『紅白』なぜ韓国多い?激減した“日本式アイドル”の課題

文=竹中夏海 編集=高橋千里


大晦日に放送される『第72回NHK紅白歌合戦』(以下:『紅白』)。今年の出場者は韓国アーティストが多いと話題になっているが、この事実により「日本のアイドル業界の課題が浮き彫りになった」と振付師・竹中夏海氏は語る。


“日本式アイドル”が激減した『紅白』

今年も大晦日がやってくる。例年どおりその日は『第72回NHK紅白歌合戦』が放送されるが、出場者が発表された際にネット上ではちょっとした議論が起きていた(毎年起きている気もするが)。

NHK 紅白歌合戦
※画像はイメージです

その矛先は特に初出場者に向けられやすい。「韓国のアイドルなんか知らない」「見たことも聞いたこともないグループを観るために受信料払ってない」。中高年層の利用者も多いツイッターではこのような不満が散見された。

若者のテレビ離れが著しいなかで、この先、若年層と年配者が認知するアーティストのズレは今までよりもさらに大きくなっていくと思う。

ただ初出場のLE SSERAFIMもIVEもデビュー間もないとはいえ、もとを辿れば、4年半前にAKB48グループ所属者が参加した韓国のオーディション番組『PRODUCE 48』から生まれたアイドルグループ・IZ*ONEの元メンバーたちを擁していて、結成時から非常に注目度も人気も高い。

IVE「ELEVEN」

JO1やNiziUもメンバーは全員日本人ではあるものの、韓国式のオーディション番組を通して選出され非常に人気を集めている。

つまり『紅白』との歴史が深いジャニーズ勢を除く、いわゆる“日本式アイドル”はもう乃木坂46と日向坂46だけなのだ。同じ坂道グループの櫻坂46は落選し、系列の48グループも2019年を最後に出場していない。

そもそも「『紅白』に選出されなければオワコン」という見方自体、これだけ選択肢の増えた現代でどうなんだ、ということについては1年前のコラムで触れたとおりだ。

それよりも『紅白』側が「テレビ離れの若年層を取り込むため」2022年にキャスティングしたのがこのラインナップだったという事実により、現在の日本のアイドル業界の課題が浮き彫りになった気がする。そこに身を置き現場に立つ私が、数年前から問題視していたことがとうとう日本中に浸透してしまった、という感覚である。

それは、「基礎の軽視」だ。

「日本はアイドルの成長過程を楽しむ」はもう古い?

先日、アイドルに明るくない人からこんな質問をされた。

「日本のアイドルファンは実力至上主義ではなく、成長する過程を楽しむ人が多い。だから韓国のようなデビュー時から完成度の高いグループはあまり人気が出ない、というのは本当ですか?」

答えは「イエスだったけど、今はそうとも言えない」だと思う。

というのも、今までアイドルファン層が実力や洗練を求めるムードは確かにあまりなかったし、現在でもその向きは大きく変化ない気がする。それよりもどれだけ楽曲がおもしろいか、とか、メンバーが荒削りながらもひと皮剥けようとするさまに“エモ”を感じる人が多い。

ところが2010年代、「アイドル戦国時代」と呼ばれたころに突入すると、爆発的にアイドルの数が増え、みんな気づいてしまったのだ。先述のようなアイドルファンは、実はそんなに多くはない、ということに。

だから本当に一部のアイドル以外は、母数の大きくないところでファンを奪い合うかたちになる。

運営が知恵を絞り、別ジャンルの音楽ファンや一般層に訴求してくれるならば健全である。しかし実情は、限られたファンからいかに利益を回収するか、ばかりを優先するところが非常に多い。その姿勢が「パフォーマンスの基礎をあと回しにする」に表れていると思う。

なぜなら、基礎は時間もお金もかかる上に利益を生む保証もないのだ。ボイトレやダンスの基礎レッスンを継続的に受けさせるよりは、新曲や振り付けに予算をかけたほうが集客できるし、アイドルたちの働き方やセカンドキャリアを考慮しなければ、技術を身につけさせるよりも特典会に時間を使ったほうが売り上げは出る。

もちろん慈善事業ではないのである程度の儲けを出すことは大切だが、「歌って踊るアイドルになれる」と銘打ってオーディションを開催しているのに、蓋を開けてみると、まともに基礎レッスンやケアを受けられずに体を壊す子はあとを絶たない。

アイドルの活動年数はこの10年でどんどん短くなり、デビューから数カ月や半年で脱退するメンバーがいても大して驚かれないような業界になってきた。

“パフォーマンススキルの高いアイドル”が支持される現代

こうして日本のアイドル文化が衰退とまでいかなくとも大きく成長も成熟もしない間に、若者たちが支持するようになったのは、韓国式のトレーニングを受けたアイドルたちだった。

デビューまでに厳しい歌やダンスのレッスンを受け、技術を磨き、さらにその中から選ばれし者だけが人前に立てる。洗練されたメンバーたちを、それまで日本式のアイドルに興味を持てなかった若年層や一般層が続々と推すようになった。

言うまでもなくその数はアイドルファンと呼ばれる層とは桁違いなのだ。つまり国民的な人気を得るためには、そういう人たちがひと目見て納得するレベルのパフォーマンスが当たり前に求められる世の中になってきたのである。

LE SSERAFIM「FEARLESS」

さらに体感で思うのは、この10年で、ダンスに関して目の肥えた若者が非常に増えた。なぜなら、ダンス人口が爆発的に増えているからである。

習い事での定番化や授業での必修化のほかに、SNSの影響は大きい。実際にどこかのダンススタジオに通うことなくTikTokで見よう見まねである程度踊れるようになった、という子にはよく遭遇する。彼ら・彼女らが思わず推したくなる水準のステージでなければならない、という時代に突入しつつあると思う。

つまりは国内でも「アイドルで人気を得るには必ずしも実力がすべてではない」の図式が崩壊しつつあるのだ。

今まで「日本と韓国のアイドルファンは求めているものが違い、うまく棲み分けされている」という大義名分のもと、基礎レッスンに時間と予算を割かなかった結果が、少なからず今年の『紅白』や年末特番の出演者に影響しているのではないだろうか。

韓国式アイドルより“デビューはしやすい”が…

ちなみに日本のアイドルすべてに悲観的になっているわけではなく、たとえば10年以上前から研修生制度があり同業のアイドルたちからも「パフォーマンス集団」といわれているハロー!プロジェクトは、着々と女性ファンを増やし、昨年とうとうファンクラブの男女比が逆転したそうだ。

指原莉乃がプロデュースする「=LOVE」は固定メンバーでスキルを磨き、着実に支持を集め、今年活動6年目にして『FNS歌謡祭』に初出演を果たしている。

韓国式ではどんなに練習を積んでも人前に立つことすらできない可能性もある。一方、日本ではデビュー“だけは”カジュアルに叶うものの、それが搾取の構造につながりやすくもなっている。

アイドルを目指す者にとって、この二択だけではない選択肢が作れないか思案しつづけたいと思う。


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