“ラブドール造形士”がカギを握る!?高橋一生×蒼井優が夫婦役を演じた愛の物語

2020.1.30
映画『ロマンスドール』サムネイル

文=轟 夕起夫 編集=森田真規


高橋一生が主演、蒼井優がヒロインを務め、『百万円と苦虫女』や『お父さんと伊藤さん』などで知られるタナダユキ監督が原作小説も手がけた映画『ロマンスドール』。

1月24日から公開されている本作で高橋一生が扮するのは“ラブドール造形士”。その一風変わった職業が物語のカギを握る、「いい話だけども常軌を逸していて、どこか変態チックだけども感動的」な映画とは……? まずはこのレビューを読んで、そして劇場に向かってください!


「上に園子、下から見上げる哲雄」リフレインされる構図

今の気分を正直に記す。セックスがしたい……のではない。そうではなくて、俺は“メイクラブ”がしたいのだ!

──と、いきなり、赤裸々な叫びを披露することになったのは、タナダユキ監督の新作を観たからだ。タイトルは『ロマンスドール』。ラブドールではなくロマンスドール。高橋一生が主演、蒼井優がヒロインを務め、ふたりは“哲雄”と“園子”という夫婦の役を担っている。

まず、このふたりの一風変わった出会いと、唐突な告白シーンが「数センチ現実から浮いた映画の世界」へと我々を持っていく。ラブドール造形士の見習いである哲雄のもとに美術モデルの園子がやってくるのだが、それは「医療用の人工乳房制作のため」と偽った案内に騙されてのこと。何も知らない彼女は献身的に胸をはだけ、型取りをさせ、さらにはそのふくらみの“ナマ”の感触を哲雄に与える。

な、なんと不埒な! と怒りが湧き上がってこないのは、哲雄を高橋一生が演じているのと、タナダ監督が巧みに作り出した映画のトーンのせいだ。彼のユーモラスで素直な心のつぶやきと共に、胸に触れているときの真顔を仰角で捉えたショットが効いている。そして、身ごしらえをした園子が去ったあと、置き忘れてあったピアスを届けようと追いかけ、駅の階段を駆け上がり、用は済んだものの別れ際に彼女のコートの袖へと手が伸びて再度引き止めると、哲雄の口から思わず告白の言葉が。この瞬間の、「上に園子、下から見上げる哲雄」という位置関係は覚えておいたほうがいい。

ひとつの嘘がもたらしたボーイ・ミーツ・ガール。かくして映画が始まって早々に、ふたりは夫婦になる。が、哲雄はいつまでも自分の本当の職業を打ち明けられぬままで、後ろめたさが募り、また仕事へと精進すればするほど、園子とのあいだに距離ができてゆく。次第に生活時間だけでなく身も心もすれ違い、会話もセックスもなくなって危機的状況のMAXを迎える……のであるが、しかしまあ、そういった崖っぷちのカップルを描いた映画やドラマはこれまでにも無数に存在するだろう。そんな中で本作が際立っているのは、“ラブドール造形士”という設定が単に奇をてらったものではなく、その仕事の在り方、内容も含めてふたりの“愛の形”に大きく関わってくることだ。

映画は「哲雄の嘘」だけでなく、「園子の隠していた秘密」も明らかになり、新たなフェーズに転じてふたりは再び語り合い、触れ合うことを選ぶ。失いかけた“愛”を生成させるために。そう、愛とはそこに厳然として在る代物ではなく、不断に生み出してゆくもの。いやもちろん愛がなんなのか、明確には言語化などできないから、それは“愛のようなもの”か。つまりはふたりでロマンス状態を作り出してゆくのだ。当然ながら、「上に園子、下から見上げる哲雄」の構図もリフレインされる。LOVEをMAKINGしていくその“メイクラブ”の工程が美しくも哀しい。

いい話だけども常軌を逸していて、どこか変態チックだけども感動的。

なお、筆者の見立てでは哲雄のキャラクターにはタナダ監督のフェイバリットな1本、『盲獣』(1969年、監督:増村保造)の主人公が影を落としていると思うのだが、こいつは余談。まったくもう、50半ばを超えたオッサンの羞恥心を解除させ、いささか小っ恥ずかしい、かようなポエミーな一文を書かせるなんて、なかなか罪深い映画だぜ!

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轟 夕起夫

(とどろき・ゆきお)1963年東京都生まれ。映画評論家。近著(編著・執筆協力)に、『好き勝手 夏木陽介 スタアの時代』(講談社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督 塚本晋也』(ぱる出版)など。読む映画館 todorokiyukio...

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