【母を他人と思うことで。後編】“血のつながり”という名の呪いから解放されるまで

2022.8.15

文=丸山愛菜 編集=菅原史稀


ブランド品が大好きで、高いものにしか興味がない。旅行のお土産を渡しても、興味がなさそうにあしらわれる。自分を「妻子持ちキラー」と自称し、その名のとおり妻子持ちの恋人が何人もいる。

前編では、そんな“普通”とは到底かけ離れている母がずっと嫌でたまらなかったと綴った筆者。しかしひとり暮らしを始めてから、母親との関係性にある不思議な変化が生まれたという。

「母を他人と思うことで」、彼女の中に生まれた新たな気づきとは。

前編『こんな母親、あり得ない。“妻子持ちキラー”の毒親へ募らせた恨み』はこちらから


母は発狂した。ざまあみろ、と思った。

家も職場も東京だった私は、就職しても実家に住みつづけていた。新しい会社に完全に慣れて貯金もそこそこ貯まった社会人1年目の冬、家を出る決意が固まった。正直言えば、ずっと前からひとりで暮らすことを強く願っていたわけではない。

なんとなくずっと、自分は母に縛られ、逆にまた自分も母を縛って生きていくんだろうなと思っていた。それで自分は不幸になるけどそのぶん、母も同じくらい不幸にできると考えていたのだ。だけどふとした瞬間、母から離れてみたらどうなるんだろうと気になるようになった。考え出したら、やらないと気がすまない。適当に不動産屋へ連絡し、たった1社、3つの内見だけで物件を決めた。

「ひとり暮らしするから」。そう伝えたときの母は、腕の傷を初めて見たときと同じ表情をしていた。「何が不満なのよ」「私ひとりで、この家のお金はどうするんだ」「あんたのせいで家に住めなくなる」。覚悟はしていたものの、発狂する母を見るのは久しぶりで、ぶつけられる言葉の数々に心が傷ついた。だけど同時に、「ざまあみろ」とも思った。

半年ぶりに会った母。そのとき覚えた「不思議な感覚」

引っ越してすぐに新型コロナウイルスが流行し、半年近く母とは顔を合わせなかった。どんなに嫌いな母とはいえ、さすがに体が心配だ。定期的に生存確認の連絡を取り合い、少し世間が落ち着いてきた夏ごろ、ご飯を食べに行く予定を立てた。

一緒に住んでいるときは私も母も常にピリピリしていて、ちょっとしたことでケンカが絶えなかったから、ふたりで出かけることはおろか、食事をすることもほとんどなかった。会って、どんな会話をすればいいんだろう。また嫌なことを言われて、自分が傷ついてしまわないか。不安な気持ちを抱えながら待ち合わせ場所に向かった。

女性二人組

久々に会った母は、穏やかな雰囲気をまとっていた。私に気づくと、すぐに「元気なの?」と声をかけてくれた。今までこんな優しい言葉、母に言ってもらった経験がない。体調を崩すと「仮病だ」と信じてもらえず、嫌味を言ってきた人だったのに。母がお気に入りだという中華料理屋さんでの会話は、別に特別楽しくはないけど、嫌な気持ちにもなったりはしなかった。何も考えず、まるで友達のように、母とスムーズにおしゃべりしている。不思議な感覚だった。

食事が終わったあと、ふたりで買い物へ行く流れになった。キラキラのアイシャドウが欲しいと言う母に、ショップのコスメコーナーを案内した。テスターをじっくり見ながら、どれが一番いいか真剣に悩み、アドバイスを求めてくる。なんか、すごく変な気分だ。さっきの中華料理屋といい、コスメに悩む姿といい、母がめちゃくちゃ普通の人に見える。


“あるべき母親像”への執着

家に帰り、この日に感じた違和感について考えた。私は、母となんでこんな普通に接しているんだろう。今までずっと、こうだったら悩むこともなかったのに。

きっと、原因は私のほうにある。私は、すごく寂しかったのだと思う。家族なのに、私を一番大切にしてほしいのに。自分の前では見せないうれしそうな甘い顔を、恋人の前で見せるのが悔しかった。私より、そんな不倫男と一緒にいるほうが幸せなのか。自分は愛されていないと思い込んでいた。私なんかいらないと思っているから、そんなにひどいことが言えるんだと母の発言一つひとつに反発して、被害妄想をしていた。

家族なんだから、私のすべてを理解してくれよ。

私がほしい言葉を投げかけて寄り添ってくれよ。

家族なんだから、それくらい当然だろう。

そうやって私は血のつながりを盲信し、母に無理難題を求めていたのだ。この日、やけに普通に、友達同士のように会話や買い物ができたことで、自分が無意識のうちに作り上げた“母親像”というものに執着していたことに気が付いた。

母を他人と思うことで

理不尽なことを言われるとか、親身になってくれないとか、友達であれば許容できるのに、それが親というだけで、受け入れるのが難しくなる。

写真=筆者提供

そりゃあ、家族といえど、ひとりの人間同士。理解できないことがあって当然だ。私の気持ちを全部理解して、意のままに行動するなんて、できなくて当たり前じゃないか。

母に悩みを打ち明けても、どうしてもわかってくれないのはすごく悲しい。さんざんひどいことをされたのに、謝罪されていない経験だっていくつもある。だけど、自分とは違う、ひとりの人間なんだから。悪意があろうとなかろうと、「自分なら絶対にこんなことはしない」と思うような行動でも、他の人ならしてしまうことだってあるだろう。自分とは別の人。家族だって、“他人”なんだ。

母を他人と思うことで、私はやっと、自分の家族を思いやれるようになったと思う。そして何より、「母親はこうあるべき」「そうじゃないなら、自分は大切にされていない」という呪いから、自分自身を解放できたのだ。


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丸山 愛菜

(まるやま・あいな)1996年生まれ。WEBメディアのライターを経て、ホームセンターチェーンのオウンドメディア編集部員。ぬいぐるみが大好きで、どこへでも一緒に連れていきます。

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