“客演”から見て取れる、変化と揺るがぬ軸
さて、ふたつ目の視点は“客演”だ。歴代のオリジナルアルバムを見ても、ここまで客演を招いた作品はなく、異色の一枚といってもいいだろう。
強いて言うなら、2018年にリリースされたミックステープ『FREE TOKYO』が“客演ばかりの作品”という側面では近しいのかもしれない。『八面六臂』が“その時々で一緒に音楽を創りたいと思う相手を誘い、一緒に創り上げた楽曲が詰まった音楽で遊び尽くしたアルバム”である一方、『FREE TOKYO』は“今やりたい人、今だから必要な声、これからのきっかけにしてくれそうなやつと共に創り上げた一枚”だ。
両作共に“一緒にやりたい人を誘った”というマインドでは共通しているが、『八面六臂』が音楽で遊び尽くしているのに対し、『FREE TOKYO』は原点回帰ならびに現在地の確認、そして音楽業界へ警鐘を鳴らしている印象さえある。そもそもの制作目的が違うので作風が異なるのは当然といえば当然なのだが、SKY-HIの中で仲間との関わり方や身の預け方が変化しているのも事実といえるのではないだろうか。
しかしながら、変わらないことも当然ある。それは“今やりたい人”を考えるにあたって、キャリアや国籍などが一切関係ないということだ。『八面六臂』でBMSGトレーニーであるREIKOやRUI、『THE FIRST』参加者のTAIKIらが客演することが話題になっていたが、才能ある若手のピックアップはSKY-HIの十八番と言っても過言ではない。
『FREE TOKYO』では「What are you talking about?」に(のちにBMSG所属となる)Novel Coreが参加していたし、プロデューサーとしての片鱗を見せた『FLOATIN’ LAB』では「WHIPLASH」にRAU DEFが名を連ねた。目の前にある才能にただただ心を震わせ自ら歩み寄っていく姿勢は、SKY-HIとして活動し始めたときから一貫してぶれていない。『八面六臂』は、彼の変化と揺るがぬ軸を“客演”に見出せる作品というわけだ。
『八面六臂』というデビューアルバム
さて、ここまで“オリジナルアルバム”と“客演”の視点から『八面六臂』を読み解いてきた。前述した内容を踏まえると、『八面六臂』がコンセプティブな作品になったのは、必然のような気がしてこないだろうか。
創った本人は「あまり計算がなかったアルバムでもあるんですよ。それが逆に純度を高めてくれて、深層心理がそのまま出やすくなったというのはすごくよかったです」(「【SKY-HIインタビュー】ストレスフルだから生まれた『八面六臂』【理詰めからリゼロへ】」、『avex portal』掲載)と話していたが、そもそもそういった作品を生み出せる土台が、彼の中にでき上がっていたのである。
信頼する仲間と寄り添い尊重し合いながら、自分らしく音楽を鳴らす。SKY-HIは『八面六臂』を通してBMSGの理念を体現し、強いアーティシズムが備わっていれば自ずとメッセージ性がついてくることを証明したのだ。
2021年6月に開催されたライブツアー『遊戯三昧』で、彼は「BMSGを設立して初めてのツアーだから、これが俺のデビューステージだと思ってる」と語っていた。その文脈を用いるならば、『八面六臂』はデビューアルバムということになる。“死ぬこと・生きること・愛すること・戦うこと”というテーマを一周し、音楽への愛から新たなスタートを切ったSKY-HI。今後の彼がどのような音楽を紡いでいくのか、ぜひその未来に期待を寄せたい。
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