SKY-HIの新たなデビューアルバム『八面六臂』を“オリジナルアルバム”と“客演”という視点から読み解く

2021.11.18

文=坂井彩花 編集=森田真規


2021年10月27日にリリースされた、SKY-HI(スカイハイ)3年ぶりのオリジナルアルバム『八面六臂』。「BE:FIRST(ビーファースト)」を生み出したオーディション『THE FIRST』の主催や、CEOを務める会社「BMSG」の立ち上げなど、獅子奮迅の活躍を見せる彼がこのアルバムに込めたメッセージとは──。

SKY-HIの活動を追いかけつづけ、QJWebで『THE FIRST』のレポート連載を執筆してきたライターの坂井彩花が、“オリジナルアルバム”と“客演”という視点で『八面六臂』に迫ったレビューをお届けする。

【関連】SKY-HIが今、新会社とボーイズグループを作る理由。大切なのは未来へバトンをつなぐこと


“死ぬこと・生きること・愛すること・戦うこと”を一周した3作品

オーディション『THE FIRST』の仕かけ人であり、BMSGの代表であるSKY-HI。ここ最近ではBE:FIRSTの産みの親として世間から注目されることも増えたが、本人は現役バリバリのアーティストである。

SKY-HI / To The First -The Days Of THE FIRST- (Music Video)

そんな彼が3年ぶりにリリースしたオリジナルアルバムが『八面六臂』だ。テーマは「ジャンル無⽤、ルール無⽤、あるのは⾳楽への愛のみ」。各楽曲の個性が強く、オムニバスアルバムになっても不思議でない一枚なのだが、SKY-HIの感情の動きを緻密に追ったようなコンセプティブな作品へと仕上がっている。今回は大きく分けてふたつの角度から、『八面六臂』を読み解いていきたい。

まずひとつ目は、『八面六臂』が“オリジナルアルバム”という視点だ。そもそもSKY-HIは、オリジナルアルバムを手がける際、前もってコンセプトを決めていることのほうが多い。1stアルバム『TRICKSTER』においては各曲の波があり、試行錯誤の痕跡を感じさせる出来であるものの、2ndアルバム『カタルシス』、3rdアルバム『OLIVE』、4thアルバム『JAPRISON』では、トータルで筋の通ったコンセプトアルバムとなっている。

SKY-HI 1stアルバム『TRICKSTER』(2014年)

気持ちの浄化へ願いを宿し、まっすぐに死を見つめ語った『カタルシス』。生と向き合うことに、誰かへの愛を見出した『OLIVE』。日本の息苦しい閉塞感を歌いながら、日本のラップのかっこよさを誇示した『JAPRISON』。3作のコンセプティブなアルバムを通し、SKY-HIは表現をする上で軸にしていた“死ぬこと・生きること・愛すること・戦うこと”を一周して見せたのだ。

SKY-HI 2ndアルバム『カタルシス』(2016年)
SKY-HI 2ndアルバム『カタルシス』(2016年)
SKY-HI 3rdアルバム『OLIVE』(2017年)
SKY-HI 3rdアルバム『OLIVE』(2017年)
SKY-HI 4thアルバム『JAPRISON』(2018年)
SKY-HI 4thアルバム『JAPRISON』(2018年)

『JAPRISON』の一歩先へ

その流れを経て、リリースされたのが『八面六臂』である。タイトルにダブルミーニングな側面を持たせていたり、どんなに時間がないなかでもコンセプト先行で制作へ向かっていたりした彼が、勢いでタイトルをつけ「その時々で、⼀緒に⾳楽を創りたいと思う相⼿と創り上げた」と語るのだから、今までと違うアプローチを取っていることは明白だろう。

しかし、だからといって前作と分断されているわけではないのが『八面六臂』のおもしろいところ。SKY-HIは『JAPRISON』を通して、従来の“アーティストはかくあるべし”から抜け出す必要があると訴えていた。「こういうのがウケるから」で曲を書いたり、誰かの理想像を演じたりするのは、本当に目指すべき世界なのかとリスナーに問うていた。

『八面六臂』に至っては、そういったしがらみから「ひと足お先に」と抜け出た印象がある。『JAPRISON』における「23:59」や「White Lily」のような“リスナーが求めているから”を起点とした楽曲はないし、多彩な客演はそれぞれの関係性を交えながら“SKY-HIとはどんな人か”を色濃く描いている。本当によいと思う曲を作り、取り繕わない自分を音楽で鳴らす、という難しくもシンプルなことを『八面六臂』では成し遂げているのだ。

それを成し得たのは、自分と向き合い自分をさらけ出すことを彼が選んだからなのだろう。SKY-HIは『JAPRISON』の最後に「New Verse」を置き(「Marble (Rerecfor JAPRISON)」以降の楽曲はボーナストラック的な位置づけ)、“弱い自分も愛していこう”と新しいスタートを切っている。傷ついていないふりをして、虚勢を張って生きていくのではなく、フラットな精神で今の自分がやりたいことを遂行する未来を選択した。だからこそ、結果的に『八面六臂』は感情の流れが乗った純度の高いものになったのではないだろうか。

SKY-HI / New Verse (SKY-HI TOUR 2019 -The JAPRISON-)

『八面六臂』というデビューアルバム


この記事の画像(全11枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

ライター_坂井彩花

Written by

坂井彩花

(さかい・あやか)1991年、群馬県生まれ。ライター、キュレーター。ライブハウス、楽器屋販売員を経験の後、2017年にフリーランスとして独立。『Rolling Stone Japan Web』『Billboard JAPAN』『Real Sound』などで記事を執筆。エンタテインメントとカルチャーが..

CONTRIBUTOR

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

⾃⾝の思想をカタチにする「FLATLAND」

アーティスト・モデル

森田美勇⼈

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

「BiSH」元メンバー、現「CENT」

アーティスト

セントチヒロ・チッチ

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)

最新ニュースから現代のアイドル事情を紐解く

振付師

竹中夏海

平成カルチャーを語り尽くす「来世もウチら平成で」

演劇モデル

長井 短

子を持つ男親に聞く「赤裸々告白」連載

ライター・コラムニスト

稲田豊史

頭の中に(現実にはいない)妹がいる

お笑い芸人「めぞん」「板橋ハウス」

吉野おいなり君(めぞん)

怠惰なキャラクターでTikTokで大人気

「JamsCollection」メンバー

小此木流花(るーるる)

知らない街を散歩しながら考える

WACK所属「ExWHYZ」メンバー

mikina

『テニスの王子様』ほかミュージカル等で大活躍

俳優

東 啓介

『ラブライブ!』『戦姫絶唱シンフォギア』ほか多数出演

声優

南條愛乃

“アレルギー数値”平均の約100倍!

お笑い芸人

ちびシャトル

イギリスから来た黒船天使

グラビアアイドル/コスプレイヤー

ジェマ・ルイーズ

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。