フリースタイルダンジョンの功績
──『フリースタイルダンジョン』が流行り、明らかに多くの人がヒップホップを聞くようになったと思います。KEN THE 390さんも同番組に審査員として出演されていました。状況が変化したなと感じることはありますか?
プレイヤーとお客さんの年齢が下がりましたね。『フリースタイルダンジョン』が流行る前は、ヒップホップ好きの人はわりと年齢層が高かったんですよ。それはKICK THE CAN CREWやキングギドラなど、2000年前後にヒップホップを好きになってくれた人たちがずっと応援してくれたからなんですけど。
『高校生ラップ選手権』や『フリースタイルダンジョン』があったから中高生が聞くようになり、ラップをし始めた。フリースタイルはスマホでトラックを流せば、明日にでも学校でできる。そういう誰もが手軽に始められる魅力が若い子たちに届き始めましたよね。
それに、ラッパーってこれまで身近にはいない、ある意味でエイリアン的な存在だったと思うんですよ。それが般若さんやR-指定とか、いろいろなキャラクターの人がいることがわかってもらえて、身近になったのも『ダンジョン』の功績だと思いますね。
──現在は『フリースタイルティーチャー』に出演し、ヒプノシスマイクのステージでは音楽監督も務めていて、さまざまな分野の方とコラボレーションする機会が増えたと思います。そうしたときの難しさや楽しさはありますか?
求められるものがその都度違うので、どうアジャストするか悩むことはあります。CMは、商品のイメージをよくするためのラップなのか、それとも商品紹介をするためのラップなのかでも違いますし。でも、相手が求めているものと違いがあっても、着地点を見つけ出すことにおもしろさを感じることもありますね。
──ほかの分野の人でも、ラップの才能があると感じる瞬間はありますか?
ありますね、特に話がおもしろい人。たとえば朝起きて、歯を磨いて、学校へ行くというありふれた日常を、その人なりの切り口や技術を使うとおもしろくなる。お笑い芸人さんはそういうところが上手ですよね。それも才能かなと。
ヒップホップに必要なアップデート
──若いプレイヤーやお客さんにヒップホップが広がり、ドラマやバラエティ番組などでもラッパーを目にする時代です。現状についてどう考えていますか?
変化の過渡期にあるのではないかとは考えてます。まず、若返りが図られたことで、風通しがよくなってきている印象です。
また、ヒップホップはそもそもアフリカ系アメリカ人のようなマイノリティが社会のマジョリティに対して、自分たちの声を届ける手法のひとつだった側面がある音楽です。つまり、多様性を許容するための音楽だったはず。でも、ヒップホップ自体が、多様性を排除していた時代があった。
それはヒップホップ的なマチズモ(男性優位的、男らしさ)から外れたものに対し、「これはヒップホップじゃない」とか手厳しい評価がなされることもあった。そういう考え自体をアップデートしないといけない。
そうじゃないと、今のジェンダーやダイバーシティの感覚から外れてしまうと思うんです。むしろ、そういうマイノリティの声をラップに乗せることで、ヒップホップの本当の強さを発揮できるのではないかと僕は考えてます。
それが実現できれば、ヒップホップは今の時代にすごくマッチした音楽だと思うし、魅力を一番発揮できると思う。だからこそ、僕らもヒップホップ業界も変わるべきときだし、実際に変化が起こり始めているんだと思います。
KEN THE 390(ケンザサンキューマル)
1981年生まれ、ラッパー。「DREAM BOY」主宰。2006年にソロアルバム『プロローグ』でデビュー。ラッパーとしての活動のほか『フリースタイルティーチャー』などのテレビ番組やラジオパーソナリティ、他アーティストへの楽曲提供など多岐に渡り活動。
ソロアルバム11作目となる『en route』(アン・ルート)を3月12日デジタル先行配信、パッケージを3月17日に発売。
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KEN THE 390『en route』
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