『日本統一』が任侠作品の衰退を救った3つの要素。累計50作を超える人気の理由はBL要素にあり?
2023年1月時点でシリーズは54作品にも及び、“任侠女子”というワードを生むほど女性ファンも多い人気作品が話題を呼んでいる。
その名も『日本統一』。
そんなモンスターコンテンツをエグゼクティブ・プロデューサーとして率いる鈴木祐介が、著書『「日本統一」はなぜ成功したか?』(ブックマン社)でヒットの理由を明かした。
ビデオ産業の衰退や世間の空気の変化により「Vシネマ」や「任侠作品」が売れなくなって久しい現在、なぜこれほど多くの作品がつくられつづけ、ファンに愛されているのだろうか?
QJWebでは、本書の一部を抜粋して紹介する。
目次
『日本統一』とは何か? 衰退した土壌に変革をもたらした企画
『日本統一』は2013年8月25日に1作目がリリースされ、累計50作品を超える任侠をテーマにしたオリジナルビデオシリーズ作品。一部は劇場公開もされているが、基本的にはU-NEXTやNetflix、Amazonプライムビデオなどの動画配信サービス(VOD)における配信が中心となっている。
本宮泰風と山口祥行がW主演を務め、氷室蓮司と田村悠人というバディを熱演。そして、小沢仁志、千葉真一、梅宮辰夫、哀川翔、白竜といった、かつての任侠映画を牽引してきた豪華なキャストが脇を固める。
「日本統一」というシンプルながらインパクト大の作品タイトルの通り、不良二人組が、あるきっかけにより極道の世界に身を転じ、極道界の日本統一を目指し、多くの困難に立ち向かい、突き進むサクセス・ストーリーとなっている。
P38より
任侠作品といえば、1990年代〜2000年代初頭にかけて隆盛した「Vシネマ」を思い浮かべる人も多いだろう。これは劇場公開を前提としないオリジナルビデオ作品を指す名称で、ヤクザ、エロス、ギャンブルなどをテーマに多くの作品が乱立した。
しかしその需要は主に「レンタルビデオ店を利用する男性」にあったため、レンタルビデオ店の衰退と共に人気は低迷。『日本統一』は、そうした業界の行く末を危惧した俳優の小沢仁志が、本宮泰風と山口祥行というふたりの後輩を世に出したいという想いもあり開始された企画だったという。
ヒットの要因①:ブロマンスの要素で女性ファンも獲得
そんな『日本統一』が多くのファンを獲得した要素のひとつは、一般的なVシネマのイメージをあえて逸脱したことにある。「恐怖」「陰鬱さ」「バイオレンス」「セックス」といった従来のVシネマの構成要素が、『日本統一』では希薄なのだ。
確かに作品内は血生臭く、暴力に溢れ、乱暴な言葉と喧嘩ばかりだ。しかし「日本統一」はそれで終わらない。それぞれのシーンの根底には、登場人物たちの、仲間を守る気持ちや、「兄弟」「組」へ対する愛情、真っ直ぐ不器用に生きる人間の感情の交差が、色濃く描かれている。つまり、「日本統一」の登場人物は、今までのどんな「Vシネマ」シリーズよりも、個々のキャラクターが確立されていると言えよう。
主人公の氷室と田村は、少年漫画のキャラクターのようにどこまでも真っ直ぐでカッコよく、互いの長所を認め合い、互いの欠点を補いながら、絆を深めていく。「日本統一」シリーズ冒頭で、出所したばかりの田村が氷室に飛びつくシーンはとても印象的だ。まるで青春映画のようなその爽やかな疾走感が、従来のVシネマファンの男性のみならず、任侠作品を初めて見る人や、女性ファンの心も射止める要因ではないだろうか。
P44-45より
また、登場人物がほぼ男性である点も、幅広い層が『日本統一』にハマる要因のひとつなのではないかと鈴木は分析する。極道の男にすべてを捧げて生きざるを得ないといった任侠作品にはおなじみの女性の存在がこの作品にはなく、代わりに、「相棒のためなら死んでもいい」と考えるほどの男同士の情の熱さが前面に出ている。
「蓮司のためなら死ねる」という田村の考えは、任侠の世界でありながら、昨今の流行であるブロマンス(男性同士の親密で精神的な繋がり)の要素を感じさせる。
P45より
「BLの要素も狙っている」と本宮もインタビューで答えているとおり、こうした任侠の新しい路線が、これまでになかった視聴者を獲得していることは間違いない。女性視聴者は約3割を占め、ツイッターで「#任侠女子」をつけてツイートするファンも増えてきたという。
激動の時代のなかで、シリーズを継続させるためには、既存のVシネマのレールを壊すべきだろうと私は思いました。そして偶然にも、本宮さん(※編集部注)も同じ考えだった。それはつまり、苦節を乗り越えた歴史のなかで、日本統一の強固な基盤ができていたからなのです。
P92より
※主演の本宮泰風はシリーズ50作目から「総合プロデュース」も兼任し、脚本など作品制作全体に関わっている。
ヒットの要因②:VODの条件見直しがきっかけに
『日本統一』はレンタルビデオ産業に取って代わったVODの隆盛とうまく噛み合ったことで多くの視聴者を獲得していったが、そこまでとんとん拍子に事が進んだわけではなかったという。時は2017年にさかのぼる。
当時、「日本統一」を配信していたのは一社のみで、しかも無料開放でした。
レンタル業界が衰退し、映画館離れも深刻化する現在において、動画配信サービスによる売上は大きいです。これは、大きなビジネスチャンスを逃していることになる。当時の営業担当に「なぜ一社でしか配信を行っていないのか?」と訊いたところ、「お世話になっているから」といったような、なんとも理解の難しい回答が返ってきました。「〇〇さんにお世話になっているから」だけで、延々とビジネスを続けることが多すぎますよね。おそらくそれは、この業界だけの話ではないはずです。
P65-66より
しっかり利益を回収できなければ、次回作を作れなくなる。そう懸念した鈴木は、すぐさまその動画配信サービスの会社へ出向き、条件の見直しを交渉。そこではうまく話はまとまらなかったというが、「ダメならば、他を探せばいい」の精神でとにかく現状の問題を明らかにすることを重視したという。
そこに、あるきっかけがあり、U-NEXTの映画部の方が弊社に商談に来てくださいました。「日本統一」をはじめとする弊社の作品を定額見放題に入れたい、というお話でした。その日にいただいた資料を見て、とても驚きました。弊社の作品をとても大切に想い、寄り添って資料を作ってくださっていることが伝わる資料だったからです。
P66-67より
このU-NEXTでの定額見放題配信スタートを境に徐々に配信会社が拡大し、現在は国内のほぼすべてのVODで鑑賞できる状態になっている。「作品との向き合い方」を変えたことで、作品のファン拡大につながっていったのだ。
ヒットの要因③:「思いつき」を大事に一流の人まで巻き込んでいく
鈴木が『日本統一』を製作・宣伝する過程で大事にしていることがあるという。それは「思いつき」だ。
2022年に劇場版を公開した際、その主題歌を、登場人物たちである山崎組の一門で歌ったらおもしろいのではないか、と鈴木は考えた。
クリエイティブな仕事は特に、最初は全て思いつきから始まります。その思いつきを、いかに緻密に、真剣に具現化するか? それが、プロフェッショナルというものでしょう。さて、CDをヒットさせるために誰を巻き込むか? どうせ出すならトップのなかのトップを巻き込もう、と……秋元康さんに曲をお願いしようと思いました。[中略]スタッフの誰もが、「さすがに無理でしょう」という顔をしました。
P113より
しかしその心配も杞憂に終わり、秋元康からはOKの返事が。『劇場版 山崎一門~日本統一~』の劇場公開と共にその主題歌である『男の貧乏くじ』というCDがリリースされた。
私は常々、「想像し続けなければ、現実にはならない」ということを念頭に置いています。
誰かの反応を怖がって考えることをやめるのではなく、どうすれば物事が良くなるのか、どうすればアイデアがより一層面白くなるのか、想像し続け、考え続ける。それが巻き込む力の第一歩。一流の人を巻き込んじゃうと、こちらも後には引けなくなりますから、必ずや真剣に新たな一歩を踏み出すことができる。
P115より
一度は衰退の一途を辿ったVシネマや任侠作品。そこに従来のイメージに縛られない新たな息吹をもたらし、『日本統一』は革新的な道を切り拓いた。
本書の冒頭では主演兼総合プロデュースの本宮と鈴木が対談し、ふたりが『日本統一』に身を捧げてしまう原動力や作品の魅力について語られている。また最後には、シリーズの監督・辻裕之とプロデューサーの服巻泰三を交えた鼎談も収録。作品の今後の展望についても語られているのでファンは必見だ。
『日本統一』というモンスターコンテンツが生まれた背景をぜひ目撃してほしい。
『「日本統一」はなぜ成功したか?』
発行:ブックマン社
著者:鈴木祐介
定価:1,650円(税込)
初版年月日:2022年12月6日
任侠作品に新たな息吹をもたらした「日本統一」が躍進しつづける理由!
著者プロフィール
鈴木祐介
株式会社ライツキューブ常務取締役。(映画・ドラマの製作、販売、デジタル配信事業)エグゼクティブ・プロデューサーとして、新人監督からベテラン監督の作品まで幅広く参加し、携わった作品には『ベイビーわるきゅーれ』『夜明けまでバス停で』『けったいな町医者』『生きててごめんなさい』『かかってこいよ世界』などがある。また、韓国・台湾の映画を中心とした映画バイヤーとしても精力的に活動している。
ブックマン社 の本
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