SKY-HIが『THE DEBUT』で手にしたアーティストとしての“自由”。BMSGがもたらした表現者としての次のステージ

2022.12.25


『THE DEBUT』で抜け落ちた承認欲求

また、歌詞から刺々しいボースティングもスルッと抜け落ちた。前作『八面六臂』は『THE FIRST』が始まる前の楽曲が収録されていることもあり、暗中模索の孤独や葛藤を感じさせる場面もある。<一人のままでもいい>と虚勢を張る「Simplify Yourlife」、愛する仲間と出会う前の日々を<ずっと孤独だった 歯車の立場>と振り返る「One More Day」など、ひとりで立とうとしていたBMSG始動以前のSKY-HIの面影を感じさせる。

対して、『THE DEBUT』で綴られているリリックは肩の力が抜けたラフな悪ガキSKY-HIだ。それでいて、過去の楽曲ないしその曲を作ったころの彼自身にアンサーを提示しているように思える作品も多い。

まず、自身の受け止め方が大きく変化している。2018年にリリースされた「New Verse」では、自分のことを<アイドル崩れのJ-POP野郎 口だけ達者な世渡り上手だろう? ラップも見かけも凄い奴なんて山ほどいる 誰かの目で見るそこに生きる俺はいつもヒール>と揶揄する場面もあった。

しかし、今作の「I am」では<I am 若手スタートアップオーナー I am オリジナルアイドルラッパー I am No.1 プロデューサー I am just me>と堂々と自身のキャリアを誇示。しまいには<I am 渋谷の街の坊や I am この国造る王者 I am このゲームの勝者 I am just SKY-HI>と綴り、過去と現在を並列することでアーティスト・SKY-HIとしてブレないまま、現在の評価を手に入れたことを示唆している。

過去にも2018年リリースの「Free Tokyo」で<I‘m a Rapper I’m a Musician I’m a Human それ以外の何でもない>と歌い、同年の「Name Tag」では<Call Me Pop Star, Rock Star, I’m a Rap Star>などと綴っているが、このころは「外野になんと言われようと俺は俺だ」と周囲に認めてもらうべく嚙みついているフェーズだったように思う。しかし『THE DEBUT』では承認欲求が抜け落ち、「これもあれも俺なんで、お好きにどうぞ」といった余裕を感じさせているのだ。

また、2017年リリースの「Walking on Water」では自身の生き様を<生きてるだけで 日々ボースティング>と語っていたが、「Brave Generation -BMSG United Remix-」のバースでは<脚本演出無いMy Lifeその全てがShow Biz>と人生のすべてがショービジネスだと昇華。

SKY-HI, Novel Core, Aile The Shota, edhiii boi / Brave Generation -BMSG United Remix- (Lyric Video)

さらに「Fly Without Wings」では<誰かの希望で誰かのヒーロー 任せなよ俺がNo.1主人公>と、とてもポジティブに自分を肯定している。2018年リリースの「Dystopia」で<君の声になんて何度だってなってやるよそれが仕事 君の元に届く誤解も請け負うのがヒーロー>と歌っていた彼が、である。

そして極めつきは、髄所に出てくる“楽しい”や“遊ぼう”といったワードだ。「Happy Boss Day」では<クソ楽しく塗り替えようぜ>や<最後まで遊び尽くせ>といったリリックを交え、いつからでも新しい人生をスタートできることをキャッチーに歌い上げている。今のSKY-HIがいかにヘルシーで、いかに自分の置かれている状況を楽しんでいるかを感じることができるだろう。

SKY-HI / Happy Boss Day (Prod. Ryosuke “Dr.R” Sakai) -Music Video-

BMSGの存在が可能にしたSKY-HIの“デビュー”

いうならば『THE DEBUT』は、BMSGという精神的安全性を感じる居場所を得たことにより、自由になったSKY-HIを詰め込んだ作品だ。社長業としての重圧や社会から望まれるイメージなど、ストレスを感じる場面が増えているのは想像に難くない。しかしながら、ありのままの姿でチームBMSGと向き合えている状況や『BMSG FES’22』成功という事実は、アーティストとしての彼をこれでもかと自由にした。

「The Debut」で<仲間がたくさん一人じゃない>と言葉にしているのは、その証といってもいいだろう。愛により自由になった結果が、自分の好きに立ち返ったトラックチョイスであり、強がりを感じさせないナチュラルハイ&ストロングなリリックなのだ。

「曲もリリックも攻めているという感覚は自分の中には全然ないかな」(※2)
「「これはまさに俺だな」って感じられる。それって実は、今までになかったことなんですよ」(※3)

SKY-HI自身も上記のように語っており、フラットなテンションで制作に臨み、大好きな一枚を生み出したことがうかがえる。『八面六臂』で自身の歩んできた道と向き合い、新たなSKY-HIとして解放された作品こそ『THE DEBUT』なのだ。

「今後2年間かけて構築性の高いアルバムをもっかい作ろうと思ってますけど」(※4)とも話している、SKY-HI。純粋な野心に突き動かされている今の彼は、果たしてどんな世界を描くのだろうか。新たなデビューを飾ったSKY-HIにこんな指摘をするのは野暮なのかもしれないが、2023年は彼にとってメジャーデビュー10周年となるアニバーサリーイヤーでもある。より勢いを増し、腹いっぱいの夢を見せてくれるであろう今後の活動が今から楽しみでならない。

※2:『ぴあMUSIC COMPLEX(PMC) Vol.25』2022年、ぴあ
※3:『MUSICA(ムジカ) Vol.188(2022年12月号)』2022年、FACT
※4:『音楽と人 2023年1月号』2022年、音楽と人


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