもおもしろいですし。だから「テレビはおしまいだ」みたいな感覚はまったくないですね。だからがんばりたいし。

──澤部さんが言う「おもしろいこと」と「テレビ」が重なってる。

澤部 うん、そう。そうっすね。

──澤部さんとテレビは相思相愛。

澤部 相思相愛……いい表現ですね。そうありたい。


好きなものをテレビで言いたくない

ハライチ 岩井勇気、澤部佑
ハライチ岩井勇気(左)、澤部佑(右)

──「こういうのテレビでやりたい」とか、ありますか?

澤部 ないっすね。

──自分から行動起こすことはないですか?

澤部 行動起こすことはないっすね。

──潔い。

澤部 ないっすね、ほんとに。岩井は好きなことで仕事したいって言うんですけど、俺はあんまり好きなこと仕事にしたくなかったんですよね。「フェス芸人」を求められて、フェス好きだし求められたら恩返しのつもりでいろいろやりますけど。本当はあんまり、好きなものをテレビで言いたくない。

──どうして言いたくないんですか。

澤部 これまた俺の、アレな性格かもしれないですけど、好きなことを人に話すの苦手なんですよね。それを説明する能力が僕は極めて低いと思ってるんで。岩井をはじめその他の芸人さんは、たとえば『アメトーーク!』(テレビ朝日)でのプレゼンとかめちゃくちゃうまいし、情熱こめてやられるじゃないですか。俺がやると「本当に楽しいの?」「好きなの?」って思われてしまいそうで。

──なるほど。好きだからこそ。

澤部 そうっすね。僕の好きなものを岩井に言ったら、十中八九反論っていうか、潰しにかかってくるでしょ。それで潰されて嫌な気持ちになりたくないし、同じものを好きな人に申し訳ないし。

──でも、本音はそうなのに、いざテレビがそれを求めたら、澤部さんは好きなものを出してしまう……。

澤部 そうっすね。でもそれぐらいテレビも好きなんでしょうね。そっちの好きもあるから。じゃあ出しましょうってなりますかね。

──好きな人が求めてることだから。

澤部 そうなんですよね、そう。

──私が『なりゆき街道旅』(フジテレビ)の現場取材で見たのは、こんなの誰もできないよっていう澤部さんとテレビの一体感でした。すんごいことをなんともない感じでやってるのはちょっと怖くなるくらいで。これこそ澤部さんがテレビに寄与してきた「わかりやすさ」であり、エンターテインメントにはすごく大事な部分だと思うんですけど、一方でお笑いって考えると、ネタを突き詰めてる人のほうがすごいっていう風潮もあるじゃないですか。

澤部 実はめちゃくちゃしんどいっすけどね。『なりゆき』に関して言うと。

──でも決して視聴者にそれは悟らせない。

澤部 それはちょっとあります(笑)。いや、技術がある職人たちがそれぞれにいっぱいいるっていうことなんですけど。まあただ岩井もそういうこと言うんでね(笑)。でもテレビを一生懸命やってる人はちょっと薄いみたいな風潮は正直寂しいですけどね。そこが一番好きでがんばってきて、一応評価してもらって、結果いっぱい出てる状態なんでね、僕は。そこを言われるのはたしかにイラッとしますし悲しいですけどね。

有吉の言葉に救われた「お前が一番すごいんだから」


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西澤千央

(にしざわ・ちひろ)1976年生まれ。神奈川県出身。実家の飲み屋手伝い→ライター。『クイック・ジャパン』(太田出版)や『文春オンライン』、『GINZA』(マガジンハウス)などで執筆。ベイスターズとねこと酒が好き。

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