デビューから23年、ポップミュージックの最前線を走りつづけるポルノグラフィティの“本質”
1999年9月8日にシングル『アポロ』でメジャーデビューして以来、日本の音楽シーンの第一線でヒット作を生み出しつづけている岡野昭仁(Vo)と新藤晴一(Gt)によるロックバンド「ポルノグラフィティ」。
前作『BUTTERFLY EFFECT』から5年ぶりとなる12枚目のオリジナルアルバム『暁』が、8月3日にリリースされた。ここでは、ポルノグラフィティがデビューから23年にわたってポップミュージックの最前線を走りつづけている理由を、過去の楽曲や『暁』に収録された楽曲から紐解いていく。
“成熟の深さ”と“新鮮な煌めき”が融合した『暁』
先日リリースされたポルノグラフィティの12作目のオリジナルアルバム『暁』を聴いていると、20年を超えるキャリアの中で育まれた成熟の深さと、変化を恐れない姿勢が生む新鮮な煌めきが見事なバランスで溶け合う、その佇まいに圧倒されてしまった。
私が特に好きだったのは、アルバムの中盤に収められた「メビウス」という曲。新藤晴一が作詞を、岡野昭仁が作曲を手がけた一曲だ。曲を再生すればまず聴こえてくるアコースティックギターのミニマムな響きが、この曲が描く孤独で繊細な世界への最高のガイドになっている。緩急の効いたモダンなサウンドデザインは、バンドと共に編曲者としてクレジットされている、長年ポルノグラフィティの制作に関わってきたアレンジャー・tasukuの手腕によるところも大きいだろう。
歌詞も素晴らしい。よけいな説明も言い訳もない筆致が、それゆえに、聴き手と歌との間に絶妙な距離感を保証している。<やさしいあなたは わたしのくびねを/りょう手でしめ上げ 泣いてくれたのに>という歌い出しから猟奇的なイメージが流れ込んでくるが、奇をてらった下品さには陥っていない。むしろ曲を覆うのは、“愛”に隷属した人間という生き物の普遍的なかなしみと愚かしさ、そして、その愛おしさ、という感じがする。
歌詞カードを見れば、本来ならば漢字に変換されるような言葉もあえてひらがなで書かれており、それが独特の“触感”をもたらしている。ひらがな特有の柔らかさは子供っぽさを運んでくると同時に、「ここに描かれているのは裸の人間である」というイメージを見るものに植えつける。“正しさ”や“社会性”という鎧を剥がした先にいる、裸の人間である。
この「メビウス」につづく「You are my Queen」もいい。かわいらしい小品的な一曲だが、その中にも、人の心に蓋を閉めない、ポルノグラフィティらしい激しい詩情を感じる。
この『暁』というアルバムは、フルアルバムとしては前作『BUTTEFLY EFFECT』から5年ぶりの作品となる。「カメレオン・レンズ」「ブレス」「Zombies are standing out」「フラワー」「VS」、そして「テーマソング」といった『BUTTEFLY EFFECT』以降の期間でリリースされたシングル曲群も網羅的に収録されているという点ではもはやベスト盤のような作品だが、しかし、全体としてとっちらかった印象は与えないのは、ポルノグラフィティという存在の芯の強さゆえだろう。
「カメレオン・レンズ」のような、リリースされた2018年の時点でサウンドのアップデートを図った楽曲が、この2022年にもその鮮度を失わずに響くのは、彼らが単に“新しさ”になびいたわけではなく、あくまでも自らが表現すべきものをまっすぐに眼差しつづけてきた先で、その音楽性を拡張してきたことの証だといえる。
変わらず持ちつづけた“ポップミュージックの理想と秘密”
私が小学生のころに、ポルノグラフィティは「アポロ」や「ヒトリノ夜」といった楽曲で大ブレイクした。子供ながらに、ポルノグラフィティの音楽からはどこかダークで大人びた雰囲気を感じていて、テレビから流れてくる彼らの音楽を聴くことは、背伸びをした気分になるようなことだった。
普段は音楽に興味を示さない私の父親が、テレビで流れた「アポロ」を聴いて「おもしろい歌詞の歌だな」と言っていたことを思い出す。確かに、1999年にメジャーデビューシングルとしてリリースされた「アポロ」の歌詞は今聴いても鮮烈である。
<僕らの生まれてくる ずっとずっと前にはもう/アポロ11号は月に行ったっていうのに>
──1990年代が終わり、2000年代が始まろうとしている。その最中で、ポルノグラフィティは変化する時代や発達していく文明(インターネットが身近になっていったころである)を批評的に見据えながら、「自分たちは何を歌うべきなのか?」と問うていたのだろう。
1999年に世に出た「アポロ」の世界観は、この2022年においても驚くべき解像度で聴き手に迫ってくる。むしろ今のほうが、この曲で歌われていたことの理解度は高まっているのでは?とすら思える。
<みんながチェック入れてる 限定の君の腕時計はデジタル仕様/それって僕のより はやく進むって本当かい?ただ壊れてる>、<このままのスピードで 世界がまわったら/アポロ100号は どこまで行けるんだろ?/離ればなれになった悲しい恋人たちの/ラヴ・E・メール・フロム・ビーナスなんて素敵ね>
──彼らは発達していくテクノロジーを、加速していく生活や消費を、肯定的に描くだけではなく、かといって悲観的に描いているだけでもない。
ひとえに、「世界は変化していく」という前提を冷静に見据えていた。そしてその上で、こう歌っていたのである。
<僕らはこの街がまだ ジャングルだった頃から/変わらない愛のかたち探してる>
このころからポルノグラフィティはすでに、裸の人間を見つめていた。
また、「アポロ」を収録した2000年リリースのメジャー1stフルアルバム『ロマンチスト・エゴイスト』には、「ジョン」や「ディラン」というフレーズが出てくる「Century Lovers」や(「ジョン」はジョン・レノン、「ディラン」はボブ・ディランである)、あるいは「ジャニスジョプリン」の名前が出てくる「リビドー」など、1960年代的なロックアイコンがモチーフとして散りばめられている。
彼らはデビュー当時から、ポップミュージックの理想と秘密をしっかりとポケットに入れていた。そうやってデビューから23年に及ぶ歴史を歩いてきたのだ。
2022年に剥き出しになった“ポルノグラフィティの本質”
<僕らはこの街がまだ ジャングルだった頃から/変わらない愛のかたち探してる>
──20年以上も前に歌われたこの言葉から、ポルノグラフィティの眼差しが一貫しつづけてきたことを、新作『暁』は証明している。
普遍的な「愛」の探求。その中で彼らは、さまざまな弱く美しい人間たちに遭遇していく。その人間たちは、時に享楽と欲望の中で踊り、時に喪失と悔恨の中で泣く。さまざまな喜劇と悲劇がある。そんな人間模様が、冒頭に書いた「メビウス」や「You are my Queen」に、あるいは、切なくもダイナミックな「悪霊少女」や、刹那的なロマンティシズムが滲む「ジルダ」のような素晴らしい楽曲たちに結晶化されていく。
まるで愛に笑い、愛に傷つき、愛に惑う、愚かで不器用な人間の“生”そのものが、「暁」=「未来を照らす光」であるとでも言うように。
<あゝ 大地に膝ついたままで天を仰ぎ/弱き者よ どれほど待っている? 暁>(「暁」)と問い、そして、<完璧なものなど この世にはないと言うのなら あの愛はそれを/覆した ほんの一瞬 たくさんの星が証言してくれるはず>(「証言」)と決然と語るアルバム『暁』こそ、この2022年に剥き出しになったポルノグラフィティの本質である。
この『暁』を携えたツアー『18th ライヴサーキット“暁”』も、もうすぐ始まる。本作はレコーディング作品としての緻密さと新鮮さを持っているがゆえに、ライヴでロックバンドとしての肉体性を持ったときに、また新たな表情を見せるだろう。
ポルノグラフィティ『暁』
発売日:2022年8月3日
・初回生産限定盤A(CD+BD)
価格:5,500円(税込)
・初回生産限定盤B(CD+DVD)
価格:5,000円(税込)
・通常盤(CDのみ)
価格:3,300円(税込)
<CD収録内容>
01.暁
02.カメレオン・レンズ
03.テーマソング
04.悪霊少女
05.Zombies are standing out
06.ナンバー
07.バトロワ・ゲームズ
08.メビウス
09.You are my Queen
10.フラワー
11.ブレス
12.クラウド
13.ジルダ
14.証言
15.VS
<初回生産限定盤特典>
・STUDIO SESSION〜稀・ポルノグラフィティ〜
これまでライヴで演奏したことがない楽曲から、 厳選した数曲をスタジオセッションして収録。
収録曲:「Stand for one’s wish」「むかいあわせ」「オニオンスープ」「サマーページ」
・Video Clips
「ブレス」「Zombies are standing out」「フラワー」「テーマソング」
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全国25カ所(29公演)を巡る『18th ライヴサーキット“暁”』が9月22日スタート!
詳細は『暁』特設サイトをご確認ください。
【ポルノグラフィティ『暁』特設サイト】
URL:https://sp.pornograffitti.jp/akatsuki/