公園のベンチで睡眠を確保、それでも「ラップに救われた」
──平日は深夜まで曲を書いて、週末はイベントでライブをする生活だと睡眠時間も短いですよね。会社員として送る生活をきついなと感じなかったんですか?
あまり思わなかったんですよね。ただ、ラップをしていなければ仕事でもっと早く心が折れてしまったかもしれないです。
──どういうことでしょうか?
仕事が終わって、深夜に2時間くらい歌詞を書いてる時間が、人生で一番楽しい瞬間だったんです。仕事が多少つらくても、「今日はこういう曲を書こう」「週末には楽しみなライブがある」、そういうゴールがあったので、仕事にも集中できた。超好きな趣味のために、仕事をしてる感覚。
大好きな趣味を楽しんでから寝るので、すごくフレッシュな気持ちで毎朝を迎えられました。精神衛生上もすごくいい影響だったと思います。
それに、毎日ラップに携わることで「会社員がラップをしてる」ではなく「ラッパーが会社員をしてる」メンタルでした。だから、仕事は仕事である程度できていたはずです。要するに、ラップに救われていたんだと思いますね。
──約2年半でリクルートを退社して、いよいよ音楽活動に専念しますが、何かキッカケがあったのでしょうか?
ファーストとセカンドアルバムを評価していただいて、徐々にライブが増えたんです。平日にもライブや取材などが入るようになり、会社員とラッパーの両立が物理的に難しくなってしまった。
また、セカンドアルバムからスタジオでの収録に変わったんですが、宅録のように時間の融通がきかなくて、寝る時間が削られてしまって。仕事の昼休み、同僚たちはランチへ出かけて、僕だけ5分くらいで弁当をかき込んで、公園のベンチで寝てました。
最初のうちは睡眠時間が短いことにも耐えられたんですが、仕事や音楽活動のパフォーマンスにも影響し始めて、会社を辞める決断をしました。
──辞めることに不安は感じませんでしたか?
親には反対されましたけど、自分がやりたいことしか考えてなかったですね。
たとえば3.11のときも、昨年からのコロナでも、社会の状況が大きく変わりましたよね。歴史の教科書に載ってもおかしくない出来事が、自分が生きている間に2回も起こるなんて誰も想像してなかった。
だから5年先、10年先にまた何が変わるかわらかないし、5年後や10年後の未来を目指して準備するほうがリスキーな部分もある。人間にとって時間はとても貴重なので、やりたいことがあるなら今すぐにやったほうがいいと思いますね。
ハイペースで楽曲をリリースできる原動力とは?
──ダメレコからソロアルバムを出して、15年間で今回のアルバムが11作目になります。しかも、現在は活動も多岐に渡っています。これだけのハイペースで楽曲制作ができる原動力はなんでしょうか?
アーティストにもいろんなタイプの方がいると思うんです。たとえば、苦しみ抜いて制作して、できあがったときに喜びを感じるタイプとかですね。僕の場合は楽曲制作やレコーディングという行為自体が好きで、楽しめてしまうタイプなんです。
最近は、自分の曲以外にも、ほかのアーティストやCM用に歌詞を書くほうが多いくらい。そういう作業は、会社員時代の仕事に似てますね。会社の業務は「やるべき仕事」で、ラッパーとしての活動は「やりたい仕事」だった。会社員の時ほどではないですが、基本そのスタンスは今も変わってなくて、自分の曲ではないけど「やるべき仕事」をきちんとこなしてから、自分用の楽曲制作というご褒美タイムが待っている感覚です。ラップがまだまだ趣味の領域を抜けていないと言うか、そういうメンタリティなんです。
自分で「DREAM BOY」というレーベルを経営しているのも大きいかもしれません。一度、メジャーレーベルと契約させてもらった時期があり、そのときは制作にストレスを感じました。僕が大好きで楽しいと感じている楽曲制作に、制約やコントロールが入ることが苦手なことがわかったんです。
自身のレーベルを経営してからのほうが作品をコンスタントに作れているし、精神衛生上もいい状態です。楽曲制作をするかどうかもすべて自分でコントロールできますしね。
あと、ヒップホップは変化が大きい音楽なんです。5年もすればサウンドイメージが大きく変わってしまうジャンルってほかにはあまりないですよね。音を聞けば、だいたい何年ごろの音楽かがわかる。僕自身はラッパーとして変わっていくことを是としているし、現役のプレイヤーなら“今の音”を意識した曲を作りたい。
そうなると自然と曲数も増えていきますね。ただ、新しいサウンドに対してあくまで自分のフィルターを通したいとは思ってます。そうじゃないと、ただコピーを繰り返してるだけになってしまうので。
──確かに、KEN THE 390さんがラップを始めたころと現在では主流であるサウンドは相当変化していますね。
日本人は「0から1」や「無から有」を生み出すことに美学を感じる人が多いように思うんです。でもヒップホップは、既存のものを組み合わせて、それに対してラッパーそれぞれがいろんなアプローチをするから、集合知で物事が進んでいく。1プラス1を10にしてしまう。だからこそ、サウンドイメージが急激に変化するんです。
僕自身は、そういうところにヒップホップの魅力を感じているし、それをわかって追いかけてもらえると、ものすごくおもしろいと思います。
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