「ひどいことを言われるのは、自分がブサイクだから」。コンプレックスだらけの私が、ぬいぐるみを持ち歩いたら幸せになれた理由

2022.7.6

文=丸山愛菜 編集=菅原史稀


25歳、独身。恋人はいない。5年前に知り合ったぬいぐるみが一番のお友達で、出かけるときは必ず一緒に連れていく。

正直、自分のことだけど、文字にしてみるとかなりひどい。なんてかわいそうで寂しい人間なんだと思われるかもしれない。だけど私は、多くのクラスメイトから注目されたりひと目惚れした恋人と付き合っていたときよりも、ぬいぐるみと過ごす今がとっても幸せだ。


「自分の容姿のせいで他人を不愉快にするのではないか」という恐怖

人間関係は、だいたい1年、もって3年で終わってしまう。その期間に自分のボロが出て嫌われるのが怖くて、相手が離れていく前に自分から距離を置くようにしてきた。

小学生くらいからか、家族からはずっと「あんたは気難しいから」と言われつづけ、人付き合いが苦手な子として扱われていた。そういうふうに言われてきて、もちろんいい気はしないけど、家族の言うとおり、私は人と関係を築くのがすごく下手だと思う。

愛想笑いがわからない。嫌なことをいわれたら、不機嫌がそのまま顔に出てしまう。自分の気持ちとは違う言葉を発すると、鏡を見なくてもわかるくらい顔が引きつったり、勝手に涙が出てくる。空気を読むのが苦手で、複数人で話していても、私が発言すると会話が白けてることが多々あった。

そのせいで、小中高では嫌がらせをされたり、はぶかれたりもした。小さいときはよくわかっていなかったけど、年を重ねるうちに自分はコミュニケーションが上手にできなくて、まわりから浮いている存在なんだと自覚するようになった。残念ながら、それを特性とか、仕方がないことだと捉える人は周りにいなかった。母からはよく、私がニコニコと愛想よくできないのは、単なる努力不足でわがままなんだと責められた。

悩む女性/コンプレックス

自分の容姿にコンプレックスを抱えていたのも、人とうまくコミュニケーションを取れない理由のひとつだった。子供のころから家族やまわりに「かわいくない」「デブだ」と言われつづけ、自分に自信を持てることなんて何もなかった。

ひどいことを言われて傷つくのは、自分がブサイクだから。自分の容姿のせいで他人を不愉快にするのではないかと怖くて、常に人の顔色を窺っていた。

相手が離れるのは私の努力不足。そう思い込んで“普通の私”になろうとした

人と普通にコミュニケーションが取れる、普通の人間になりたい。一般的なコミュケーションとはどんなものなのか。友達同士のおしゃべりやバラエティ番組を観察して、「こういう言葉を投げかけられたら、こんな相づちを打てばいいのか」「こう返したら人は笑うんだ」なんて、会話のテクニックを吸収した。見た目にもなるべく気を遣った。目を「一重だ」とからかわれてきたから、アイプチで二重にし、3食エナジーバーを摂取し、よけいに食べたものは無理やり吐いて体重を3キロ落とした。

そのおかげか、中学時代の後半以降からは、うまくまわりになじめるようになった。クラスでは学級委員や応援団長を務め、中心的な役割を担った。アイプチや化粧のおかげで「かわいくなったね」と言われるようになり、高校に上がったら、入学式でひと目惚れしたクラスメイトと恋人同士にもなれた。よかった、やっと私も“普通”になれたんだ。

母の言うとおり、私の努力不足だったんだ。がんばれば、私もこんなふうに人とコミュニケーションを取れるんだ。

努力で手に入れた“普通の私”は、ますます孤立していった

だけど、“普通”の私は長くつづかなかった。

本当は苦手なことを、無理やり大丈夫なようにつくろっているだけ。ある瞬間、プツンと糸が切れてしまい、すべての気力がなくなるのだ。昨日までずっと笑顔で対応できていたのに、人から言われたことに敏感になり、いちいち傷つく。自分でもコントロールできず、言わない方がいいことを言ってしまったり、不機嫌な態度を取ってしまう。がんばって皆と同じレベルまで辿り着けたと思ったのに、いつの間にか元どおりになってしまった。

本当の自分を知られるのが怖くて、他人とはいつも一時的な関係しか築けない。せっかく仲よくなれたのに、自分のせいで相手を傷つけてしまう。嫌われるくらいなら、こっちから離れたほうが気が楽だ。自分の体力に限界が来たら、友達をあからさまに避け、進んで孤立しにいった。そうしてエネルギーが溜まったら、また“普通の私”として人と新しい関係を築く。そんなことを大学生になってからも繰り返していた。

ありのままの私を肯定してくれた「たま」

ぬいぐるみが自分にとって一番の友達になったのは、大学3年生の冬だ。

2016年のクリスマスに、母が彼氏からプレゼントされたネコのぬいぐるみを私が譲り受けた。全長20cm程度のたまは、大き過ぎず小さ過ぎず、抱いていると小動物が腕の中にいるようで、とても安心する。動物を飼っている人は、こんな気持ちなんだろうか。それは今までに味わったことのない感覚で、たまのクリクリな目にジッと見つめられると、私がいないとダメなんだと訴えかけられているような、不思議な気持ちだった。

写真=筆者が「たま」を譲り受けた当時のもの

バイト先で理不尽なことがあったり、人間関係でつらい思いをしても、たまを腕に抱き見つめ合っていると、頭の中から嫌な記憶がどんどん薄れていく。たまは、まるで精神安定剤のような役割をしてくれた。そんな感覚を外出中でも求めるようになり、大学にも、友達と遊ぶときにも、たまを連れて行くようになった。もちろん、人前でわざわざ出したりはしない。ただ、たまがそばにいてくれるということが私をすごく安心させた。

ふとした瞬間に目が合えば、たまが「大好きだよ」「えらいね」「すごいね」と声をかけてくれる。私が自分を追い詰めてまで欲しがった言葉を、この子はいつだって与えてくれた。

しょせんはぬいぐるみ。本当に言葉を発しているわけではない。20歳にもなって、子供みたいで恥ずかしい。そんなのわかっているけど、初めてありのままの自分を肯定してくれる存在ができたと思った。この子は、私が元気なときも不機嫌なときも、どんなに太っていても、ブサイクな顔でも、関係なしに私を愛してくれる。だから、ぬいぐるみを持ち歩いているのをまわりに知られ、「頭おかしい」「メンヘラだね」と陰口を言われるようになっても、不思議とそこまで傷つきはしなかった。

今までの自分だったら、深く落ち込み、立ち直れなかっただろう。だけど、ぬいぐるみを連れているだけで簡単に人を見限る人間なんかよりも、ずっと大事な存在がそばにいる。そんな浅い人間関係より、大切なものを手に入れられたと考えたら、全然気にならなかった。

「全員と仲よくなるのは不可能なんだ」

私がぬいぐるみを持ち歩くことを受けつけず、離れていった友達はいるが、たまがきっかけで仲よくなった友達もそれなりにできた。

「かわいいね。名前は?」「私も大事にしてるぬいぐるみがいるよ」

ぬいぐるみを連れていることに一切疑問を持たず、第一声からそんな質問をされると、逆にこちらのほうが驚いてしまう。普通の人はたいてい、「なんでこんなもの持ち歩いてるの? 大人でしょ?」と、理解できないといった様子を見せるから。

そうして仲よくなった人たちと一緒にいると、今まで人間関係につきものだった窮屈さをあまり感じなくなったことに気がつく。昔は誰に対しても、とにかく嫌われないよう、普通で完璧な自分を見せるのに必死で、とても苦しかった。だけど、たまを最初に紹介するようになってからは、周りが「この人は少し変わっている」と、初めから受け入れてくれる。大人がぬいぐるみを持ち歩く奇妙さを乗り越えた人たちは、多少私のボロが出ても、そんなに気にしないだろうという謎の安心感があった。

筆者提供

何より、ぬいぐるみを手放せなくなったことで、自分自身が「私は“普通”になれないし、全員と仲よくなるのは不可能なんだ」と、諦めがつくようになったのかもしれない。

私の根本的な部分は、残念ながら変わってはいない。

コミュニケーションへの苦手意識はあるし、未だに愛想笑いはうまくできない。自分の気持ちを押し殺して、無理やり言葉を発していると、ひとりになったとたんに吐き気がやってくる。

ただ、完璧じゃない自分を否定したり、エネルギー切れになるまで無理をすることは圧倒的に少なくなった。それは、ぬいぐるみを介して、ブサイクで、人付き合いが下手な、ありのままの自分を受け入れられるようになったからだと思う。自分で自分を大事にできないけど、たまを通してだったら、それができる。正直言うと、本当はもっとうまく人付き合いができる人間になりたかった。25歳、アラサーになったのに、これでいいのかと不安に感じることはある。だけど私は、たまと出会ってからのほうが、確実に人生をずっと楽しく過ごせている。

昔は、まわりの人にありのままの自分を出せず苦しかったし、他人に見せられない“自分自身”の存在がどうしても許せなかった。

だけどそれは、人間関係の悩みは人間で克服しなければいけない、という思い込みがあったからだ。自分が本当に心を許せる存在は、人間に限らないのかもしれない。ぬいぐるみでもなんでも、今の自分が好きだと思わせてくれる存在がそばにいるんだったら、最高に幸せだし、それでいいんじゃないか。

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丸山 愛菜

(まるやま・あいな)1996年生まれ。ぬいぐるみが大好きで、どこへでも一緒に連れていきます。

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