山下智久『正直不動産』悪を排除しないお仕事ドラマ成功の秘密を考察、感謝祭も楽しみ!

2022.6.14
正直不動産10

文=米光一成 イラスト=たけだあや 編集=アライユキコ


NHKドラマ『正直不動産』(火曜よる10時~全10回)。原作は『ビッグコミック』(小学館)連載中の同名コミック。ゲーム作家(『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『変顔マッチ』『あいうえバトル』など)でライターの米光一成がレビューする(ネタバレを含みます)。


めっちゃヤバい状況

6月7日最終回(10話「正直不動産、誕生」)を迎えた山下智久主演のお仕事ドラマ『正直不動産』。14日(火曜)NHK総合午後10時から「感謝祭」の放送である。出演者や製作者による撮影裏話や名場面などがあるらしい。楽しみ。

10話は原作漫画『正直不動産』6巻の「埋蔵文化財包蔵地」のエピソードがベースになっている。

平尾晴哉(星田英利)が、父親から相続した家を壊し、マンションを建てて、家賃収入を得ることにした。ミネルヴァ不動産の営業に乗せられてサブリース契約したのだ。
サブリース契約というのは、不動産会社がオーナーから物件を借り上げて転貸するシステムのこと。
その話を聞いた永瀬財地(山下智久)は、正直風に吹かれて「めっちゃヤバい状況やん……です」と平尾さんに率直に言う。
契約書を見直してください、と。

『正直不動産』<6巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館
『正直不動産』<6巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館

サブリース契約、文化財保護法

消費者庁のサイトにも「サブリース契約に関するトラブルにご注意ください!」というページがある。
“国土交通省の賃貸住宅管理業者登録制度による登録を受けているサブリース業者は、オーナーに対し、サブリース契約の締結前に、将来の借上げ家賃の変動に係る条件を書面で交付し、一定の実務経験者等が重要事項として説明することなどが義務付けられています。”
騙された人の自己責任などではなく、しっかりと説明義務を果たさなければならないにもかかわらず、ミネルヴァ不動産の西岡(伊藤あさひ)は説明しなかったのだ。

さらに、その土地から縄文時代の土器が出てきてしまう。文化財保護法により、発掘調査が必要となり、それが終わるまでアパートが建てられなくなってしまった。
平尾さんは困り果ててしまう。
家賃収入をあてにして新車も購入。しかも「ちなみに調査費用や発掘作業の費用は全額平尾さんのご負担になります」ということなのだ。

一方、神社にお参りした永瀬は、再び嘘がつけるようになった。
正直風が吹かなくなったのだ。壁ドンして、心にもない甘いセリフで沙友理を口説いても正直風は吹かない。


今どき珍しいバカ正直な男

ミネルヴァ不動産が管理委託料を3%も下げて、登坂不動産の顧客・藤堂さんを奪いにかかった。その藤堂さんも「嘘がつける今なら言いくるめられる!」と永瀬は突撃。
ミネルヴァ不動産よりもさらに低い管理委託料を提示して、あとでコンサル料や広告料をつけ加えればなんとなる。と嘘をつこうとしたとき。
正直風は吹かないが、榎本(泉里香)の「今のあなたの言葉からは真実がひとつも感じられません」という厳しい言葉や、月下(福原遥)の「私は今の永瀬先輩は尊敬できません」というまっすぐな言葉を思い出す。
嘘をつくことで、今まで正直さによってつながっていた関係が崩れようとしているのだ。

永瀬は、「うちは……。現状どおり5%でやらせていただけないでしょうか」と正直に言うのだ。
管理費を下げれば、管理が手薄になって住民が快適に暮らせない可能性が出てくる。
「だから、わたしは嘘がつけなかったんです」
ごまかしも、テクニックもない、まっすぐな正直営業だ。
ミネルヴァ不動産の花澤(倉科カナ)は、
「もし住民の方が出ていかれてもうちが責任を持って新たな契約者を見つけてきます」
と、こちらは住民が快適に暮らすという視点はなく、住民が出ていく可能性ありで押し通した。

藤堂が迷っているところに登場するのが第1話で登場した石田(山崎努)さんだ。藤堂さんは「先輩」と平身低頭。
「この男はいいことも悪いことも全部言う。今どき珍しいバカ正直な男だ。バカかもしれない。おれが保証する」
またしても、正直さで築き上げた人間関係によって永瀬は救われる。
藤堂は、永瀬を選んだ。

「変わっていける」という希望

不動産にまつわるエピソードを1話完結で楽しませながら、主人公永瀬が「正直さ」に目覚め周囲との人間関係を再構築するようすを、全10話かけて、じっくりと描いた。
登坂不動産に関わる登場人物たちが変わっていくようすや、頑固に変わらないようすを描きつづけた。登場した人たちは、排除されず、人間関係の網から外されなかった。
桐山(市原隼人)も、登坂不動産を辞めて出番がなくなると思いきや、しっかりと影で動くスタンスで出つづけ、永瀬に冷たいようでいて協力したりグッとくる言葉を投げかけた。

仲間だけじゃない。極悪不動産の社長として登場した鵤(いかるが)社長(高橋克典)も、悪として排除されないのだ。マダム(大地真央)が「ふたりとも愛している」という場面が最終話にあることで、ドラマが持つベクトルがはっきりと示された。
ミネルヴァ不動産の花澤さんは、凡庸なドラマなら、登坂不動産に来て仲間になる展開になっただろう。だが、花澤さんは、ミネルヴァに残って社長のやり方を変える宣言をした。

悪役をやっつけて排除するという展開にせずに、悪に見える立場の人間すらも「変わっていける」という希望を見せたところが『正直不動産』の素敵なところだ。
悪いことをしたからといって排除してしまわない社会であるべきだ。「人は変われる」のだから。


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米光一成

米光一成 (よねみつかずなり)ゲーム作家/ライター/デジタルハリウッド大学教授/日本翻訳大賞運営/東京マッハメンバー。代表作は『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『BAROQUE』『はっけよいとネコ』『記憶交換ノ儀式』等、デジタルゲーム、アナログゲームなど幅広くデザインする。池袋コミュニティ・カレッジ..

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