『紅白』落選アイドルは“賞味期限切れ”なのか?AKB48、モー娘。、ももクロの事例から考える「夢の到達点」

アイドル現代学

文=竹中夏海 編集=高橋千里


最新のニュースから現代のアイドル事情を考える。振付師・竹中夏海氏がアイドル時事を分析する本連載。今回は『NHK紅白歌合戦』を切り口に、アイドルの「夢の到達点」について。

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AKB48、2度目の『紅白』落選に感じる“やるせなさ”

2021年11月19日、2021年の『NHK紅白歌合戦(以下:紅白)』の出演者が発表された。

アイドル界からは、紅組に乃木坂46・日向坂46・櫻坂46の坂道グループ3組、NiziU、白組に関ジャニ∞、KAT-TUN、King & Prince、SixTONES、Snow Manが出場する。

今年でデビュー15周年のKAT-TUNのほか、昨年内定していたにもかかわらず、メンバーが新型コロナウイルスに感染したために辞退することになったSnow Manが初出場となる。

一方、2009年から11回連続出場していたAKB48は去年につづき2度目の落選となった。約1年6カ月ぶりにリリースしたシングル『根も葉もRumor』は今までのイメージを一新する難易度の高いロックダンスで話題を呼び、SNS上でのダンスコピー企画などにも力を入れていたため、メンバーの落胆もいっそう大きいようだ。

AKB48『根も葉もRumor』MV

そもそも『紅白』出場を目標に掲げるアイドル自体は年々少なくなってきているようにも感じるが、その考察はのちほどするとして、このAKB48落選へのやるせない気持ち、アイドルファンはどこかで一度経験している気がする……。

記憶の糸をたぐり寄せたときに蘇ってきたのは、8年前、2013年の『紅白』の出演者発表時だった。

『紅白』落選後、不死鳥の如く蘇ったモーニング娘。という存在

1998年のデビュー年から10年連続で出場していたモーニング娘。は、2007年を最後に長らく『紅白』から遠ざかることとなった。

ところが彼女たちは、今でこそグループアイドルの常識となった複雑なフォーメーションを取り入れたダンスパフォーマンス(+高い歌唱力はそのまま)で再注目される。メディア露出も着々と増やし、不死鳥の如く蘇ったのだ。

モーニング娘。ファンを公言する有名人もそこかしこで見かけるようになった。この年、メンバーはもちろんのこと、ハロヲタ(ハロー!プロジェクトファン)界隈も「これは『紅白』復活も間違いないだろう!?」と年末にかけて皆ソワソワしていたのを覚えている。

モーニング娘。『Help me!!』(Dance Shot Ver.)

しかし、結果は落選。私の記憶では2008年、連続出場が途絶えたモーニング娘。に、『紅白』の“中の人”は「ヒット曲がないこと」を理由に挙げていたはずだが、この年に出したシングルはすべてオリコン週間ランキングで1位を記録。「ここまでやってもだめなのか……」と一ファンとして呆然としてしまった。

奇しくも、モーニング娘。の出場が最後となっている2007年に、“アキバ枠”として中川翔子、リア・ディゾンと共に初出場したのがAKB48だ。前出のとおり、彼女たちは翌々年から『紅白』に出場しつづけることになる。

AKB48『会いたかった』

初の落選後もパフォーマンスのアップデートを止めないモーニング娘。に対し、「完全なる世代交代」「賞味期限切れ」という心ない声も多かった。そして今度は比較対象を坂道グループに変え、AKB48に同じような言葉が向けられている。

果たして『紅白』落選アイドルは、本当に“賞味期限切れ”なのだろうか?

「『紅白』だけが特別な音楽の祭典ではない」という気づき

いくらコロナ禍でここ2年おうち時間が増えたとはいえ、生配信ライブもNetflixもAmazonプライム・ビデオもDisney+もある現代において、年末の過ごし方はテレビ視聴以外の選択肢があまりにもあり過ぎる。

その影響もあってか、『紅白』を夢の到達点と考えているアイドルグループは現在、けっして多いとは言えない。

2010年代の女性アイドル戦国時代の象徴ともいえるももいろクローバーZは、結成時からたびたび『紅白』出場を目標に掲げ、2012年にとうとうその夢を叶えた。

ところがそこから3年連続で出場するも、2017年からは自らがホスト役となり、多くのゲストを招いた『ももいろ歌合戦』を主催。出演者数も生中継する媒体も、年々その規模を拡大させている。

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このような活躍がモノノフ(ももクロファン)以外にも多くのアイドルやファンに「『紅白』出場がすべてではない」と、落選に捉われないムードを少なからずもたらしたのではないかと推察する。

こうした主体的な活動のアイドル、アーティストが増えるたびに、出演者側ばかりが『紅白』に“選んでいただく”立場ではないことが証明されている気がする。

また、『紅白』初出場者もよくよく見渡せば、NHKの番組タイアップを持ったアーティストや朝ドラヒロインなどが目立つ。

テレビ朝日タイアップがあれば『ミュージックステーション』に、フジテレビなら『FNS歌謡祭』、TBSなら『音楽の日』、日テレなら『ベストアーティスト』……といった具合に、当然ながら当局と関わりの深いアーティストが出演する可能性が高い、というカラクリに気づいている人も多い。

ここ数年は、どの局も長時間のスペシャル音楽番組を放送することが増え、『紅白』だけが特別な音楽の祭典、という存在感でなくなってきているのかもしれない。

『紅白』落選を悔しがる、その経験自体がすでに財産

ただ、いくら昔ほど「『紅白』=夢の到達点」の空気感が薄れているとはいえ、アイドル自身が落選を悔んでいれば、応援してあげたいのがファンである。だけど悔しがれることがあるって、活動する上でなんて幸せなことだろう、と思うのだ。

48グループのように10年以上の歴史があり、メンバー数も多く入れ替わりが頻繁だと、新しく加入した場合は初めから非常に恵まれた環境で活動することになる。

逆にいうとそれは、小さなライブハウスからだんだん箱が大きくなったり、用意された衣装やグッズが徐々に立派なものになっていったり、という喜びを知らないままということになる。たとえどんなアリーナやスタジアムでライブをしても「自分たちの足でここまで辿り着いた」という実感はないだろう。

「悔しい」と思えるのは、それだけ今年の活動に手応えがあったから。胸を張れるだけのパフォーマンスができたから。それはたぶん、真価に気づかないまま大きなステージに立ちつづけるよりもずっと幸せな経験だと思う。

彼女たちがいつかアイドル活動を振り返ったとき、思い出して糧になるのはきっと、涙を飲んだ2021年ではないだろうか。

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