『正直不動産』4話 圧倒的座長な木村拓哉、関係性で輝く山下智久、主役を演じるタイプを考える

2022.5.3
正直不動産4

文=米光一成 イラスト=たけだあや 編集=アライユキコ


NHKドラマ『正直不動産』(火曜よる10時~全10回予定)。原作は『ビッグコミック』(小学館)連載中の同名コミック。ゲーム作家(『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『変顔マッチ』など)でライターの米光一成がレビューする(ネタバレを含みます)。


事故物件に住みたがる理由は

山下智久主演『正直不動産』5月3日(火曜日)NHK総合午後10時から第5話「優しい嘘」が放送だ。離婚で離ればなれになっていた月下(福原遥)の父・昌也(加藤雅也)と8年ぶりの再会の場面もあり、ライバルのミネルヴァ不動産との対決も熾烈化し、全体の大きな流れもうねり始めてきた。

祟りのせいで嘘がつけなくなってしまった主人公の永瀬財地(山下智久)。それまでは契約のためなら嘘をも厭わないライアー永瀬と呼ばれる「悪魔のような男」だったのに、祟りの風が吹くと正直に言うしかなくなってしまう。リスクやデメリットをストレートに言ってしまう。「残念ながら嘘がつけない人間」であることを(しぶしぶ)受け入れながら悪戦苦闘し(タワマンからボロ借家に引っ越して)、部下の月下と共にカスタマーファーストの道を進んでいく。

第4話は「いい部屋の定義」。
西国分寺の中古マンション12室をいくつ売るかを競う「営業強化週間」のバトルと、なぜか事故物件に住みたがるおばあさんのエピソードが描かれた。
原作漫画13巻「事故物件サイト」と3巻「あんこ業者」のエピソードがベースになっている。

『正直不動産』<13巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館
『正直不動産』<3巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館
『正直不動産』<3巻>大谷アキラ/夏原武 原案/水野光博 脚本/小学館

あんこ業者とは何か?

あんこ業者とは何か? 売り手側の業者と買い手側の業者の間に入る中間業者のこと。饅頭の中に隠れている「あんこ」のように中に入って隠れているから、こう呼ばれるらしい。この中間業者がいくつも関わってる状態のことを「あんこが詰まってる」と呼ぶとか。

「別部隊の営業マンを雇うようなもんだ」と永瀬は解説する。月下が永瀬に「どうして頼まないのか」と尋ねると、デメリットがあることを説明する。「とにかく売れればいいと思っている。客に物件のいいところしか伝えない。それがもとでトラブルになることが多い」

これは、かつての永瀬自身とだぶる。ライアー永瀬と異名を持ち、とにかく売れればいいと考え、契約のためなら嘘をも厭わなかった。
第4話は、過去の永瀬と今の永瀬の変化が大きく示された回だった。

ミネルヴァ不動産は、事故物件サイトに偽の書き込みをして登坂不動産の成約を邪魔していた。永瀬はミネルヴァ不動産に乗り込んで「あなたたちみたいな悪徳不動産のせいで、まっとうに商売をしている世の多くの不動産屋が大迷惑を被っているんですよ」と責める。だがミネルヴァ不動産の花澤(倉科カナ)にとっては「どの口が言ってるのか」案件だ。それまでさんざん永瀬がやってきた方法ではないか、と。


正直の祟りは永瀬にどう影響を与えたか

もちろん永瀬が正直営業にチェンジしたのは、祟りで嘘が言えなくなったことが直接のきっかけだ。だが、正直営業は、永瀬自身を変えていった。ミネルヴァ不動産に乗り込んで啖呵を切ったときも正直風が吹いていたわけでもないし、第4話の最後には「なんなんだ。この気持ちは。そうか。俺はうれしいんだ。長年営業やっていて初めてだ、こんな充足感は」と感じている。

第1話、石田(山崎努)の言葉「儲からないのに、なんで50年も菓子作っているのか聞いたな。大した理由じゃない。俺の菓子食うと、みんな、幸せそうな顔をする。だからつづけられた」。
第2話、悪どい値上げをしたと思っていたオーナー側にも理由があり、その間に自分が立たされているのだと気づいて仲介した経験。
第3話、駄菓子屋をやりたい老夫婦のために、家賃の値下げを不動産マダムに交渉し、カスタマーファーストを貫いた月下のがんばり。

そういったことすべてが影響して、永瀬は変わってきた。
そして、第4話では、事故物件に住みたいと願うおばあちゃん松井節子(風吹ジュン)のために、月下と協力して「すてきな事故物件」を探す。事故物件を探している理由を知り、マンションのオーナーに高齢者の需要に応える提案をする。祟りのせいでしょうがなく正直でいる永瀬から、正直営業が板についた永瀬になってきたのだ。

人は変わっていく

これは、外側からドラマを観ている者の感想でしかないのだが、日本のドラマで主役を演じるタイプは、大きくふたつに分類できると思う。

ひとつは、織田裕二や木村拓哉のように、ドラマを主役の色に染める強さを持つ座長タイプ。放映中の木村拓哉主演『未来への10カウント』(テレビ朝日)も、見事に「木村拓哉なドラマ」でおもしろい。満島ひかり、内田有紀、髙橋海人、柄本明、富田靖子、安田顕といった強力な役者陣が火花散らす演技をしながら、木村拓哉座長を中心にドラマが引っ張られていく。

もうひとつは、山下智久のように、引っ張るというよりも関係性の中でドラマを作り上げるタイプ。がんばっている姿を見て、まわりがそれを支えようとしたり、一緒にがんばっていこうと思わせる。

山崎努がツイッターでこうつぶやいている。「山下智久とは、十数年前、テレビドラマで共演して以来の付き合いで、彼がどんな人間に育って行くのかずっと楽しみにしてきました。今回カメラの前で立派な男になったことを確認、うれしかった。」

永瀬財地が、月下や、さまざまなお客さんとのふれあいの中で変わっていく姿は、ストイックに鍛錬しつづけながら新しいことにチャレンジしていく山下智久への期待やパブリックイメージと重なる部分がある。そのことが、人が変わり成長していく姿を描くドラマの説得力を生み出している。

「どんな家にも、どんな部屋にも、誰かの人生がそこにある」と語る永瀬財地を見て、ライバルの桐山は「あんた誰だ。俺の知ってる永瀬財地じゃない」と驚く。
変わっていく永瀬は、この先どうなっていくのだろうか。


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米光一成

米光一成 (よねみつかずなり)ゲーム作家/ライター/デジタルハリウッド大学教授/日本翻訳大賞運営/東京マッハメンバー。代表作は『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『BAROQUE』『はっけよいとネコ』『記憶交換ノ儀式』等、デジタルゲーム、アナログゲームなど幅広くデザインする。池袋コミュニティ・カレッジ..