田村淳『母ちゃんのフラフープ』:PR

ロンブー淳は「悪童」ではない。『母ちゃんのフラフープ』でわかる“貫きつづける信念”の正体とは

2021.6.29
田村淳

文=ラリー遠田 編集=鈴木 梢


ロンドンブーツ1号2号の田村淳は、2020年8月に母親をがんで亡くしている。淳といえば、テレビのバラエティ番組の世界で自由に振る舞うイメージが強い人が多いかもしれない。そのイメージも間違ってはいないが、同時に彼は、遺書動画を撮影して大切な人に届けられる「ITAKOTO」というサービスの発案者という一面も持つ。

テレビで活躍する姿と結びつかないと思うかもしれない。しかし彼の根底にあるものを考えれば、テレビでの振る舞いと「ITAKOTO」の発案は、同じ田村淳という人間から生まれていると理解できるはずだ。彼が貫いている信念を、お笑い評論家のラリー遠田が紐解く。

田村淳はけっして邪悪な人間ではない

90年代後半、ロンドンブーツ1号2号の田村淳をテレビで初めて観たときの衝撃は未だに忘れられない。見た目にもキャラにも芸人らしさがまるでない彼は、持ち前のセンスとコミュニケーション能力を駆使して、数々のバラエティ番組でタブーを破るおもしろさを見せていった。一般道にいきなりF1カーが飛び込んできたような新鮮な驚きがあった。

「子供に見せたくない番組」9年連続1位に選ばれたこともある『ロンドンハーツ』(テレビ朝日)などの影響もあり、淳には「悪童」のイメージも根強くある。だが、彼はけっして邪悪な人間であるわけではなく、自分の好奇心にどこまでも忠実であるだけなのだ。

バラエティタレントとしての淳の売りは「壊し屋」であることだ。芸人とはこうあるべきだ、こういうことをしてはいけない、といった既存のルールに縛られない。常識を疑い、ルールの範囲内でギリギリのところを攻めていく。『田村淳の地上波ではダメ! 絶対!』(BSスカパー!)で行われた、薬物事件で逮捕歴のあるタレントとしゃぶしゃぶを食べながらシャブ(覚醒剤)の恐ろしさについて語り合う、という企画などはその典型である。

淳という人間を貫いているのは一種のリアリズムである。彼はありもしない夢やロマンを追い求めないし、常識のぬるま湯に浸かることもしない。現実がどうなっているのかということを確かめるために、がむしゃらにそれに向き合っていく。

他人の顔色を窺い、空気を読み合う日本社会の中で、問題の核心にズケズケと踏み込み、どこまでも信念を貫く淳のような生き方は奇異に見える。

なぜ彼は「死」という最大のタブーに挑むのか

淳の著書『母ちゃんのフラフープ』を読むと、彼の徹底した現実主義は母親譲りなのだとわかる。母は長年にわたり看護師として働いた経験からか、「自分に何かあった場合、延命治療はしない」と普段から淳たち家族に対して語っていたという。

母ちゃんのフラフープ_田村淳
『母ちゃんのフラフープ』田村淳/ブックマン社

本書は、淳とその妻とふたりの娘が、母の実家に帰る場面から始まる。がんで闘病中の母は、介護用ベッドに横たわったまま、淳たちを迎えた。これが最後になるかもしれないと思いながら、淳は母と言葉を交わす。

淳の母も、淳と同じように信念を持って生きた人だった。死ぬときのことなんて誰だって考えたくはないし、できればずっとあと回しにしていたい。でも、彼女はそこにまっすぐに向き合い、自分らしい生き方を貫いた。

本書は、淳がそんな母の最期をどうやって看取ったのか、母とどのように付き合ってきたのか、その中で自分がどのように成長してきたのか、ということの記録である。

病に伏せる母と向き合いながら、淳は人の死について思索を深め、大学院で研究に励んだ。そして、大切な人への遺言を動画で残すことができるサービス「ITAKOTO」を立ち上げた。

みんないずれは死ぬんだから、老いることや死ぬことについて、もっとポジティブに、もっとカジュアルに考えたほうがいい。そんな淳のあっけらかんとした思いが、このサービスに結実した。

『母ちゃんのフラフープ』という本書のタイトルの意味が明らかになるのは最終章である。その瞬間、読者は笑いと感動が入り混じった不思議な感覚を味わうだろう。

フラフープは、ある程度コツを掴むといつまでも回しつづけていられるような気がしてくる。ただ、もちろんそれは永遠ではない。フラフープの回転はいつか終わってしまうものだ。

でも、けっしてそれを悲観することはない。私たちは誰だって、いつ終わるかわからないフラフープを回しつづけているのだ。そのありのままの現実を受け止めれば、一つひとつの瞬間がもっと輝いて見えてくる。

淳は本書で人間の「死」という最大のタブーに挑み、新しい生き方と考え方を提示してみせたのだ。


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  • 母ちゃんのフラフープ_田村淳

    『母ちゃんのフラフープ』田村淳/ブックマン社

    価格:1,540円(税込)

    親の老いを受け入れる。親の最期の希望を叶える。それは、親に愛情があるほどつらいことかもしれません。できればずっと棚上げしておきたい事柄です。だけど、家族で話し合わないままでいるといざその時に、大きな後悔が生まれてしまうことも多々あります。 2020年、コロナ禍での看取り。田村淳さんとそのご家族は、どんなお別れをされたのか? そして淳さんは、なぜ大学院で「死」を学び、遺書を動画にするサービス「ITAKOTO」のアイディアを思いついたのか?
    家族への愛情あふれる淳さんが綴ったこの物語は、これから親とお別れをしなければならないすべての人に、「覚悟」と「優しさ」をもたらしてくれるでしょう。親が大好きな人も、親が大嫌いな人にも読んで欲しい一冊です。田村淳 慶應義塾大学大学院2020年度修士論文も一部抜粋して収録!

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Written by

ラリー遠田

(らりー・とおだ)1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わ..

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