決定「この野球マンガがすごい2021」コロナに絶対負けるなベスト3
野球マンガ界の巨星・水島新司が引退を宣言した今、注目すべきはどの野球マンガなのか? 新時代を切り拓く「今こそおもしろい野球マンガ」はあるのか? 今回は、発売巻数がまだ10巻に満たない作品群から「今こそおもしろい」という旬な作品ベスト3を紹介したい。
選者はライターで「水島新司評論」を得意とするオグマナオトと、野球マンガ評論家として「あだち充評論」を得意とするツクイヨシヒサ、毎年「この野球マンガがすごい」を選定しつづけているふたり。なお、昨年度1位の『ドラフトキング』も巻数はまだ10巻未満ではあるが、「新しい作品を紹介する」というコンセプトに鑑み、選考からは除外している(記事中の巻数は3月19日時点)。
目次
1位『アルプススタンドのはしの方』(全1巻)舞台となった東播磨高校がセンバツ出場
オグマ 去年1位だった『ドラフトキング』(クロマツテツロウ/集英社 ※既刊7巻)、すでに巻数が20巻以上の『MAJOR 2nd』(満田拓也/小学館 ※既刊22巻)、『ダイヤのA act2』(寺嶋裕二/講談社 ※既刊25巻)、『BUNGO―ブンゴ―』(二宮裕次/集英社 ※既刊26巻)らが変わらずハイテンションでもおもしろいなか、今年推したいのは短編です。
ツクイ 全国高等学校演劇大会文部科学大臣賞を受賞した高校生の演劇『アルプススタンドのはしの方』のマンガ化です。これが実によかった。
オグマ 昨年は映画化もされて話題になりました。マンガ版は少し違った視点で、もう少し学校でのシーンが多く描かれているのが特徴です。
ツクイ 野球の見せ方でまだこういう手法があるのか、と新鮮な驚きがありました。アルプススタンドのはしに座る4人の高校生たちの「野球と関係のない話」が進行しながら、野球部の園田君と自分とを重ね合わせ、照らし合わせていく。野球部のエースという日の当たる存在との対比と憧憬が実に青春だなと感じるし、ある種『桐島、部活やめるってよ』的な世界観というか。もともとの原作シナリオがしっかりしているからこそ、ですね。
オグマ 実は映画版には個人的に不満に感じた部分がひとつあって、「甲子園1回戦」と銘打っているのに、ロケがどこかの地方球場なんです。まあ、甲子園球場でロケができなかったんだろうなと思いつつ、別にこの設定、甲子園本大会じゃなくてもいいよね? 宣伝文句として「甲子園」を言いたかっただけなのでは?とモヤモヤしていました。その点、マンガ版は甲子園球場を描くことだってできるのに地区大会での出来事として描いている。そのほうが「普通の高校生の悩み」として寄り添って読めるんですよね。映画でもし情景描写が気になった人がいるならば、マンガ版でもう一度味わってほしい、と感じました。
ツクイ 野球マンガでは珍しく一冊でキレイにまとめている点もいいんです。おもしろい野球マンガは総じて長編になりがちで、なかなか気軽に薦めにくい。その点、手に入れやすさ、読みやすさも含めて、この『アルプススタンドのはしの方』を1位にする意義があるのかな、と。
オグマ 時事性というか、現実世界とのリンクとしても注目です。まさに開幕した今年のセンバツ甲子園に、もともとの演劇版の舞台となった東播磨高校が21世紀枠で出場するんです。大会第3日(3月21日)第3試合、「リアル・アルプススタンドのはしの方」として話題になりそうです。
ツクイ 座りたい! そのはしっこに。
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