俳優・須藤蓮『ワンダーウォール』をめぐる2年間「時代に飲み込まれない」生き方

2020.6.19

文=木俣 冬 写真=石垣星児
編集=田島太陽


須藤蓮は異端児である。脚本家・渡辺あやは「求道者」と表現する。主演を務めた『ワンダーウォール 劇場版』は、コロナの影響で全国公開が延期になるも、「怒りは持続できない」と悟り、自ら宣伝企画を立てて自主的に動いた。本人へのロングインタビューと関係者の証言をもとに、須藤蓮の成長と挑戦に迫る。


“不要である”と、誰に決める権利があるものか

新型コロナウイルス感染予防のための緊急事態宣言によって、たくさんの映画が撮影中止や公開延期になった。

2020年4月10日、全国公開予定だった『ワンダーウォール 劇場版』(脚本:渡辺あや/監督:前田悠希)も公開延期、中断の事態に見舞われた。公開に先駆けて4月3日と4日に行う予定だったイベント「近衛寮祭2DAYS」は、緊急事態宣言が出る6日の前から雲行きが限りなくあやしくなっていたので、急遽、無観客トークショーの配信企画に変わった。宣言後は、対象地域である埼玉、千葉、東京、神奈川、大阪、兵庫及び福岡の7都府県の劇場は閉まり、そこでの初日は延期になった。

『ワンダーウォール 劇場版』
『ワンダーウォール 劇場版』(C)NHK

この時点で、京都と広島は対象地域から外れていたため、京都出町座とシネマ尾道では予定どおり公開されたが、やがて全国的に自粛になり、京都と広島の映画館も休業になった。こんなときだから映画館で映画を観たい人もいるし、映画を生業にしている人もいる。果たして映画は不要不急のものなのだろうか。

『ワンダーウォール 劇場版』は、京都の長い歴史を誇る「近衛寮」で暮らす学生たちの物語で、老朽化を理由に愛着ある寮が取り壊されそうになった寮生たちは懸命に状況に立ち向かう。誰かにとって必要なく思えるものでも誰かにとってはかけがえのないものであり、不要であると誰に決める権利があるものか。映画で投げかける問いは、皮肉にも2020年の4月以降、誰もがビビッドに共感できるものになったと思う。行きつけのカフェ、定食屋、劇場、すべてが閉じることを経験した今だからこそ。

大事なものを失いそうで途方に暮れる私たち。『ワンダーウォール 劇場版』の主人公キューピー役を演じた須藤蓮もまさにその苦悩を味わっていた。須藤にとって、俳優デビューしたばかりの2年前、初めての大役を務めたドラマが映画化されるという晴れがましい出来事が、突然の厄災に見舞われたのである。

コロナ禍中、渡辺あやとケンカしながらやったこと

「映画の公開とイベントを“打ち上げ花火”と思って気合いを入れていました。とりわけ、『近衛寮祭2DAYS』のうち4日の下北沢の路上イベントは僕が主体で進めていたもので、ハプニング性のあることも計画していて、それによって映画が大きなうねりを作っていくことを期待してもいました。それが全部なくなってしまったときは当然、凹みました。けれど、凹んでなんかないと思うように努めました。感情的になっても何も生まれないだろうと思ったからです。コロナが収束するまで2年くらいかかるだろうし、2年も怒りを持続できないと思って、早めに舵を切りました」

『ワンダーウォール 劇場版』
『ワンダーウォール 劇場版』で主人公キューピー役を演じた須藤蓮

須藤の動きは早かった。映画が再び公開されるまでの自粛期間、宣伝活動を止めないために、関係者と相談して 「近衛寮調査室」という名でインタビュー企画「Wonderful World」を始める。『ワンダーウォール』の音楽を作った岩崎太整、無観客トークショーのゲストだったヴィヴィアン佐藤、シネマ尾道の支配人・河本清順……須藤がZoomでコロナ禍、芸術、それぞれが大事に思っているものなどに関するインタビューをして、その映像を編集し、『ワンダーウォール』の脚本を書いた渡辺あやと打ち合わせの上、彼女が書いたナレーションを須藤が朗読し映像に乗せて配信した。

「映像編集をしたことは初めてだし、インタビューのあとにつくクレイアニメを作ったことも初めてでした。最初、自粛中だからひとりでできることはなんだろうと考えた結果、家の中でアニメを作ろうと思いつき、友人に借りた人形でアニメを作ったら、あやさんにくそみそにいわれて超大ゲンカして(笑)。紆余曲折あって紙粘土アニメをひねり出しました。公開状況が変わってからすぐ始めたので、気分がまだ晴れず、かといってその気分をストレートに出すことも、無理やり明るく振る舞うことも憚られ。クレイアニメに託すことで緩和された気がします。役者は演技で泣くまで時間がかかることもあるけれど、人形はすぐ泣いてくれるからいいですね」

人形ならすぐに泣いてくれると須藤は笑ったが、実際、わずか数分のアニメ制作作業は、1日7時間、2週間くらいかかった。

完成度がすこぶる高いわけではない、ゆるふわなクレイの人形だからこそ、よけいに味わい深い。ややいびつな人形が笑うとき、その前の場面で泣いた涙の青い粘土が少し残っているところなんてむしろ芸が細かいように思える。でも須藤は、もともとものづくりが好きだったわけではない。演じることが好きだったわけでもない。映画や舞台を観ることが好きだったわけでもなかった。

法学部の学生が異端の俳優になった理由


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木俣 冬

(きまた・ふゆ)フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。著書に『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち・トップアクターズルポルタージュ』、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。

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