【母を他人と思うことで。前編】こんな母親、あり得ない。“妻子持ちキラー”の毒親へ募らせた恨み

2022.8.15

文=丸山愛菜 編集=菅原史稀


「子は親を選べない」「親ガチャ」とは、よく聞く言葉だ。親の人間性など、子の幸せに関係するとされている要件を親が満たしているのか、子は知らずして生まれる。

同時に、家族こそ最も大切にすべき人間関係であるという価値観が、今も社会に強く根づいていることも事実である。「家族の絆は絶対的である」「いつも親子は互いを思いやり合うべき」──そんな“普通の家族”の理想像からかけ離れた現状に悩み、親や自らを責める人も少なくないのではないか。

本稿では「ちゃんとした親の元に生まれたかった」「この親の元に生まれてしまったから、人生がうまくいかないんだ」と考えつづけてきたという筆者が、母を他人と思うことにより悩みから解放されるまでの軌跡を、前後編にわたって明かしていく。


大嫌いな私の母

私は、ずっと自分の母を誇ることができなかった。これが自分の親だ、と胸を張って自慢するなんて、縁がないことだと思っていた。

ブランド品が大好きで、高いものにしか興味がない。旅行へ行ってお土産を渡しても、興味がなさそうにあしらわれる。自分を「妻子持ちキラー」と自称し、その名のとおり妻子持ちの恋人が何人もいる。人付き合いが得意で老若男女から好かれる性格ゆえ、暗い性格である私の悩みはまったく理解してもらえない。

一般的な母親だったらきっと、海外で買ったお土産だったらなんだって喜んでくれるんだろう。何より無事に帰ってきたことを一番に思うはずだ。まともならば複数の妻子持ち男性と交際しないだろうし、娘が悩み苦しんでいたら、理由が何であれ寄り添ってくれるものなんじゃないか。

そんな“普通”とは到底かけ離れている母が、ずっと嫌でたまらなかった。こんな母親、あり得ない、認められない。品のよい友達のお母さんに会うたび、うらやましくてしょうがなかった。私は親ガチャに失敗したんだ、と何かにつけては母を責めた。

“妻子持ちキラーの母”とか、勘弁してくれ

私が中学3年生のころ、父が家を出ていくかたちで、両親は離婚した。母はシングルマザーとしてて、私と3個上の兄、ふたりの子供をひとりで育てた。

今考えれば、母は本当に大変だったと思う。だけど当時は、感謝よりも母への嫌悪感のほうが強かった。

配偶者がいないのをいいことに、やたら男と遊びまくる。わざわざ言わなくてもいいのに、「自分はモテる」と私にアピールする。会いたくもないのに複数の恋人を紹介され、少しでも私の愛想が悪いと机の下で足を踏んづけられる。家に帰ったら、「なんであんな態度なんだ」「威張るな」とねちねち嫌味を言われるのがお決まりだ。帰宅が深夜や早朝になることも多く、家の洗面所に定期的に補充される謎のアメニティが、ラブホテルのものだとわかったときは冗談抜きで吐き気を覚えた。

寄り添う男女の後ろ姿

自分の母親がヤリマンとか、マジで勘弁してくれ。

普通の親ならば越えない一線を、彼女は簡単に越えてしまう。人の家庭を壊しかねない行動をしているのに、何の罪悪感も抱いていない母が本当に嫌でたまらなかった。ちゃんとした親の元に生まれたかった、自分は絶対にこうはなりたくない。恨みにも似た感情を抱いていた。

自分の中で親に対する嫌悪感をはっきりと認識し始めてから、何かにつけて母に反抗するようになった。頭がよくないのも、人間関係が築けないのも、いじめられるのも、弱くてすぐに落ち込んでしまうのも、全部この人のせい。この親の元に生まれてしまったから、人生がうまくいかないんだ。


母への当てつけで始めた自傷行為

寄り添ってほしくて悩みを打ち明けても、軽く受け流されてしまう。この人には恋人という味方が何人もいるのに、私のことは誰も心配してくれない。なんで、この人は男に囲まれて幸せそうなのに、私は不幸なんだ。

そんな母への当てつけで、中学生3年生のころから自傷行為をするようになった。傷だらけになった私の腕を、母が初めて見たときの顔は忘れられない。ショックで悲しくて、どうしてこんなことになってしまったんだろう、現実を受け止められない、そんな感情が混ざったような表情をしていた。幸せで完璧な母の日常に、自分が傷をつけてやったようで、変な快感を覚えた。

思えば、私はこのときに初めて母に自分の苦しみをはっきりと主張する術を学んだ。精神的な理由から体調不良がつづいて学校や塾に行きたくないと懇願しても、「仮病だ」「甘えているだけ」と、軽んじられてしまう。自分では一生懸命やっているつもりでも、優秀な兄がいるせいで「お兄ちゃんはこれくらいできるのに」と比べられる。いつからか、この人には何を言っても無駄なんだ、私のことなんか心配してくれない、と諦めていた。

腕をカッターで切るだけで、母は慌て、取り乱し、何があったのかと問い詰めてくる。やっと私のことを気にかけてくれた。この気持ちよさを覚えてしまった私は、自傷行為がやめられなくなった。どんどん母との溝は深まり、私が社会人になってからも仲は悪いまま。

写真=筆者提供

母との関係性は一生よくならないんだろうな。しょうがない、だって毒親なんだから。当時の私はそう思っていた。

しかし23歳でひとり暮らしを始めてから、驚くほど母に対しての負の感情がどんどん薄れた。昔だったら考えられなかったけど、今や定期的に私の家に遊びに来たり、ご飯を食べに行ったり、一緒に買い物をする仲にまでなったのだ。

もちろん、顔を合わせる時間が減ったことで、親がいるありがたみを実感するようになったのもある。だけど一番は、母を“家族”としてではなく“ひとりの人間”として尊重できるようになったのが、自分にとってはすごく大きなきっかけだったように思うのだ。

後編へつづく

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丸山 愛菜

(まるやま・あいな)1996年生まれ。WEBメディアのライターを経て、ホームセンターチェーンのオウンドメディア編集部員。ぬいぐるみが大好きで、どこへでも一緒に連れていきます。

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