名花ジーナ・ロロブリジーダ追悼!『殺しを呼ぶ卵』巨大養鶏場で繰り広げられる猟奇サスペンス

2023.1.21
『殺しを呼ぶ卵』巨大養鶏場で繰り広げられる猟奇サスペンス

1968年に公開された『殺しを呼ぶ卵』が、初公開当時にはカットされた残虐描写を含めた「最長版」として2022年12月より劇場公開された。監督は、イタリアの鬼才ジュリオ・クエスティ。

夫婦の格差によって生まれた人間関係の歪みが、予想もできない展開と想像を絶する畸形ニワトリを産んだ──⁉

今回は、そんなサスペンス映画をレビューする。

※この記事は『クイック・ジャパン』vol.164に掲載のコラムを再構成し転載したものです。

養鶏場に渦巻くエゴと策略

都内ではごく限定的に先行上映され、現在、全国でも順次公開の運びとなっているのだが、もしあなたがこの『殺し呼ぶ卵』の存在をすでに知っていたり、周囲に語り合える友だちがいるとしたらスゴいことだ。なぜなら好事家垂涎、レア中のレア作なのだから!

どんな映画なのか? まずは初めて当タイトルを目にした方々へ向けて、若干内容を記してみるとしよう。

『殺しを呼ぶ卵』巨大養鶏場で繰り広げられる猟奇サスペンス
(C)Licensed by MOVIETIME SRL-Rome-Italy. All Rights Reserved.

イタリアのローマ郊外にて、巨大な養鶏場を経営する男がいる。彼の妻はやり手で強気。半ば独断で放射能実験を取り入れたニワトリの卵の遺伝子操作にご執心である。

新ビジネスの場だけでなく夫婦間のヒエラルキーも彼女のほうが上で、苛立ちを募らせた男は同居中の、妻の姪に惹かれていってしまう。その姪っ子は──といえばなにかを企んでいるらしく、かたや、男にも裏の顔があって、次々と娼婦をモーテルでサディスティックに殺めている模様。

『殺しを呼ぶ卵』巨大養鶏場で繰り広げられる猟奇サスペンス
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一方で実験の結果、頭と翼のないニワトリが誕生し、ここからさらに二転三転、先の読めない面白さが持続してゆく。本邦初公開されたのは遥か昔、1968年のことで、今回は蔵出しのシーンを加えた「最長版」だ。監督のジュリオ・クエスティは残酷描写を突出させた諸行無常のマカロニ・ウエスタン『情無用のジャンゴ』(67)で世を驚かせたが、本作ではジャッロ(=猟奇サスペンス)のスタイルにモダンアートの美意識とアバンギャルドな演出、編集、音楽をぶち込み、またもやジャンルムービーを逸脱してみせたのだった。

『殺しを呼ぶ卵』巨大養鶏場で繰り広げられる猟奇サスペンス
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紳士風だが奇矯な主人公に扮したのは、昨年6月に他界したフランスの名優ジャン=ルイ・トランティニャンで、夫のアブノーマルな犯罪を暴こうと、娼婦に化ける妻役にはイタリアが誇る国際派ジーナ・ロロブリジーダが(去る1月16日に95歳で永眠。追悼!)。そしてキュートな姪役に当時18歳、スウェーデン出身のエヴァ・オーリン嬢。彼女はベストセラーが原作の『キャンディ』(68)でも有名なブロンド・ビューティだ。

登場人物たちのエゴと謀略に映画の奇想が絡んで、だんだんとニンゲンがニワトリに、ニワトリがニンゲンに思えてくる。端々の質感はニューロティックな味わいか。たとえるなら、卵が不意に落ちてグチャッと割れたときのあのイヤ~なカンジ。本作自体が“実験精神”の産み落とした畸形の映画と言えるかも。

ともあれ、コント好きならばシニカルかつ考えオチ的なラストをお楽しみに。卵を食った……もとい、人を食ったエンディングには、公開時それを体験した観客と同様、しばし「お口あんぐり状態」となることを約束する。

『殺しを呼ぶ卵』巨大養鶏場で繰り広げられる猟奇サスペンス
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『殺しを呼ぶ卵【最長版】』

『殺しを呼ぶ卵』巨大養鶏場で繰り広げられる猟奇サスペンス
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監督:ジュリオ・クエスティ
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、ジーナ・ロロブリジーダほか
配給:アンプラグド
12月2日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
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